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ホワイト宮 3

 だから、『結婚の約束』だけで良かったのね。


「他に知りたいことはあるかしら?」


「あっ、大公殿下と私の結婚の件はわかりました。姫様とレイモンドの結婚は、どうして、すみません。どう説明して良いのか…、レイモンドは病気もありますし、決してよい結婚相手とは言い難いもので…、もしかして、お祖父様との約束…」


 ああ、なんて伝えたら良いの?ちゃんと伝わっているかしら…。


「ふふふ、そう思いますわよね。ですが、違いますわ。安心して、ライラックが望んだことですの、初めての我儘ですから叶えてあげようと思いまして。その件は、ライラックがディーン子爵と話し合ってどうするか決めれば良いことですわ。無理強いをするつもりはありませんわよ」


 無理強いはしない、ね。ここは、迂闊なことを言うべきではないわ。


 ツェツェリアは頷くだけに留めた。


「セザールとの婚約について皆に聞かれたら、陛下を通して、セザールから求婚され、それを受けたとだけ言っておきなさい。出会いについても心当たりが無いと言って大丈夫よ。セザールに根掘り葉掘り聞ける人間は皆無ですから」


「はい」


 口調は優しいが有無を言わせぬ物言いに、ツェツェリアは了承する他ない。


「それと、セザールとの婚姻を回避しようという馬鹿なことは考えないこと、いいわね」


 王妃はツェツェリアの考えなどお見通しとばかりに、釘を刺さす。


「はい」


「わかってくれればいいの。さあ、隣の部屋にデザイナーが待機しているわ。さっさと採寸をして、ドレスを作りましょう。国についてから正式な結婚式を挙げるとはいえ、この帝国でも簡単に枢機卿に式を執り行ってもらう必要がありますから」


 あれよあれよと言う間に採寸され、ドレスのデザインや生地が決まっていく。ドレスを着るのはツェツェリアだが、口を挟む隙など無く、王妃とデザイナーが全てをさっさと決めてしまう。


「そうね、せっかくですから、腰の細さを強調した方がよいわね」


 ウエストを絞ったドレスは、王妃の好みのドレスだと、セラが言っていたわね。それを若い世代にも流行らせたいのに、上手く行かないで苦慮していらっしゃると。姫様には似合わないタイプのドレスですから…姫様のドレス選びが楽しくないとこぼしていらっしゃるんですよ。と、言っていたわ。



「ベールはどう致しましょう?」


 デザイナーはツェツェリアにレースの布地を当てて、王妃へ問う。


「長めに、その方が遠くからでも目立つわ。こんなに美しいんですもの、髪は上げて、顔が良く見えるように。大ぶりのダイヤのイヤリングを付けると、首の細さが目立つかしら?」


 ツェツェリアの意向など、全く無視されたドレスのデザインが着々と決まっていく。


 なんとも言えない鬱々とした気持ちを顔に出さないように、ツェツェリアは楽しそうな王妃に笑顔を向け続けた。


 王妃様の気分を害しないようにしなきゃ。


「王妃様、ディーン嬢は王妃様の娘のように美しいですわ」


 デザイナーの言葉にツェツェリアは慌てて否定する。


「私など、王妃様の美しさには到底及びません」


 もう、なんて事を言ってくれるの!後が怖いじゃ無い!ああ、とうぶん王妃様には会いたくないわ。王妃様から解放されても、セザール様に見張られた生活に戻るだけ、それはそれで息が詰まる。


 セザール様が気を遣って下さるのはわかる。でも、セザール様との間には越えれない厚い壁があって、肝心なことは話せない雰囲気を醸し出してらっしゃるし。こんなに近くにいるのに、遠い存在。


「一か月で仕上げて頂戴。他の服は後回しにしても構わないから」


 一か月?もしかして、式は一か月後?聞いてないわ!


「一か月でございますか?」


「ええ、一か月きっかりよ。枢機卿と教会はもう抑えてありますから」


 目を白黒させて、鸚鵡返しをするデザイナーを有無を言わずに、王妃はにっこりと笑顔で抑え込む。


 聞いてないわ!一か月後に式なんて!誰も教えてくれなかったわ!


「王妃様、式は…」


「あら、セザールから聞いて無かったの?セザールの歓迎パーティーが一か月後、その時に婚約のお披露目も致しますわ。その一月後が結婚式ですわよ、略式ですけれども。正式な式はセザールと国へ戻ってから、ゆっくりと準備をして行いなさい。教皇様のご予定もありますから、そちらはせめて半年は準備が必要ですわ」


 王妃はセザールに対して、まあ、駄目な子ねとでも言いたげな雰囲気だ。


 王妃様とセザール様は仲が良いのよね?


「教えて下さり、有り難う御座います」


「ふふふ、セザールにちゃんと話すように言っておくわ。もう、戻っていいわよ。長らく引き止めるとセザールが五月蝿いから。ロイを呼んで」


 侍女にロイを呼びに行かせると、何やらロイに話し、王妃はツェツェリアを解放した。セラの手には箱があり、王妃が何か持たせたことがわかる。


「王妃様、これは?」


「装備具よ。ドレスに似合ったものが届いていなかったでしょう。お貸し致しますわ、明日身につけなさい」


 私が明日着るドレスすら、自分で選ぶ権利はないのね。まだ、そのドレスすら見ていないのに。


 ここへ来てから、聞きたいことも聞けず、今後の予定すら相談も無く、決定しているにもかかわらず、こちらから尋ねるまで教えてすら貰えない。まるで意思のない人形のように扱われている。正直、息が詰まるわ。



 

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