5話
「冒険者になるなら魔物に気をつけること。全てが襲ってくる訳ではないが、人間を食べたものや深い怨讐・怒りがあるものとは命のやり取りになりかねない。心するように。ラヴィもな」
ルスがジョブを授かった後、祭司はそう言っていた。
戦う以上死と隣り合わせな事は理解しているつもりだったが、よりハッキリと心に刻まねば、とルスは思った。
「それにしても魔法使いとは意外だったわ」
街を歩きながらラヴィは言った。
「そう?」
「やっぱりこの王国では剣士が一番人気あるし、逆に魔法使いは一番人気が無いの。だから貴方みたいな人は珍しくて。あ、そういえば」
何かを思い出したようにルスの顔を見る彼女。
「改めてよろしくね、ルス」
彼女は少し微笑んで彼の名前を呼んだ。
「ああ、こちらこそよろしく。ラヴィ」
「うん。あ、あそこが武器屋ね」
目的の場所についた二人。
まずは必要な武器を調達する。
剣は売り切れているものもあったが、杖は余るほどあるらしい。
祭司に借りたお金を使い、杖だけでなく剣などの武器も一本ずつ購入した。
「魔法使いがいいなら杖だけでも良かったんじゃない?」
ラヴィは訝しげな顔でルスに問いかける。
「武器は何種類でも体にしまえるって聞いたから」
この世界では武器は自分の体にしまい込むことが可能で、武器を出し入れ出来るようにする事を体に「登録する」と呼ぶ、とラヴィは説明していた。
武器を複数登録する事も可能であり、武器を登録した際には毎回右腕にその武器の輪郭が刻まれるとのことである。
「それはそうなのだけれど…。武器を変える事が出来たとしてもジョブが変わらなければ上手く戦うことは出来ないのよ?魔法使いがただ剣を持ったとしても、魔法使いとしての強さも剣士としての強さも十二分に発揮することはできないわ」
「理解しているよ。ゆくゆくは色んなジョブを試してみたいんだ」
「それならやっぱり、今色々と買わなくても…。まあいいわ」
何か言いたげなラヴィを横目に、購入した武器の登録を始めるルス。
杖を手に持ち、手のひらで吸収するイメージをしながら力を込める。
右腕に杖の輪郭をした模様が刻まれていく。
模様が出来上がるタイミングで武器が手から消えた。
「おおー」
初めての体験に少し感動する。
「武器を出すときはその武器を出来るだけ詳細にイメージして。手のひらで握れる位置にあると思って」
ラヴィの助言の通りにイメージをする。
イメージした場所に先ほどの杖が現れた。
「すご」
「習得が速いわね。武器の出し入れは慣れれば本当に自在に出来るようになるわ」
「ありがとう」
その後、ルスは購入した全ての武器を登録し、ラヴィと冒険者ギルドへ向かった。
「それよりラヴィは本当に冒険者ギルドに入らないつもりなの?パーティとして冒険してみたいんだよね?」
歩きながらラヴィに尋ねる。
「それは…いいの。私が必要とされるようなパーティなんて無いから」
諦めたような表情だった。
「そんなことは無いと思うけど」
ルスのその言葉を聞き、ラヴィは少し悩んだ表情をした。
「私ね、少し前までとあるパーティにいたの」
ゆっくりと話し始めるラヴィ。
「昔から冒険者として色々なところに行くことに憧れがあったわ。だから武器を持てるようになってからギルドに入って、パーティに入れてもらったの。私は主に後方支援として敵を妨害したり、見方を回復したりしていたわ。攻撃も回復も得意ではないけれど、自分に出来ることをやろうって思って動いてた。でもある日メンバーたちから言われたの。『何をしているか分からない。向いていない。パーティに要らない』ってね」
「そんな」
「敵へのデバフってわかりにくいでしょう?状況が目まぐるしく変わる戦闘中なら尚更ね。私は昔から人と話すことが苦手で、自分のことも話そうとしたけど最後までうまく理解してもらえないままパーティを去ったわ」
「…」
「私なりに頑張っているつもりだったけれど、それだけじゃダメなのよね。そもそも魔法攻撃が仲間に当たりそうな事もあったし、大抵の戦闘なら回復もアイテムで間に合う。私が悪かったのよ。必要とされるような、有能な人間じゃないの」
何でもないようにラヴィは言った。
しかし、ルスには彼女の顔が今にも泣きそうな顔に見えた。
「だから私は」
「それなら僕と組もう」
「え?」
ラヴィは驚いてルスの顔を見た。
「僕とパーティを立ち上げよう。まだ分からないことだらけだし、ラヴィみたいな優秀な仲間を僕は必要としているよ」
「わ、私は」
「ラヴィは優秀だよ。僕が保証する」
ルスはきっぱりと告げる。
ラヴィは嬉しさで今にも泣きだしそうな気持ちだった。
「…うん。ありがとう」
彼女は笑顔でそう答えた。
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