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3話

「どうしたの?」


ラヴィが尋ねてくる。


「いや腕にこんな文字が浮かび上がってきて」


腕を見るとラヴィも訝しげな表情をした。


「よくわからないわ」


「僕もだ。そもそも何が瀕死になるのか分からないし。でも…」


思案しつつ続ける。


「もしこの特殊クエストが本当に有効だとしたら、一体でも魔物を倒せば十中八九僕が瀕死になるみたいだ」


そんな理不尽なことがあるのだろうか。

勝手にクエストとやらを受けたことになるなんて。

そもそもクエスト内容も分からないことだらけだ。

クエストがいつ終わるのかも、成功時何があるのかも分からない。

こんなものに振り回されるとは想定外だ。

とにかくここを乗り切らなければ。


「ラヴィ、回復以外の魔法は使える?」


「ええ」


それだけ聞ければ十分だ。

そういえば魔物たちの様子は見ていなかった。

振り返って確認すると、彼らはまだ同じ場所にいた。

助けた魔物と何か言い合っているようだ。


「もしかしたら私たちに攻撃されたわけじゃないって説得してくれてるのかも」


自分もそんな気がした。

何はともあれ距離は離せている。


「このままいけば…」


ラヴィがそう口にした頃、魔物たちがこちらに向かって一斉に走り出した。

助けた魔物だけが走れず何かを言っている。


「き、来た…!」


ラヴィがかなり焦っている。

後ろを見て納得した。

魔物の追尾は自分の想定よりも更に速かった。

かなりあった魔物たちとの差がどんどん埋まっていく。


「ラヴィ! 僕の背中に乗って!」


「え!? で、でも…」


「やって欲しいことがあるんだ! 後で説明するから、今は僕を信じてくれないか!?」


「…わかった」


ラヴィはすぐに僕の背中に乗った。

僕は彼女をおんぶすると走り出した。


(やわらか…)


彼女の足も背中にあたるものもすべてが想像以上に柔らかい。


「…ねえ、説明は?」


「ああ、そうだった」


耳元で優しく声をかけられハッと我に返る。


「まず王国への道を教えてほしい。それからさっきの杖を使ってやつらを妨害してほしい。ただ、この二つを彼らから逃げながら行ってもらうには、君の負担が大きすぎるように感じたんだ」


「…確かに魔法を使う余裕は無かったわ」


「勝手に走り出したけどこっちであっているかな」


「うん。目指す方向はあっち」


ラヴィは前方を指さす。


「ありがとう。あと二つ目は出来そう?」


距離が少しずつ縮まっている。


「うん。出来る」


彼女は手を開いて杖を出す。

そして後方に向けて杖を振り、魔法を放ったようだった。

後方を確認する。

魔物の勢いは明らかに減っていた。


「すごい。移動速度を下げる魔法?」


「うん…よくわかったね」


驚いたように彼女は言った。

魔物がダメージを受けた様子は無く、先ほどと変わらず必死に追いかけてきているところから予想したまでだった。


「大した事ないよ。それよりラヴィの方がずっと凄い」


「え?」


「あの数相手にステータス変化の魔法を正確にかけられるし、そもそも沢山魔法を知っているしね」


本心からの言葉だった。

魔法の難易度は分からないが複数体へのデバフを一度にかけられているし、見たところその効果がかなり大きい。

しかも恐らく幾つも覚えているであろう魔法の中から、最適なものを選びとっている。


「そ、そんなことないよ…」


返事は先ほどまでより小さくなった。


「それにとても優しいしね。僕の奇妙なクエストのことも覚えていてくれたんでしょ?」


正直ダメージ系の魔法が打たれていたら、ひやひやしたと思う。


「…うん」


「やっぱりラヴィは凄いね」


笑いかけるとラヴィはとても照れた顔をしていた。


「そんなに褒めないでよ…」


「こんなに優しくて優秀で可愛い子に最初に出会えて良かったって本気で思ってるのに」


「も、もうやめて!」


耐えきれなくなったのか身体を軽く叩かれる。

なかなか弄り甲斐があるなと思った。


「そ、それより全然スピード落ちないね。それどころか…」


「疲れはあるけどまだまだ大丈夫だよ。それよりだいぶ離せたんじゃない?」


「ほんとだ」


いつの間にか魔物たちの姿は見えなくなっていた。

目的地はあとどれくらいだろうか。

そんなことを考えていた矢先、視界が開けた。


「…おお」


眼前には王国が広がってた。


次回更新:1/23 19:00頃予定

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