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ホワイト宮 4

 ホワイト宮に戻ると若い女性の姿が目に入った。どうやら帰る所のようだ。簡素ではあるが、良い生地を使っていると一目でわかるワンピースを着ており、王家の象徴である金色の髪が美しい。


 ライラック姫様だわ。セザール様に会いにいらっしゃったのかしら?それとも、レイに…。


 ツェツェリアの心臓の音が速くなる。


「あら、ディーン嬢、良かったわお会いできて。今から、お茶でもいかがかしら?」


 ツェツェリアが「はい、喜んで」と返事をしようとしたのをカロが遮った。


「ライラック姫、申し訳ございません。ディーン御令嬢はお疲れのため、また、今度お誘い下さい」


「カロ、貴方に聞いてるんじゃなくてよ?何度お茶の招待状を送っても、忙しいの一点張りじゃない!いつになったら応じて下さるの?」


 え、姫様からのお茶の誘い?そんな手紙なんて頂いていないわ。


「申し訳ございません。我が主が、ディーン御令嬢のお帰りを心配なさっておいてで御座います故」


「まあ、叔父様ったら、心が狭いのね。わかったわ、今日は諦めてあげる。でも、今度は付き合ってね」


 クスクスと鈴を転がしたように笑う目の前の少女が、諦めたことにカロはほっとしたようだった。


「あ、あの、姫様。明後日はご都合いかがでしょうか?」


 ツェツェリアの口から咄嗟に言葉が飛び出る。


「勿論、大丈夫よ。カロ、ディーン嬢からのお誘いよ。ちゃんと叔父様に伝えて頂戴!キャンセルは無しって!」


 カロの困ったような顔をしりめに、楽しそうに笑いながら、ライラック姫は馬車に乗り込んで行った。


 ライラック姫は、セザール様が手紙を握り潰し、私の元へ届かないようにしていると思っていらっしゃるのね。良かった、私が返事をしない失礼な人と思われなくて…。


「さ、ディーン御令嬢、主がお待ちです。急いでください」


 急かすような、カロの言葉にツェツェリアの体は重くなる。


 ああ、また、セザールと同じ空間で見張られるのね。


「疲れたので、寝室で休んでもいいでしょうか?」


「取り敢えず、主の元へお急ぎ下さい」


 何を言っても無駄ね。


 急かされるまま、ツェツェリアはセザールの執務室へと重い足を引き摺るように急ぐ。


「主、ディーン御令嬢がお戻りです」


「遅いじゃないか!何の為にお前を付けたと思っている!」


 怒りに任せて、セザールがカロを怒鳴ると、カロはこともあろうか執務室の鍵を閉めると、先程までの紳士ぶりとは、打って変わってぞんざいな態度で悪態をつく。


「あのな、主!相手は王妃様だぞ!俺の意向が通るかっていうんだ!!下手したら、首が飛ぶわ!!」


 カロの敬意を取り払った物言いに、ツェツェリアはビックリして目をシパシパさせた。


 え?何?これ?


「おい!カロ落ち着け!」


「ああ、これが落ち着いてられるか?あのな、主、この際だから言わせてもらうが、ディーン御令嬢だって、四六時中、主のそばにいるのは限界だと思うぞ?まったく、ライラック姫の手紙は握り潰すわ!いったい何がしたいんだ!!」


 カロはこの際だとばかりに捲し立てる。


「ツェツェは俺の婚約者だ。俺のものだろ?側に置いて何が悪い!」


 ん?見張る為では無く、婚約者だから側に置く?


「オイ、婚約者を四六時中側に置く奴なんて聞いたことがないぞ?嫁ならまだしも、いや、嫁でも大概ヤバイわ!」


「そうか、こんなに美しいんだ。下手したら、連れ去られるやもしれんだろ?ただでさえ、騎士の多い男所帯だ、側に置いておかねば心配になるじゃないか!何たって、師匠の孫娘なんだぞ!何か有れば、天国の師匠に顔向できないだろ!」


 もしかして、この人、お祖父様への敬意で私を守る為に、側に置いていたの?てっきり、結婚は嫌だと言い出さないように見張る為だとばかり思っていたわ。それに美しいって!


「あのなぁ、主。此処は城の中だぞ?それに、この宮には主の部下しかいないんだ。レディに危害を加える奴なんかいないだろ?」


 カロをセザールは心底馬鹿にしたような目でセザール見る。


「その城で、俺の兄弟は皆死んだんだぞ!兄さんは毒で顔面の筋肉が硬直し動かなくなっんだ、安心できるか!全く、お前っときたら喉元過ぎれば何とやらだな!」


 そっか、そうだったわ。セザール様はこの宮で幾度となく殺されそうになったのよね…。だから、私の事を心配して下さっていただけなのね…。なのに、私ったら、息苦しいとか、自由が無いとか…。


「いや、だからと言って、コレはやり過ぎだろ?」


 睨み付けるセザールを馬鹿にしたような目を向けた。


「何かあったら、キサマは責任取れるのか!」


「ハイ、トレマセン」


 何故かカタコトで、もう、お手上げとばかりに嘆息するカロにセザールはそうだろうとばかりにツェツェリアを手招きすると、ソファーに座る事を勧めた。


「あの、主。ライラック姫様とディーン御令嬢が明後日、お茶をされるお約束をなさりました。これくらいは、お許しください。後、御令嬢ですが、大変お疲れです。ここでは無く、ベッドでご休憩なさりたいそうです。それとですね」


「まだ、あるのか」


 うんざりとした顔でセザールはカロを睨む。


「はい、これが一番重要です。ディーン御令嬢に予定をしっかりと説明しやがれ!!!あのな、婚約っていうのは相手あってのモノなんだよ!御令嬢にだって予定と心積りってもんが必要なの?わかってるのかよ!弟君と話会うこともあるだろうし、こっちの事情も理解してもらわないとならないだろ?王妃様から、御令嬢が何の説明も受けていないって聞いてびっくりしたぜ」


 カロはセザール様が説明したと思っていたのね。


「ん?ああ、ツェツェ、知らなかったのか?それは、すまない」


「はい、存じませんでした」


「今から、説明しよう。いや、疲れているんだったね」


 この機会をのがしたら、今度はいつになるかわからないじゃない!


「あっ、あの大丈夫ですので、教えて頂けますか?」


「ああ、まず、理解してもらわないといけないのが、そう長く此処にとどまることが出来ないということだ。遅くとも二ヶ月後にはアールディアへ戻らなければならない。その前に、略式ではあるが結婚式を挙げる必要がある」


 だから、王妃様がドレスを急かされていたのね。


「はい。では、私も二ヶ月後にはアールディアへ行くことになるのでしょうか?」


「ああ、そうた。アールディアは小国ではあるが、この国の砦のようなものだ。ここよりフランクだから、そんなに心配するようなことは無い。貿易が盛んでいろんな民族が混在している。貴族も此処ほど格式張っていないから、大公妃だからと気を負う必要は無い」


 少しでも、安心させようとなさって下さっているのね。お優しい方。


「わかりました。あの、王族の離婚は認められていないと聞きました」


「ああ、そうだ。結婚したら、愛人を持つ事も認められていない。ひと昔前なら、側室として迎え入れていたんだがな」


 側室制度は廃止になった。


 困ったわ。アールディア国に着いたら、愛を求めず愛人を認める代わりにレイモンドの部屋を用意して貰い。そこでひっそりとレイと暮らすつもりだったのに。


「陛下が愛人制度を廃止されたのですか?」


「ああ、だが、その発端はライラックだ」


 先程の快活そうな女性の顔が浮かぶ。


「ライラック姫がですか?」


「ああ、ライラックが5歳くらいの頃だったかな?兄さんが王座に着いてすぐだったと思う。絵本を持ってきて、この国はおかしいんじゃないか?と兄さんに問い詰めていた」


 セザールは当時を思い出して、クックと喉の奥で笑った。


「絵本ですか?」


「ああ、物語りのお姫様は王子様と結婚したら、ハッピーエンドでおしまいなのに、この国は結婚してから戦わないとならないのかってさ。結婚しない方がハッピーじゃないのかって、兄さんに詰め寄ったんだ」


 そう言われたら、そうだわ。小さな頃に読んでもらった物語りのヒロインのほとんどは、素敵な王子様と結婚して幸せになりました、だったわね。ヒロインが不幸になるのは、王子様と結婚出来なかった場合だけ。だけど、現実はその王子様と結婚した母親は、死と隣り合わせで戦っている。


「子供ならではの素直な疑問ですわね」


「兄さんも目から鱗でね。それから、他国の文献を調べたりして、今の制度を思いついた。まだ、兄さんも側室を迎える前で、大臣達は自分の門家から、テイの良い娘を選出している頃だ」


「よく、諸大臣が納得されましたわね」


 王妃に子供が産まれなかったら、どうするつもりなのかと、諸大臣が詰め寄る姿が目に浮かぶわ。陛下の舅という地位は、娘の命をかけても旨味があるわよね?


「ははは、それも、ライラック姫が解決した。私がお母様ならお父様が即位した今、他の側室を娶る前にお父様を殺しますって言ったんだ。兄さんはその理由をライラック姫聞くと、王が死んで仕舞えば、自分の産んだ王子がそのまま王となり、それ以上、戦う必要がないからだと!沢山の側室達と戦うより、王1人を殺した方が簡単でしょう?って、言ってのけたんだ。ビックリだろ?」


「まあ、豪胆であられますわね」


 子供で愛娘とはいえ、それは中々危険な発言だわ。


「ああ、そうだな。だが、陛下はその言葉に危機感を持った。だかが、5歳の娘が思い付いたのだ。妻である王妃がそれに気が付かないとは思えないとさ。大臣達を一喝されたよ。ライラック姫のモノの考え方は独特で、尚且つ優秀だ。だから、兄さんはライラック姫が不本意に担ぎ出されないかと心配しているってわけだ」


 ライラック姫は女性がする勉強に留まらず、男性しかしない分野の学習にも意欲的だと聞いたことがあるわ。その優秀なライラック姫が力のある貴族と結婚したら…。


「もしかして、レイモンドとの結婚を陛下がお許しになったのも」


「ああ、そうだ。君の家は誉れは高いが力は皆無だ。これだけ貴族がいるのに、ライラック姫を嫁がせる好条件の家は他に類を見ない」


 そんな裏事情があったなんて…。レイモンドのこと言い出せなくなったじゃない!そうだ、これは聞かなきゃ!


「あ、あの、セザール様と私の婚約の理由はどれくらいの方がご存知なのですか?」


「ああ、それも伝えてなかったな。陛下と王妃陛下、それと宰相に此処にいるカロ、そして、ゼロニアスだ。今回の婚約は、俺が君に一目惚れしたことになっている」


 なら、ライラック姫とレイモンドとの婚姻も…。ライラック姫の一目惚れでは無く、陛下のライラック姫を守る為の策の一つかも知れないってこと?ああ、もう、なんでこんなにややこしいの!明後日、ライラック姫とお話すれば、わかるかしら?話してくださるといいんだけど…。



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