セザール視点 4嫉妬
外を見ればいつの間にか、可愛らしい日傘をさした王太子が、楽しそうに笑うツェツェの横に寄り添うように立っている。
先程までツェツェリアの横にいたレイモンドは腕一杯の花を抱えて屋敷へ戻って来ているようだ。あれは、ツェツェが摘んだ花だろう。
アイツ、俺より忙しいはずなのに
王太子としての職務が山のようにあるだろうに、こうして、暇を作ってはツェツェの元へちょくちょくと足を運んでいる姿をよく見かける。
有能なのだ。愚直なルーディンハルトとは違い要領もよく、その上、勤勉で狡賢い。若くまだ未熟で純粋な所があったからこそ、あんな娼婦に出し抜かれて愛する人達を失うという失態を犯したのだろう。
義父にして良かった。恥知らずではないことが唯一の救いだ。
奴とツェツェリアを取り合うとなると...正直なところ勝てる気がしない。
一瞬目が合う。
はっ、めざとい奴め。わかっている、邪魔はしないさ、こっちも早々に処理しないとな...。
マリアンヌからの手紙に目を落とした。
彼女は今、城の使用人部屋の個室をあてがわれている。まあ、進んで仕事をしているということないだろ、他のメイドが自分の世話を焼かないことに、腹は立てはいるだろうがな。
ルーズベルト家が伯爵家として落ち着いたら、彼女も一緒に領地へ送られる手筈になっている。タウンハウスに足を踏み入れることができるのは、家督を継ぐ彼女の弟のみという約束だ。一生、王都へは来る事はないとは思うが、ルーディハルトが.諦めるとは思えないし、豪商の息子と婚姻し、王都へ来る可能性も無きにしも非ず。
厄介だな、王家の血筋は...
マリアンヌを妻に迎えたいと、必死に王妃に頼みこんでいるところだろう。俺の予想が外れ、マリアンヌの事などキッパリと忘れ、バルバードへ行く準備をしているのなら、もう一度、王になれるチャンスが巡ってくるかもしれんがな。
ルーディンハルトはバルバード辺境伯の一人娘との再婚が決まった。令嬢も未亡人、すでに前夫との子がいるので、子ができずとも跡取りの問題はない。
辺境伯の娘は女ながらに剣を操り、海賊か攻めてくれば自ら先頭に立つくらい勇ましいと聞いている。まあ、ルーディンハルトの好みとは対照的だな。彼は美しく表向きは嫋やかで自立していない女性が好きだから。
売られるようにして婿に行くとでも思い悲観して、何かしでかさなければ良いが。
辺境伯からすれば化けるかもしれはいいとはいえ、不良債権を引き受けた側だ。最低限の礼儀は尽くすだろうが、高待遇で両手を挙げて歓迎とは行くまい。
王妃がどんな思いをして辺境伯に頼み込んだのか、理解してはいないだろう。
マリアンヌはメイド達が住まう館に一部屋用意して貰っていると聞いているが、自ら、仕事を申し出ることなどするまい。自分の世話を、誰もやいてくれないことに腹を立て不貞腐れているのが関の山だろう。
傲慢なところがあるが、公爵令嬢であり王太子妃候補ならそれくらいは許容範囲だった。だが、今は名誉は地に落ち、身分は平民。媚びろとは言わないが、少しばかり歩み寄る姿勢くらい見せれる柔軟さがなければ、この先、貴族籍を獲ることは難しいだろう。
まあ、これが、ジャネット夫人であればメイド達を掌握して、メイドから侍女にのし上がるくらいはやってのけているだろうが...。
メイドから職業侍女になるには、三人以上の推薦が必要。尚且つ、実技、筆記ともに合格すれば、平民であろうと職業侍女にはなれる。セラがその良い例だ。
今頃は嫉妬の炎に身を焼いている可能性が高いな。その矛先がツェツェリアに向いているからこその、この手紙。
この後に及んで、自分の方が上だというマウント。手を差し出せば、押さえつけて意のままに操ろうという魂胆が透けて見える。浅はかな奴だ。
トントンと机の上の手紙を人差し指で叩く。
さて、どうしたものか...ここまで落魄れても、まだ、自分が雲の上にでもいるように考えているこれを...。




