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ホワイト宮 5

「では、馴れ初めを聞かれたらどう致しましょう?王妃様は何処で出会ったのか知らないと言えば良いと仰ったのですが…」


 セザールは少し考えた様子だったが、カロを呼ぶと耳打ちすると、カロはさっさと部屋から出て行った。


「それでいい。疲れたのだろう、少し休むがいい。この部屋には当分、人は来ない」


 この部屋で休めと、セザール様が仕事をしている横で?すごく居た堪れないんですけど…。ああ、だから、部屋を出て行く時のカロがなんとも申し訳無さそうな目で私を見ていたのね。


 セザールはさっさと枕代わりのクッションと、ブランケットを用意し、ツェツェリアに横になるように促すと、ツェツェリアはおずおずと横になった。




「ツェツェ…ツェツェリア」


 遠くで自分を呼ぶ声がする。パサパサとした茶色の髪で黒目のお兄様。小さい頃、我が家にいっとき一緒に住んでいたのよね。よくガタガタと震えて、泣きそうな顔をしていたわ。だから、レイモンドにするみたいによしよしってしてあげていたっけ…。そしたら、ふんわりと笑って抱きしめてくれたっけ。


「ツェツェ」


 こんな所では絶対に眠れないと思っていたのに、私、結構図太いのね。どれくらい眠ったのかしら?ふふ、懐かしい夢だった、まだ、レイモンドが小さくて…。あのお兄様、どうしてらっしゃるのかしら?


 ツェツェリアがゆっくりと瞼を開けると、そこには何故かセザールの顔があった。


 まさか、寝顔を見てたってことはないわよね?


「やっと起きたか、そんなに疲れていたのか、もう夕食の時間だ」


 セザールの耳が少し赤いような気がしたが、西日が差し込み逆光でその表情はわからない。


「もう、そんな時間なのですか?」


「ああ、先に食堂へ行ってる。外にロイがいるから、一緒に来い」


 そう言い残すと、セザールは珍しくさっさと部屋を出て行った。


 いつもなら、食堂までエスコートして下さるのに、どうしたのかしら?


 

 食事の後、レイモンドの部屋へ行くと、珍しく顔色がいい。


「レイ?遅い時間にごめんなさいね?今日は随分と顔色がいいみたいじゃない?」


「ああ、姉さん。姫様から頂いた『月の石』の効果かな?」 


 レイモンドは懐から、変哲もない角の取れた灰色の石を取り出した。


「これが月の石?」


 そこらへんに落ちている石ころにみえるけど…。


「毒を浄化する効果があるそうなんだ。姫様には誰にも言うなって言われたんだけど、姉さんには伝えたいって言ったら、それはいいって言って貰えたんだ。だから、口外無用だよ」


「ええ、勿論よ。レイ、姫様と会ったの?」


 昼間、ライラック姫はレイモンドに会いにきていたのね。


「うん。謝罪をして貰ったよ。勝手に婚約者に選んでしまって申し訳ないってね。姫様は何処ぞの侯爵家の子息求婚されているらしくて、それを回避する為に、僕の名前を出したらしい。それと、家の清掃と補修はそのお詫びだから気にしないで受け取って!と仰っていた」


 そんな事情があったなんて、姫様も大変ね。まさか、レイモンドを隠れ蓑になさるなんて、ビックリな人選だわ。


「なら、結婚はどうするの?」


「うーん。姫様は後二年、婚約者の役を引き受けて欲しいそうだ。なんなら、婚約破棄の証書も捺印した物を用意するから、二年後、こっちで日付と名前を書いて教会へ提出したらいいと言って下さった。全く、拍子抜けしたよ。契約期間がすぎても、貴方が妻の欄に名前が欲しいなら、私の名前使い続けて下さっても結構よ。と言われた時は、びっくりしたさ」


 レイモンドはそのことを思い出して肩を震わせて笑っている。


「姫様は、二年後どうされる予定なのかしら?」


「旅に出たいとおっしゃってた。見聞を広め、医学を学びたいそうだ。その為に、医学や剣術や算術など、男性しか学ばない学問にも積極的に取り組まれたそうなんだ。もし、婚約期間の間に僕が死んだらと聞いたら、僕の死を理由に医学を学ぶ旅に出ると陛下に言おうと思っているってさ。とんだ策士だろ?」


 レイモンドはすごく楽しそうに、ライラック姫について話す。


「すごく快活な方なのね」


 セザール様もライラック姫を誉めていたわね。


「ああ、女性と話している気は全くしなかったな。どちらかというと、商家の息子に近い。飽くなき探究心をお持ちだよ」


「楽しい時間を過ごせたのね。良かったわ」


 すっとレイモンドの顔が真剣な表情に変わった。


「姉さん、これも、姫様から聞いたことなんだけど、しっかり聞いてね。いい?」


「ええ」


 大事な話かしら?


「姉さんは、命を狙われている。実は、今日、改装中の我が家に賊が入って、メイドが一人殺された。そのメイドの髪が姉さんと同じ色だったんだ。実は、姫様も心配なさっていて、大公殿下を暗殺するのは難しいけど、姉さんなら簡単に人質に取ることも、殺すことも可能だろと、今後、狙われる可能性が出るから、充分に注意するようにって」


 セザールが心配して下さっていることが、現実味を帯び、ツェツェリアは背筋が寒くなるような感覚に襲われたが、レイモンドの手前、心配させまいと気丈に振る舞う。


「レイ、大丈夫よ。セザール様がいつも気にかけて下さっているわ」


 その言葉に、レイモンドは少し怒ったような素振りを見せる。


「当たり前じゃないか!あいつのせいで姉さんが狙われているんだぜ!まあ、お祖父様との約束がなけりゃあ、他の王子達と一緒の運命だったわげだけど…。お祖父様からしたら、大公殿下も僕達みたいに可愛がってたから、何としても助けたかったのかもしれないよな…」


 いきよいよく怒りに任せて喋り出したレイモンドだったが、拙いと思ったのかその声は、だんだんと尻窄みになってゆく。


「そうよね、大公殿下が原因なんだから、守って貰って当然よね?」


「本当は僕にその力があれば一番いいんだけど…」


 レイモンドの気持ちは痛いほどわかる。英雄と呼ばれる騎士達を輩出してきた家門に生まれたのだ。それを夢見るのは男としては当然だ。


「そんなことないわ。私はレイが生きてさえいてくれればいいの。だって、二人きりの家族じゃない!下手に騎士になって、戦争になんか行ってしまったら、心配でどうにかなりそうよ!」


 ツェツェリアがそう言うと、レイモンドは物悲しそうな笑顔を浮かべる。


「そう言えば、姉さん、何の用事なの?」


「今後の予定を相談しようと思って」


 ツェツェリアは、一ヶ月後に婚約者発表の夜会、そして、二ヶ月後には簡単な式を挙げることをレイモンドに伝えた。


「正式な結婚式はアールディアで行うわ」


「そっか、なら、僕は姉さんがアールディアに旅立ってから一年後には、アールディアへ行くことができるね。それまで会えないのか…、寂しいな」


「私もよ、レイ。出来れば、一緒にアールディア国へ行きたいわ」


 ライラック姫のこともあるし、そんなことは到底無理でしょうけど…。


 

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