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ブルボーヌ家のパーティー 1

皆様、お久しぶりです。久々の投稿になります。

 朝早くに起こされ、風呂に入れて磨きあげられ、よってたかってパーティーの準備をされたツェツェリアは、全てが整う頃にはぐったりとしていた。初めてしっかりと締められるコルセットは息苦しく。内臓が押し上げられ気分が悪い。結い上げられた髪には宝石を飾られて、頭が重い。首のネックレスも大きな宝石とプラチナで出来ており、ずっしりとしたその重みが肩にのしかかった。


 まだ、始まってもいないのよね。


 侍女やメイド、騎士達が口々に『お綺麗ですね。お美しいです』と誉め讃えてくれるが、ツェツェリアの頭の中は早く脱ぎたい。それが大部分を占めていた。


 褒めてくれた人達にどうにか愛想笑いを浮かべ、礼を言うと、セザールにエスコートされ何とか馬車に乗る。


 身体を支える靴のヒールは、今季の流行りの華奢なデザインで、気を付けなければバランスを崩しそうだ。


 行きたくない。


 馬車に揺られ、パーティー会場へと向かうツェツェリアの気分は沈んでいた。ただでさえ、馴れない格好をして気を使う上に、朝早くに起こされ疲れている。社交界には友達はおろか、知り合いすらいないありさまな。昨日、急拵えで確認したダンスはどうにか踊れるものの、間違えないか不安が否めないのだ。


 唯一顔を見たことがある人物が、主催者のブルボーヌ公爵夫人のみ。そのうえ、侯爵家以上の家門が集まる豪華客船の御披露目パーティー。


 場違いにも程があるわ。どう考えても、子爵家の娘が社交界デビューするには格式が高すぎる。夜に開かれるパーティーでないのが唯一の救いね。


 同じ生地で誂えた礼服に身を包んだ目の前の男の姿に、心の中で大きな溜息を吐いた。


 ここまで同じに揃える必要があるのかしら?何処にいてもペアだとわかるじゃ無い。それとも、これが最近の流行りなのかしら?


「ん?どうした?何か心配か?」


 何か心配かではなく、全てが心配です!とぶち撒ける事ができたなら、どんなに気が楽か…。自分は命の恩人?とはいえ、相手は大公殿下、不遜な態度をとることはできないわ。


 とはいえ、目の前の人物がツェツェリアにとっての頼みの綱に変わりないのは事実だ。彼にそっぽを向かれたら悲惨な目に遭う事だけは確定だ。


「はい、作法がわからなくて不安です。王妃様にはセザール様の横にいて、挨拶をしていれば良いと言われたのですが…」


 どうして良いかわからないから、丸投げしますと、ツェツェリアはいつになく、これ以上ないくらに愛想良く助けを乞う。

 

「ああ、それでいい。さらっと挨拶をして、一曲踊ったらさっさと帰ろう。正直、俺もパーティーは性に合わん」


 パーティー会場でのフォローと早期退出の約束を取り付けれると、ツェツェリアの気分は少しだけ上昇した。


「海上でのパーティーですよね?なら、クルーズが終わるまでは帰れないのではないのではないですか?」


「いや、出航はしない。何たって、竣工を祝うパーティーだ。停泊したまま港で行い、船内の設備や内装を見て貰う。そして、パーティー中に、今夜のナイトクルーズのチケットを売り出す。気に入った客は部屋を取り、翌日の昼過ぎまでゆっくりと楽しむってすんぽうさ」


 だから、爵位に制限を設けた昼間のパーティーだったのね。今後、この豪華客船のお客様になり得る人に宣伝をする為の。


「あの、そのような場で社交界デビューするのは…」


「気が引けるか?なあに、気にする必要はない。王妃様は実家の事業に箔をつける為、竣工パーティーで君の社交界デビューを手伝うように仕向けたんだ」


「セザール様の、いえ、王族の参加」


 王族は貴族が開くパーティーには、公平性を欠かないように基本的には参加しない。


「そうだ。だから、君が気にする必要は無い。多額の資金を投じたブルボーヌ家、今期最大の事業だ。王妃も少しでも実家の為に尽力したかったんだろう。まあ、今日はブルボーヌ公爵夫妻が上手くやってくれるさ」


 

 会場となっている船は素晴らしく。高級ホテルのようで船内とは思えない、宣伝の為、案内されて見て回っているキャビンはソファーやテーブルがあるリビングと、寝室の二間続きで、プライベートデッキも併設されている。これでスタンダードクラスというから驚きだ。本日のプレミアムクラスの部屋はパーティー中のオークションで泊まる権利を得れるとのことだ。カジノやバーのある娯楽フロアには劇やオペラを楽しめるホールもあった。


 『夜はメインホールで夜会を開催致します、宜しければ、どうぞご参加下さい』と案内役のキャビン・アテンダントが良い笑顔で決まり文句を言ったあと、パーティーの会場である最上階のオープンデッキへと案内してくれた。


「大公殿下、ディーン子爵御令嬢、いらっしゃりました」


 バトラーの声がデッキに響き渡ると、会場中の視線が二人に集まった。シャンパングラスを両手に持ったブルボーヌ夫人が周りに見せつけるようにゆったりとした足取りで、にこやかに二人の側へ近寄ってくる。


「大公殿下、本日は足をお運び下さり、ありがとうございます。レディ・ツェツェリアもよく来てくれたわね。我が家のパーティーで社交界デビューをしてくれるなんて、とても嬉しいわ」


 たった一度だけしか会ったことのないブルボーヌ夫人は、ツェツェリアに対して、まるで長年の知り合いのように接してきた。


「パーティーへのご招待ありがとうございます。公爵夫人」


 どう対応して良いか考えあぐねたツェツェリアは、当たり障りのない返事を返す。


「ふふふ、楽しんで行ってね。はい、どうぞ」


 二人に手に持っていたグラスを渡すと、背後の紳士に目配せして去って行った。夫人を皮切りに、王族と繋がりの欲しい貴族達に捕まる。ツェツェリアがうんざりし始めたころ、ブラスバンドによる演奏が始まった。


「失礼、パートナーとのファーストダンスを楽しみたいんでね」


 セザールが話し掛けてくる貴族に断りをいれ、曲が途切れた合間を見計らって、ダンスの輪に入るが、ツェツェリアの足はもう限界に近かった。


 踊ったら帰れる。あと少し頑張らないと。


 なんとか踊り終えたツェツェリアはそのままもう一曲誘おうとするセザールに懇願した。


「すみません。脚が痛くて、少し休憩したいのですが…」


 お願い座らせて!もう、限界よ!


「ああ、なら、あそこへ座ろう」


 フラフラしながら柵の側の一人掛けのソファーへ座る。


 脚が痛い。履き馴れない靴を履いたからだわ。コルセットの所為で気分も悪いし…。


「水をもらってこよう」


 引き止めなきゃ!


 ツェツェリアが引き止める隙もなく、セザールは水を貰いにウェイターの方へ歩いて行った。ツェツェリアが一人になった隙を見計らったかのように、目の前に一人の令嬢が立つ。


 立ち上がれってことよね。こっちは脚が痛いっていうのに面倒だわ。下位の者から話しかけてはならないってマナーもあるくらいだし、声を掛けられるまでは座っていても問題ないわよね?


 痺れを切らしたのか、目の前の令嬢は後からゆっくりとやってきた令嬢達に目配せすると、にっこりと意地の悪い笑みを浮かべた。


「こんにちは、ディーン子爵令嬢。貴女が挨拶に来て下さらないから、こうして、私から来て差し上げましたわ」


 ツェツェリアは王妃の言葉を思い出す。


『パーティーの最中はセザールの側にいるのよ』


 全く、その通りだわ、王妃様。


『貴女は大公妃になるのよ。礼儀は忘れては駄目ですが、喧嘩をふっかけて来る者がいたら、徹底的に踏ん付けてやりなさい』


「申し訳ございません。このパーティーにいらっしゃっているという事は、侯爵位以上の家門の方だとはおもうのですが…、何方か存じ上げませんわ?何処かでお会いしたことがございまして?」


 自分だけ座っているわけにもいかず、ツェツェリアはゆっくりと立ち上がる。後ろで様子を伺っていた貴婦人達のクスクスと先程の令嬢を嘲笑う声が聞こえる。


「まあ、ディーン子爵令嬢とは顔見知りでは無かったのですね、ターシャ嬢。それなのに挨拶に来いだなんて、ね?失礼、私はマッケーニ侯爵の娘、オフィーリアよ。宜しくね、ディーン子爵令嬢」


「マッケーニ侯爵令嬢。ツェツェリア・デール・ディーンで御座います。以後お見知りおきを」


 名を名乗ってくれたマッケーニ令嬢にツェツェリアは淑女の礼のをする。


「クスクス。自分より上の爵位の令嬢や夫人に挨拶していたら、ディーン子爵令嬢はこの船客の全ての女性に挨拶しなければならなくなりますわ」


 一言発しただけなのに、ここまで噛み付かれるなんて…。王妃様が社交界は戦場よ。と仰っていた意味がよくわかるわ。


「そう言った意味では無いわ。ただ、大公殿下とご一緒だったから、てっきり、私の事を御紹介頂いたのかと…」


 焦るターシャを他の令嬢達が嘲笑うかのように口撃する。


「まあ、大公殿下と親密みたいな口振りだこと。親密と言えば、ディーン子爵御令嬢、今日のエスコートは大公殿下ですわね。どのようなご関係ですの?」


「大公殿下はお祖父様の弟子にあたります」


 これは言ってもいいわよね?


「そうでしたわね。有名な話ですわ。そう言えば、ディーン子爵家の財政は大変なんでしょう?」


「あら、この装備具…。何処で手に入れたのかしら?」


 一人の令嬢がツェツェリアの髪飾りに手を伸ばす。ツェツェリアがその手を払い除けようとしたとき、限界だった脚がソファーの脚に絡まり、髪飾りを取ろうとした別の令嬢が突き落とす形となり、ツェツェリアはそのまま、海へ転落した。


「「キャー!」」


 令嬢達の悲鳴が聞こえ、船上が騒然とした。


 ツェツェリアは海に背中を叩きつけられた強烈な痛みと、そのまま沈んでゆくのを感じ意識を手放した。



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