表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3つのMが重なる時  作者: 暁 さくら
第一章 開幕
1/2

第1話 すべての始まり

「はい、これ。この間頼まれた調査依頼の書類ね。」

俺は先日頼まれた人探しに頭を抱えていた。とあるアパートの住人が人知れずに姿を消した。その部屋はカップルが住んでおり、その二人とも消えたようだ。見かけられないようになって約一ヶ月も経ったようでアパートの大家さんが相談しに来たのだった。



俺は若葉市にある水谷探偵事務所の水谷 晃だ。昔から変なところに目がいく変わり者だ。しかし、そのおかげで今の仕事についている。最初は警察から厄介者扱いされていたが、とある不倫騒動から事件に発達した時に俺の手柄で事件が解決した。それ以降、面倒な事件を俺に持ってくるようになった。そして、助手の南 朱里。ミステリーサークルに所属していた俺の後輩で一目惚れだそうだ。俺は恋愛なんか興味もないから即刻断ったのだが未だに諦めていない。俺が探偵として一人前となり、独立すると決まった時、俺のところで働きたいからと仕事を辞めてきたくらいだ。まともなやつに見えないが仕事において常に真面目で速い。だからこそ秘書として雇っている。



 昼下がりの良く晴れた日。珍しく受け持っていた事件がすべて片付き、事務所の中でくつろいでいた。

「仕事がないとほんとに何もすることがないんだから資料の片付けとかも少しは手伝ってくださいよ。」

「朱里がやった方がきれいだし、俺の場合片付けようと手を付けた瞬間にめんどうくさくなる気しかしないよ。」

納得してしまったのか無言で片づけを続ける朱里。すると事務所の呼び鈴が鳴った。

「はーい。」

俺はすぐさま返事をし、朱里に合図を出した。玄関の扉を開ける。すると、一人の女性が立っている。

「はい。」

「お願いします。人を探してほしいんです。」

パッと見で五十代くらいの女性。特別金目の物を持っているわけでもなく、ものすごく貧しい感じもない。そんな女性で涙ながらに訴えてきた。

「とりあえず、中に入って話を聞きますので、どうぞ。」

私は面会用のソファに座らせた。そして、丁度キリが良くなった朱里に目をやると何か察したように台所に向かった。女性が泣き止むまでは話を聞くための準備を進めた。朱里はお客様と晃のお茶を俺はメモ帳やノーパソを持っていく。話しながら、メモを取ったりその場で調べたりするためだ。準備が終わった朱里は俺の隣に座り、自分のノーパソを開き書類作成を始める。

 女性が泣き止んだ。ここから俺の仕事が始まる。そして、朱里は俺の隣で話を聞きながらノーパソで調査書類を作る。

「泣いてしまってすいません。」

「いえいえ。話せそうですか?」

「はい。」

「では、単刀直入に聞きますがあなたのことと探したい人について教えていただけますでしょうか。」

「はい。私は若葉市の若葉町一丁目のはずれにある双葉荘のアパートの大家をしている双葉 恵子といいます。探してほしい人は私のアパートに住んでいる大津隼人さんと石橋渚さんです。」

ここで依頼人と五人ほど写った写真を渡された。後ろにはアパートと花壇、そしてほとんどの人が軍手をして膝や靴に土がついてる。

「それは以前、アパートの住民に任意参加の花壇とアパート周りの雑草抜きを行った時に撮った写真です。この二人が行方不明になった方です。」

女性が指さすと二十代後半くらいの男女が写っている。

「アパートの住民なんですね。家賃滞納とかして失踪した感じですか?」

「いえ、二人とも真面目な人達だったので家賃を滞納させたことはないんです。ゴミ出しの日を守ったり、お世話になっているからと野菜を分けてくれたり、買い物直後の私を見かけると荷物を部屋まで運んでくれたりとすごく優しい人たちなのです。」

「そうですか。そうなると、夜逃げとかの可能性はなさそうですね。ちなみにですが、最後に見かけたのはいつですか?」

「一か月くらい前だったと思います。仕事帰りに二人で帰ってきた時に少し話したくらいです。」

「ちなみになんですが、1ヶ月全く会わなくなったと言いますが、なぜ気づけましたか?」

「毎日欠かさず新聞を受け取るのに1ヶ月分郵便受けがに溜まってたんです。今は郵便受けが溢れかえったので一時的に私が回収して保管しているんです。他の住民にも聞いたところ、全員先月から見かけてないと仰ってて、変だなぁと思いまして。」

「なるほど。ほかに何かわかることありますか?」

「最後に見た日からパタッと生活音がならなくなった事ですかね。壁が薄いので洗濯機とか掃除機の音は隣の部屋なら少し聞こえてしまうのですが、全くなら無くなったようで。一応、部屋のマスターキーを持っているので開けることは出来るのですが、さすがに……」

「そうですね。できる限り、部屋に入らなくても済む形にしたいのですが、もしかしたら必要となると思います。その際は協力していただければと思います。」

「はい。私に協力できるのでしたらお願いします。」

大家さんは深々と頭を下げた。私は大家さんの肩にポンと手をのせた。

「私も尽力を尽くしたいと思います。でも、私一人でできることは限られています。なので、もし捜索願がまだでしたら提出をしませんか?」

「はい、お願いします。」

 私は大家さんを連れて若葉警察署に向かった。警察署で手続きをし、ひとまず捜索願を出した。そして、以前から協力関係を結んでいるため、警察署の人と情報共有することとなった。



警察と連携捜査を始めてから一週間。依然として居場所をつかめない。最後にアパートで見かけた日が最後の出勤となっていたよう。近隣住民や職場の方への聞き取り調査を繰り返し行ってきたがこれ以上の情報が出る見込みがなく行き詰まっていた。

「どうにも出来ないのなら一度、二人が住んでいた部屋に行ってみる?」

「それが妥当かもなぁ。大家さんに連絡を任せられるか?」

「もちろん。」



次の日、アパートを尋ねた。部屋の中は二人が住んでいたと思われる痕跡が残っていた。部屋の物は綺麗に片付けられ、カレンダーの予定も時間まで書いてあり、部屋だけですごく真面目な人達であったと伺える。確かにカレンダーが先月のままになっていることが目に付いた。

「お話を聞く限り真面目そうなお二人がカレンダーを先月のままにするのは不自然ですね。」

「やっぱり何か事件に巻き込まれたのでしょうか?」

震え声で大家さんが尋ねてくる。

「まだ何とも言えないのです。まず、机の上にこの部屋の鍵があります。この部屋の鍵はきちんとしまっていた。ということは二人が部屋の外に行き、鍵を部屋に残したままこの部屋を施錠することは不可能。ということは、お二人はこの部屋に帰ってきてから外にも出ずに忽然と姿を消したということになります。」

「そんなことできないのでは……」

「はい、そうです。なんとも不可解な状態なんです。」

俺も大家さんもこの不可解な部屋にて頭を抱える。そして、軽く物色をする。



ふすまを開けると不思議なゾーンのようなものがある。

「なに……これ……」

さすがの俺もびっくりして何も言えなくなる。絶句している俺を心配して大家さんが声をかける。

「大丈夫ですか、探偵さん?」

声をかけたときに大家さんもふすまのゾーンのようなものを見て黙る。

 二人は黙り、静かにふすまを閉めた。

「大家さん、このことは我々の秘密にしましょう。」

「え?」

大家さんも気が動転して間抜けな声が出る。何年も探偵をしている俺ですらびっくりして何も言えなくなるのにごく普通の大家さんが驚かないわけがない。

「この不思議なゾーンの存在を知ったらほかの人は混乱をします。私は後程、警察に話してどうするかを決めます。が、大家さんは基本的に誰にも言わないでください。」

「は、はい。」

「今日はすいません。引き続き調査を続けますのでしばらくはゆっくり休んでください。」

「ありがとうございます。」

 俺たちは部屋を出て、扉を閉めた。そして、大家さんを見送った。



状況が読み込みないまま、行きつけの喫茶店に入った。

「いらっしゃい。今日もいつものでいいかな?」

「ありがとう、マスター。」

マスターはコーヒーと角砂糖を準備してくれた。

「はい、いつもの。」

俺は角砂糖を5つコーヒーに入れた。ブラックコーヒーも好きだが事件に詰まった時はいつも甘いコーヒーが飲みたくなる。

「また、厄介な事件かい?」

「ああ。今回は少しばかり面倒なことになりそうだ。」

「そうか。君はまだ若いんだから生き急ぐことは無い。自分の身は自分が守らなくてはならない。朱里くんが心配するような無茶はしないようにな。」

「そうだな。」

俺はコーヒーを啜りながら考える。あの、ゾーンの様な存在について。もちろん、考えたってあんなものに答えは出せない。が、考えることをやめては行けないとどことなく思ってしまった。

「考えすぎても答えは出ない。時には考えることもやめて、そのことを受け入れることも大切。」

マスターは俺を見てニコッとする。そうだ、あの存在のことを考えたってわかるわけない。それよりも、ゾーンのようなものに住民が巻き込まれたかもしれないことを考えていかねばいけない。

「マスター、ありがとう。」

俺は空になったカップの隣にコーヒー代を置いて、お店を出た。



事務所に戻ると、朱里はパソコンをいじっていた。

「おかえり。ほんのりコーヒーの香りがするけど、マスターの所に行ってきた?」

「まあな。」

「やっぱり今回は難事件?」

「そうだな。お前には今日のこと、ちゃんと話しておかないといけないかもな。」

「ん?」

首を傾げる朱里を横目に俺は部屋で見た不思議なゾーンのようなものについて話した。

「ゾーンみたいなやつか。確かに普通には存在しない物だけどあるのならば認めるしかないよね。でも、そういうのって基本的には異世界とか別次元とかに行く感じなのかな?」

「多分、そうだと思う。なんか、こっちとは違う空気感だったし。とりあえず、ゾーンのようなやつを解明しないといけないが行ってみるしか選択肢はなさそうなんだよ。でも、未知数過ぎてだな……」

「こちら側で調べられることがあればいいけど少ないよね。そういえばだけど、恋人の二人がそのゾーンでどこかに行ってしまったとして一か月も帰ってきていないということは向こうからはこっちに来られないのかな?」

「確かに。帰るのが別のゾーンで見つかっていないからとかならわかるけど、行ったら行ったままだとしたらどうしようもできないな。」

俺と朱里はどうにか方法がないものかと模索し続けたが、一向に答えが出ず、二人とも疲れきってソファの上で寝てしまった。



 次の日、俺は警察を呼び、ゾーンの存在を話した。やはり何年もかかわっている人たちだが、最初は「冗談だろ~」と茶化してきた。しかし、俺が本気で話しているのを受けて、信じるようになってくれた。もちろん、大家さんも見たこと、そして精神的に疲れているからしばらくは深追いして追求しないことも伝えた。

「おいおい、ファンタジーじゃあるまいしどうしろっていうんだよ。」

「さすがに警察でも調べるのは難しいよな。」

「そうだな。人命がかかっているとはいえ俺らも部下たちに指示が出せない。一人でもいいからだれか来たらいいんだがな。」

「だよな。もう少し様子を見る感じか。」

「とりあえず一週間から二週間は様子見だな。」

「俺はもう少し調べてみる。また何か進展があったら連絡する。」



 俺は次の日からも調査に勤しんだ。しばらくはほかの調査依頼は引き受けない形として、今回の事件に徹底的に集中することにした。人やペット探しは知り合いの探偵に浮気調査などは後日などにした。



 ゾーンを見つけてから約十日が経った。正直、俺の心は折れかけていた。1ヶ月も向こう側から誰も訪れないということは行ったきりかもしれないと。



この日の夕方、とあるニュースが世間を騒がせた。三日ほど前から魔法が使える不思議な人が現れたと。俺はもしかしたらゾーンのヒントになるかもとワイドショーを確認し、聞き込み調査を行った。最初に見かけたのは若葉市の二丁目。ゾーンが見つかったアパートのすぐ隣にあるため、急いで調べる。



 聞き込み調査を重ね、若葉市の二丁目の路地裏に不思議な人を見かける。

「ここは……どこなんだよ。」

道でさまよう中世ヨーロッパのような恰好をしている人がいる。俺は急いで駆け寄った。

「ねえ、君はこの世界に迷い込んだのかい?」

「そうなんだよ!僕はこの世界に迷い込んだんだ!って、なんでそんなことが分かるんだい?」

「君が通ってきたであろうゾーンは俺も知っている。もしよければ、君をあっちの世界に帰ることに協力するから君も俺たちに手伝ってほしい。」

「手伝いって何をさせる気だよ。」

「情報が欲しい。君と同じでこっちの世界から君の世界に迷い込んだ人がいる。俺はその人を助けたいと思っている。そのために君の世界や謎のゾーンみたいなやつの情報を集めていえる。だから、協力してほしい。」

「そんなことか。でも、僕そんなに情報持ってないよ?」

「大丈夫。少しずつでも情報が欲しいんだ。だから話がしたい。もし良かったら、俺について来て欲しい。」

「わかった。」

「ありがとう。俺は水谷 晃だ。」

「僕はシュリルという。」

「ありがとう、シュリル。」

私はシュリルを連れて事務所に戻った。



「おかえりって誰ですか!?」

「ただいま。後で紹介するからとりあえずお茶を出してやってくれ。」

「あ、はい。」


シュリルに席を座らせ、お茶を出した朱里も席に座り、シュリルに出会い、情報共有をする事を話した。


「シュリルさんは謎のゾーンみたいなやつからこの世界に来たのですね。ちなみにどんな世界なんですか?」

「この世界のように高い建物がなくて、あの動く機械もない。この世界はへんなものばっかりだ。この世界に来て初めて見たこの手持ちの機械もよくわからない。」

シュリルはポケットにしまっていた物を取り出した。それはアパートの部屋でみた携帯だった。

「シュリルそれを借りてもいい?」

「うん、僕にはよくわからないからな。」

シュリルから受け取った携帯の通知を見ると「石橋さん連絡をください。」という文章を多く見かけた。ほかの通知に「渚さん」の文字があるためこの携帯は行方不明になっている一人の石橋渚さんのものと確認した。それと同時にシュリルは二人と同じゾーンを使ってこの世界に来たこともわかる。



 シュリルと話を進めるうちにシュリルの世界がわかった。シュリルがいた世界はアラジンと呼ばれる人が治めるアシュラムと言う国。そこには一定数の人が魔法を使える。そして、魔法使いの強さ、魔法が使える特別さから魔法使いを信仰する様だ。魔法を使える人が生活する魔術塔がある。魔術塔は魔法使いが日々生活し、国に危険が起きたらすぐさま出動できる様に国で一番高い塔だ。その国の守護神と言われている魔術塔だが、アシュラムの外の世界がどうなっているのかは誰もわからないという。アシュラムを襲う敵がいるのかどうかもわからないどころかアシュラム以外に人や生物がいるのかどうかもわかっていない様だ。

「外の世界を調べたりはしてないの?」

「ううん。でも、国を囲う外壁のすぐ外は崖なんだ。アシュラム以外に人が住めそうな大地がどこにも見当たらないんだ。」

「それなら敵なんていないのでは?」

「わからない。魔法使いの何人かが空を飛んで調査に行ったけどただずっと大地がなくて真っ暗なんだ。」

「真っ暗?海はないのか?」

「海?それはなんだい?」


俺はその場で海の写真を見せた。


「たくさんのお水だ。僕の世界にこんなのはないよ。とある魔法使いが言ってたのだけれど、僕達がいる世界は未完成な世界と言っていたよ。」

「未完成な世界?」

「そう。誰かが僕達の世界を作ったけどまだ作り途中なのではないかって。」

「なんでそう思ったのか聞いた?」

「ううん。僕には難しすぎて言ってた言葉を覚えることが出来ても意味を理解することは出来なかったんだ。その人は僕より沢山生きて、色んなものを見ているからこそ、その答えにたどり着いたんだと思うんだ。」

「そっか。」


俺と朱里が少し目を離すとシュリルは寝ていた。こっちの世界に来てからほとんど休めていなかったのだろう。シュリルに毛布をかけ俺と朱里はキッチンに移動した。



キッチンではヒソヒソと話をした。

「話が膨大すぎて頭痛いよ。」

「そうだな。」

「結局どうするの?あっちの世界に行ってみるの?」

「行き来できるとわかったんだから行くしかないだろ。今回の依頼は恋人同士の二人を見つけることだからな。」

「でも、どんな危険が潜んでいるのかわからないのよ?」

「もちろん、シュリルと一緒だ。彼がいるだけで向こうの世界ではさほど問題ないだろう。」

「それはそうだけど。無理だけはしないようにね。」

「ああ。それよりも今日はお前まで事務所に残らせて申し訳ないな。」

「別にいいわよ。私はこの事務所の事務員であり、あなたの秘書なんだから。」

「さすがにこっちでできることを済ませてから行くけど、どれくらいで戻れるかわからない。その間は任せたからな。」

「もちろん。」

俺と朱里は拳ををコツンと突き合わせた。



 俺はシュリルに会って三日間、ひたすらにやるべき仕事を終わらせた。そしてついにシュリルの世界に行く日となった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ