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2話

見惚れるような整った顔立ちの彼女は、僕の事をじっと見た。


「……」


二人の間に沈黙が流れる。


「…貴方は?」


先に口を開いたのは彼女だった。

透き通る声で問いかけられる。


「僕は…えっと、記憶が無いんだ」


答えると彼女はそう、と呟く。


「ついて来て」


彼女は僕に告げると歩き出した。

思考は分からないが他に当てもないため素直に従う。


「君の名前を聞いてもいいかな?」


「…ラヴィ」


少女は答えた。


「ありがとう、ラヴィ。僕らはどこへ向かっているの?」


「王国よ」


簡潔に答えるラヴィ。


「貴方、自分の名前も覚えていないのでしょう?」


「そうなんだ」


「それなら、教会で名前を授かるといいわ。私もそうした」


「名前を決めてもらうのは、ここでは普通なのか?」


「親が名前を決めることもあるわ。ただ、教会の祭司様に名前をもらうと大物になるというジンクスがあるの。だから祭司様に決めてもらうのは珍しい事ではないわ」


「じゃあ君も…」


「私は違うわ。貴方と同じ」


ラヴィはきっぱりと言う。


「教会に拾われたの。物心つく頃には既に教会にいて、親は分からない。それまでの記憶もなかったから祭司様がつけてくださったわ」


「そうなんだ」


幾つかの果実を取り、バッグに詰めながらラヴィは淡々と説明する。

自分もそれを真似て綺麗な果実を一つだけとっていくことにした。

木からもぎ取った後、ふと横を見ると何やら廃墟のような建物があった。


「あそこにあるのは何?」


彼女に尋ねてみる。


「あれは…分からないわ。大昔の教会かしら?」


僕と同じく今存在を認知したようだ。

興味本位で一緒に向かう。


そこはやはり廃墟となった教会の様だった。

壁は所々崩れ、蔦が絡みついている。


「なんとなく親しみがあるというか、落ち着くな」


他の教会もそうなのだろうか、などと思っていると、足元に何かが落ちていた。


(何だろう)


拾い上げるとそれは指輪のようだった。

誰かに捨てられたのだろうか。

何年も放置されていたようで汚れがついてしまっている。

それでも何か惹かれるものはあった。


ラヴィの方を見ると祭壇のあったであろう方向に向かって祈りをささげていた。

自分もそれに習って、指輪を左手で握りながら祈りを捧げる。


(この世界について何も分からないが、僕はどんな事が待っていようとも乗り越えてみせる。もし、神様がいるのであればどうかご加護を。)


その時体の内側から力が湧いてくるような感覚があった。

ファンタジー世界の様だと思っていたが、こういった事は本当に効果があるのかもしれない。

と思ったその次に、左腕に一瞬鋭い痛みが走る。

腕の見た目は特に変化無い。


「何かあった?」


「いや…大したことは」


ラヴィに尋ねられそう答える。


「そう。じゃあ行きましょう」


指輪をポケットに入れ、僕らはまた歩き出した。

しばらく進むと何かが倒れてる。

小型の猿のような生き物だ。


「あれは…魔物ね」


ラヴィは最初警戒していたが、攻撃の意志がないと判断したのか魔物に近づいた。


「だいぶ弱っているみたい。どこかから逃げてきたのかしら」


「近づいて大丈夫なのか?」


「戦闘不能状態、もしくは瀕死というの。ほとんどの生き物は襲ってこないわ。」


自分も近づいて様子を見る。

ラヴィが片手を広げたかと思うと何もない空間から魔法の杖を取り出した。

そして何か念じるようにして魔物に術をかけると、魔物は少し元気になったようだった。


「すごい」


「…これくらい大したことないわ。この世界ではね」


一瞬驚いた表情をしたラヴィだったが、すぐにいつもの調子に戻った。

自分も何かしてあげたいと思い、先ほどとった果実を半分に割き、魔物の前に持っていく。

魔物はじっと見ていたが、そっと手を伸ばし果実を取った。


「ところで今の…」


話ながら果実のもう片方を魔物の近くに置いたとき、ガサガサとどこか離れたところから音がした。

音は次第に大きくなっている。


「少し離れましょう!」


ラヴィに従い駆け足でその場を去る。

直ぐに魔物のもとに仲間らしき魔物が何体も現れた。

今にもこちらに襲い掛かってきそうな雰囲気だ。


「…まずいわね」


自分もそう感じた。

仲間に駆け寄る速度を見たところ、人間と同じかそれ以上に足が速い。

戦闘能力は分からないが戦闘が出来る数に差がありすぎる。

ラヴィが全ての魔物を相手に出来るなら問題ないが、先ほどの反応からして、少なくとも余裕はなさそうだ。

いつの間にか杖が消えており、走ることに集中している。

とにかく距離を取ろうとしていたところ自分の左腕が赤く光った。


「!? 左腕が…疼く…!!」


突然の出来事と自分の台詞に頭が混乱する。


(こんな台詞、言うタイミングあるんだな…)


異世界にいるという実感が湧いた瞬間だった。

腕を見ると文字が記してあった。


『特殊クエスト:魔物を倒さない

 失敗時:瀕死になる』


「……は?」


理不尽な何かが既に始まっていた。


次回更新:1/23 12:10頃予定

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