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ホワイト宮 2

 この宮にきてから、ずっとセザール様に見張られている。私がこの婚姻に乗り気でないから、他の人に余計なこと(結婚したくない)を言わないようになんでしょうけど、正直息が詰まる。


 セザール様の側から離れられる時間は、弟であるレイモンドに会う時と、就寝の為、寝室に入る時、そして湯浴みの時間のみ。レイに会う時ですら、離れの前にセザール様の従者であるロイが待機している。


 王妃様がお茶に誘って下さった時でさえも、王妃様を睨む始末。


 私が王妃様に結婚したくないって、泣きつくとでも思ってらっしゃるのかしら?そんなことする勇気は無いですから!


 あの様子では、私がセザール様との婚姻を拒めば、陛下はセザール様の命を簡単に奪うのだと、疑う余地はないわね。


 何とか城で開かれる婚約発表の夜会の前に、穏便に婚約を取り止める方法と探しているんだけど、糸口すら見つからないわ。その方法があれば、セザール様もこんなに私に警戒されないわね…。


 ああ、このまま、結婚するしかないのかしら?


 付けて貰った侍女のセラには『愛されてますね』と、いい笑顔で言われたが、それは違います!とは言えないのが辛い。私との婚姻が大公殿下の生死を分けるとは知らないのよね。そのことを知っているのは、ごく僅かな人達で、それを公言してはならないことがここの生活でよくわかった。だから、レイモンドにも慌てて口止めしたわ。勿論、乳母も知らない。


 最近、婚姻のお披露目を終わらせるまで、家に帰して貰えないかもしれないという恐怖を感じるようになった。セラとロイ以外の人と話すのも良く思ってない節があるし…。


 皆、セザール様が私を見張っている事実を、愛していて片時も離したく無いと勘違いしている節があるのよね。なんとも生暖かい視線を感じるもの。もとから、遊び(女性関係の派手な)人だからか、やたらとスキンシップが多いのも皆が勘違いする原因だわ。


 実際には、そんなこと無いのに…。

 

「ディーン御令嬢。王妃様がお呼びです」


 女官がそう告げると、セザールはその女官を睨みつける。ヒッと、女官の顔色が変わり震え上がった。


「それは、断れない呼び出しか?」


 セザールの言葉に、声を震わせながら答える女官は哀れなほど萎縮している。


「明日の夜会のための打ち合わせだと伺いました」


「チッ、カロしっかり側で見張れ。後、セラも同行させろ。夜会の打ち合わせなら、セラも必要だろう」


 セザールは軽く舌打ちをし、不機嫌も露わに女官にツェツェリアを早く帰せよと圧力をかける。


 そんなに信用がない?勿論、結婚は回避したいわよ。だからって、セザール様が死んでも良いとは思って無いわ。他に道が無いならちゃんと結婚するわよ!それでも、『安心して下さい。ちゃんと結婚致します』とは言えない。セザール様が死なずに回避できるなら、それに越したことはないわ。身分不相応な結婚など幸せになれる保証など無いじゃない。


 たかが子爵家の娘が、大公妃になれば、名家出身の御夫人方は面白くない。そんな力量もかければ、愛で結ばれた婚姻でも無い。セザール様だって、扱いに困るわよね。この婚姻の約束が、どのような形で交わされたのかを知ることが出来れば一番良いんだけど…。セザール様の側には常に誰かがいて、お忙しそうで、聞く気ことが出来ないし…。


 約束をした当事者である陛下は雲の上の人で、私が会いたいからって簡単に会える人ではない。ここは、今日、こうやってお呼び頂いたんですから、王妃様に探りを入れるのが妥当よね。


 王妃様の住まうルビー宮殿は、ホワイト宮とは比べものにならないくらい豪華絢爛だった。凝った彫刻を施した階段の手摺り。光を取り入れる為の高いはめ殺しの窓はステンドグラスになり、何かの物語が描かれていて、それが、白い壁に映りとても美しい。


 廊下を抜け、一つの部屋へと通されたる。中には王妃様と高貴身分と一目でわかる中年の女性と、その背後に若い二人の女性が待っていた。


「いらっしゃい。ここに座って」


 ツェツェリアは淑女の礼をして、勧められるまま椅子に座ると、ささっと、お茶が用意される。背後の赤い髪の女性がそっなく動く。ピンクの髪の可愛らしい容姿の女性は、自分達が無視されていることに不満そうだ。


「ディーン嬢、紹介するわね。こちら、ブルボーヌ公爵夫人。私の義姉よ。明日、ブルボーヌ家て開かれるパーティーが貴女の社交界デビューの場になるわ」うぬかう


「ツェツェリア・デール・ディーンでございます。以後お見知り置きを」


 雲の上の人を紹介され、ツェツェリアに緊張がはしる。


「そんなに固くならなくていいわ。取って食べはいないから。クスクス、この子がセザール殿下の一目惚れの?まあ、可愛らしいこと」


 一目惚れ?ああ、対外的にそう紹介されているのね。


「片時も離そうとしないから、こうやって呼び出すのにも苦労したわ。可哀想に、軍議の時もセザールの執務室から出して貰えないのよ。ふふ、ね、ディーン嬢」


 二人は楽しそうにツェツェリアの顔を見るが、ツェツェリアは曖昧な笑顔を浮かべるのが精一杯だ。


 優しそうな雰囲気だけど、目の奥は笑ってないのよね。いったい何を考えているのかしら?


「まあ、ご馳走様。明日、困ったことがあったら、頼ってくれればいいわ」


「お気遣い恐れ入ります」


「礼には及ばないわ。貴女が大公殿下と結婚してくれればそれでいいのよ。では、挨拶も済みましたので、私は帰りますわね。パーティーの準備もありますので」


 ブルボーヌ公爵夫人も、セザール様が私と結婚しないと死ぬことをご存知なのかしら?


 ブルボーヌ公爵夫人が帰ると、王妃は後ろに控えていた女性を紹介した。


「彼女はマニエラよ。フロン男爵の娘なの。これから貴女の侍女となるわ」


「マニエラとお呼び下さい。お嬢様」


 有無を言わさぬ王妃に、ツェツェリアは有り難く受け入れることにした。


「お気遣いありがとうございます。マニエラよろしくお願いします」


「ディーン嬢、マニエラに敬語は不要よ」


 王妃の鋭い視線が、ツェツェリアを捕らえた。


「はい。承知致しました。ご教示有り難う御座います」


 立場を自覚しろってことかしら?


「後、ルーズベルト公爵家に身を寄せている。エミリー嬢。彼女はルーズベルト公爵の娘ですけれど、前妻との間に産まれた方だから、身分は男爵令嬢なんですの。侍女として私に仕えたいと申し入れがあったので、マニエラの下、作法を学習中なのよ」


「宜しくね、エミリー」


 ツェツェリアの返事に気をよくしたらしく、王妃は皆を下がらせる。


 部屋から出る時に、エミリーに睨まれたような気がしたんだけど、気のせいかしら?


「ディーン嬢、ツェツェリアと呼んでもいいかしら?」


 柔らかくふんわりとした、だが、その中に高潔な雰囲気を醸し出し、王妃はツェツェリアへ向き直った。


「はい」


「セザールは貴女に良くしてくれているかしら?」


 質問の意図がわからないわ。


「はい、充分お気遣い頂いております」


「そう、なら良かったわ。貴女方姉弟が、陛下からの結婚の打診に難色を示したと聞いて、驚いたのと、少し悲しかったの。本来なら、喜ぶべき話でしょう?そう思わない?」


 プライドが傷付かれた?


「はい、ですが、侯爵家以上の家門ならいざ知らず、我が家が手にするには過大な名誉に御座います。それに、弟の病気は完治する部類のものではありません。その上…」


 流石に、子供を残せないとは辛くて言えないわ。


「それが、頑なに拒んだ原因なの?」


 他にもあるのでしょう?と、王妃は促す。


「一番は、弟の身に何かあったときに、駆け付けれないことが…」


「まあ、そんなに悪いの?」


 王妃は少し驚いたような、心配しているような神妙な顔で、思案し始めた。


「心臓への負担も考えますと…」


 正直なところ、どれくらい悪いのかはわからない。だけど、少し大袈裟に言えば、もしかしたら…と、期待を込めた。


「そう、わかったわ。正直に話してくれてありがとう。確かに、そんな状態から、娘に申し訳なく思うわね…。それに、そんな弟君を残して嫁ぐのは心残りね」


 もしかしら、これが突破口になるかもしれないわ。すこし、突っ込んで聞いても大丈夫よね?


「お気遣い、有り難う御座います。あの、陛下、セザール様と私の婚約の件ですが…」


「陛下が将軍とした約束ね」


 王妃様はご存知なのね!


「はい、お恥ずかしい話、私も弟もその事実を知りませんでした。執事に確認したのですが、彼も存じておりません。もし、宜しければ詳しく内容を教えて頂くことは可能でしょうか?」


「貴方が20歳まで独身なら、セザールと結婚する。それだけよ?難しいことは無いわ」


「あの、離縁された場合は…」


 結婚が避けられ無ければ、離縁という手もあるわ。


「王族に離縁は認められていないわ。許されるのは死別のみよ。我が息子は例外ですけど…政略結婚とはいえ、生死を共に戦ってきた同志よ。王妃は実家の財も武人も、暗部も総動員して夫を守るの。離縁なんて認められたら国が揺らぐわ」


 軽率だったわ。この方も皇帝陛下と共にあの殺し合いの中、生き抜いた方だったわ。


「申し訳ございません。考えが至りませんでした」


 ツェツェリアは慌てて頭を下げ、詫びる。


「ふふ、平和になった証拠ね。理解してくれればいいよ。あの頃は、陛下も私も幾度となく死の淵を彷徨ったわ。前王妃の意向で、私は16歳になってすぐに結婚いたしましたの。王位継承能力を証明し、優良勢力に支援を仰ぐ為、なるべく早く子を成す必要があったのですわ。それだけ、沢山の貴族達の財と命を捧げたものなのです。この継承争いで家門ごと消えた家も数多あります。個人の感情だけで、離縁などすれば国の根源が揺らぎます」


 亡くなった王子の母親の家門か、もしくはその王子に嫁いだレディーの家門もしくはその両方…。そこまで、尽くしたのに裏切られたら、誰も王家に忠義を尽くさなくなる恐れがで、国が滅びる可能を孕むと仰りたいのね。


「心に刻みます」


 



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