【その二】
2022年「なぜか俺のヒザに」スピンオフ! トラップで最下層に飛ばされたアン達4人はウィルと合流すべく行動を開始しました! 果たしてこの最下層にはどんな敵がいるのか?!
それでは【その二】をお楽しみ下さい!
【その二】
「でやぁぁぁーーーッ!」
迷宮内に気迫のこもった掛け声が響き渡る!
大鬼将の苛烈な攻撃を掻い潜り、氏族『神聖な黒騎士団』の切り込み役レオナの渾身の一撃が、オーガ・ジェネラルのヒトで言う鳩尾付近に炸裂した! 鳩尾深くにめり込むレオナの拳!
「グ?! ガアッ!?」
たまらず膝を折るオーガ・ジェネラル!
「シュッ!!」
その思わず下げた顎目掛けて、今度は下から上に突き上げる様に打ち込まれるレオナの掌底突き! 叫び声を上げる間もなく、頭頂部が爆ぜて絶命するオーガ・ジェネラル! レオナ得意の『破砕掌』である。
その横ではエリナがやはりオーガ・ジェネラルと斬り結んでいたが、一瞬の隙をつき愛用の長剣でオーガ・ジェネラルの太い胴体を横薙ぎに斬り裂く! 哀れオーガ・ジェネラルの胴体は上下泣き別れとなり、上半身は臓物を撒き散らしてその場に斃れ伏し、下半身は数歩前に歩くとやはり臓物を撒き散らして頽れるのだった。
またその奥ではルアンジェが目にも止まらぬ速さで、2体の大鬼の太い腕や脚を2本の鎌剣で次々に斬り裂いて行く! そしてオーガの動きが鈍った所を背後から首筋に2本の鎌剣が左右から当てがい、鍔を引っ掛け合うと鋏の様に刃を閉じ、その太い首を次々と斬り飛ばす!
そして最後に残ったオーガ・ジェネラルも、アンの魔導小火砲『リュシフェル』から放たれた魔力弾に、手に持つ錆びた戦斧を撃ち砕かれ、手足を撃ち抜かれ、手も足も出せなくなると最後には額を撃ち抜かれて絶命するのであった。
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「ふぅ……皆んな、怪我は無い?」
『リュシフェル』の構えを解いて大きく息を吐きながら、エリナやレオナ、ルアンジェの無事を確認するアン。
「私は大丈夫よ」
「あたしも平気さ」
「ん、私も」
アンの問い掛けに答えるエリナ、レオナ、ルアンジェの3人。無論3人共に血塗れであり、アンはそんな3人を1ヶ所に集めると清浄魔法で身体に浴びていた返り血を綺麗に落としてやる。
「でも、こうも連戦だと流石に疲れた、わね……」
「あたしもエリナと同じだね、少し休まないかい?」
アンに疲労を訴えて来るエリナとレオナの2人。事実2時間足らずの間に、既に魔物の群れと5回も戦闘をしているのだ。疲れない方が無理がある。
「そうね……先はまだ長そうだし、少し休憩しましょう」
そう言うとその場で壁を背に座り込むアン。エリナとレオナも同様に壁を背にしゃがみ込んで大きく息を吐く。
「それじゃあ私が見張りに立つ」
アン達3人が座り込むのを見て、ルアンジェがそう言うとただ1人、通路の真ん中に立って周りに警戒をする。
「有難う、ルアンジェ。助かるわ」
「ん、私は自動人形。だからずっと休まなくても大丈夫。だから気にしないで」
そう言うと薄い笑みを浮かべるルアンジェ。
彼女に感謝しながら、2時間程前にウィルと話した内容を改めて頭の中で復唱するアン。
(未知のダンジョンの最下層、か……ウィルも急いで私達と合流するとは言っていたけど……)
そう心の中で呟くと少しでも疲れを取る為にアンは目を閉じるのだった。
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2時間前──
『君達はこのダンジョンの最下層に飛ばされたらしい。コーゼストが確認した』
「なっ?!」
遠方対話機の向こうから聞こえてきたウィルの台詞に言葉を失うアン。ルアンジェに起こされたばかりのエリナやレオナも遠方対話機から漏れ聞こえるウィルの話に顔色を失う。アンは動揺で早くなる呼吸を意識して大きく、そしてゆっくりとすると
「一体何が起きたと言うの?」
端的にただそれだけをウィルに尋ねる。
『床の石版に巧妙に刻まれていた『魔物誘引』の魔法陣な。アレは魔法陣の魔力回路が遮断されると、自動的に最下層へと転移させる転移陣が罠として発動するタイプのモノだったらしい。すまん、俺のミスだ』
『この二重トラップはかなり高度な技術で仕掛けられていました。マスターだけが責任を感じる事はありません』
遠方対話機の向こうでは、状況を説明しアンに謝罪するウィルと、それを宥めるコーゼストの声が聞こえて来る。
「コーゼストの言う通り、起きてしまった事は何を言っても仕方ないわ。それで私達は結局第何階層まで飛ばされたか分かるのかしら?」
ウィルを宥めるとコーゼストに尋ねるアン。
『はい、私の垂直探査では第6階層が最下層となっているのを確認しましたし、アン達の魔力反応もその階層で確認しました。間違いありません』
『兎に角君達は君達で「可能」なら上層に向かってくれないか? 俺の方もコーゼストに最短ルートを調べてもらって急いで下層に向かう』
コーゼストとウィルの回答に
「分かったわ。何とか上層に向かってみる」
それだけ言うとウィルとの通信を終え、アンは大きく溜め息をつくのだった。
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そんな事を思い出してふと目を開けるアン。どうやら休むつもりで目を瞑っていたが、少し寝てしまっていたらしい。
(疲れているの、かしらね)
そう思いながらエリナやレオナの方に目をやると、2人ともやはり少し疲れた顔をして目を閉じている。もう少し休んでから移動するべきか、アンが判断に迷っていると
「アン、エリナ、レオナ、この先の通路から魔物の群れが接近。数は6、距離100メルト」
突如としてルアンジェから警報が発せられる!
この最下層に飛ばされてから判明したのだが、ルアンジェもコーゼスト程では無いにしろ索敵能力があったのだ。流石に魔物の種別は分からないが、それでも方角と距離、そして数だけは何とか判別がつくらしい。
(全く本当に……少しは休ませて欲しいものだわ)
アンは心の中でそう悪態をつくと
「エリナ! レオナ!」
2人に対して活を入れる!
「やれやれ、もう少しだけでも休ませて欲しかったんだけど……」
「本当だわ、こうも連戦だと流石に堪えるわね……」
それぞれにボヤきながらも立ち上がって、魔物を迎え撃つ準備を整えるレオナとエリナ。
「兎に角今は戦うしか無いわ。戦って先に進むしかない……!」
アンも『リュシフェル』を構えながらそう2人を、そして己を鼓舞する。
「来る……!」
魔導照明の仄暗い灯りの中、通路の先に目をやっていたルアンジェの一言に意識を集中するアン達3人。
通路の先には此方に向かってくる魔物と思しき影が見えたのだった。
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それから数度、アン達は魔物の群れと戦闘を繰り広げていた。その種類も大鬼将や強化型巨猪人から始まり、醜巨人や鬣狗人、果ては牛頭人と上位種揃いばかりである。そして今も──
「キシャアァァァーーーッ!」
「ハアァァァァァーーーッ!」
蜥蜴人の群れと戦闘を行っていた!
リザードマンの両手剣の斬撃を既の所で躱したエリナは、相手の斬撃の一瞬の隙をついてロングソードをリザードマンの胸の心臓目掛け突き立てる! 身体強化魔法が上乗せされた渾身の一撃は、リザードマンの革鎧を、そして硬い鱗を貫き背中まで貫通する!
「グギャアーーーッ!!」
心臓を貫かれ断末魔の叫び声を上げて絶命するリザードマン!
エリナの横ではレオナがやはりリザードマンの槍撃をひらりひらりと躱すと
「セイヤッ!!」
掛け声一閃、がら空きになった胴目掛け、勢い良く右足を振り抜く! 骨が砕ける音と共に通路の壁に吹き飛ばされるリザードマン!
「ガッ!? ググッ……」
一声呻くとそのまま事切れるリザードマン。
更にその後ろではルアンジェが高速の足捌きで分身し、リザードマンに襲い掛かる! 四方からほぼ同時に斬り付けられて、瞬く間に己の青い血に塗れるリザードマン! 抵抗しようと手に持つブロードソードを滅茶苦茶に振るうが、ルアンジェに掠りすらしない。そして最後はご多分に漏れず、ルアンジェの人外の膂力を持って、その太い首をふた振りの鎌剣で斬り飛ばされ、青い血を噴水の様に首から吹き上げて絶命した!
最後に残った1体も、アンの『リュシフェル』の『Shine Ray』で頭を撃ち抜かれてその命を終えたのである。
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「ハァハァハァ……ふぅ」
「ハァハァ……はァ、やれやれだわ……」
斃したリザードマンの屍が光の粒子になって消えて行くのを見届けて、残心を解くエリナとレオナの2人。そしてもう1人
「──ッ、はァ、無事ね、2人とも?」
『リュシフェル』の射撃姿勢を解いて大きな溜め息と共にエリナとレオナの無事を確認するアン。リザードマンが残した魔核は全てルアンジェが拾ってまわり
「はい、アン。リザードマンの魔核。これで全部」
アンの元に持ってくる。
「有難う、ルアンジェ」
少し疲れた顔に弱々しい笑みを浮かべてルアンジェから魔核を受け取ると、ウィルから手渡されていた無限収納ザックへと仕舞い込むアン。そしてやはり疲労の色が色濃く見えるエリナとレオナに向かって
「疲れているのに悪いけど、あとひと踏ん張りよ」
と叱咤激励すると、リザードマン達が護っていた部屋の扉に手をかける。
その様子に何時でも戦えるように疲れた身体に鞭打って身構えるエリナとレオナ。軋んだ音と共に内側に開いて行く部屋の扉。果たして部屋の中はがらんとしていて、奥に宝箱がポツリと置いてあるだけであった。それに対して構えを解いて小さく息を吐く3人。
そのあと手分けして室内を隈無く調査したが、罠の類は発見されず、今度こそ大きく息を吐いて緊張を解く3人。宝箱は開けるつもりは無いのでそのまま放置である。
「それじゃあ今日はこの部屋で夜営する事にしましょう」
アンはザックを床に下ろすと、水晶地図板を見てエリナ達3人にそう宣言するのだった。
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ウィルからアンに偶然手渡されていたザックの中身は、今のアン達にとっては大変有難い物ばかりであった。
魔導焜炉こそ無かったが、麻の敷物やタオルに、木杯と木皿にナイフやフォーク等のカトラリーが複数人分、携行食に干し肉に黒パン、それに大型の革水筒等、アン達4人が普通に飲み食いしても十数日分もの食糧が入っていたのである。
それになんと言っても夜営用の『魔物避け』の魔道具も入っていたのだ。これは魔物が忌避する特殊な結界を展開する事が出来る魔道具である。それとあと予備のロングソードも。
「これは……ウィルに感謝しないといけないわね……」
エリナ達と共に改めてザックの中身を確認したアンは、そう独り言ちる様に呟き
「本当に……今回限りはウィルの用意周到さに感謝しないと駄目ね」
「本当だよね……これだけあると無いとじゃ大違いだからね」
「ん、その辺は流石ウィル」
アンの呟きにエリナとレオナとルアンジェが、それぞれに同意を示しながらウィルに感謝をするのだった。まあそれ以外にウィル自身の着替え用の服と下着が数着入っていたのだが、それは敢えて見なかった事にする4人。
「それじゃあ早速食事の準備をしましょう」
『魔物避け』の魔道具を起動させながら、アンは最下層に落とされて初めての明るい笑みを浮かべて、エリナ達に指示を出すのだった。
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明けて翌日の朝、朝食を軽く済ませたアン達は夜営していた部屋を出て、上層への移動手段を探すべく通路を先に進んで行く。
この最下層は迷路型でなく、単なる回廊型だとは、前日にコーゼストから遠方対話機で聞かされていたので、この通路の終点に上層へと通じる階段か何かがある筈である、とアン達は踏んでいた。
因みに今朝ウィルからの遠方対話機だと、彼は現在第4階層に居るとの事だった。なので上手くすれば第5階層で合流出来るかも知れない、と淡い期待を抱くアン達。
だがその為には、彼女達が何としてもこの最下層を越えなくてはならないのだ。そして今も──
「ガルルルルーーーッ!」
「ガオォォーーーーーン!」
「グルルルルゥゥゥーー」
先に進むべく、目の前に立ちはだかる3体の人虎と戦闘を繰り広げていた!
「行くわよエリナ! レオナ! ルアンジェ!」
「ええっ! 私達が生き残る為に!」
「ああっ! コイツらをぶっ倒す!」
「ん、それなら先ずは私がコイツらの足を止める」
『リュシフェル』を構えながらエリナ達を鼓舞するアンと、それにそれぞれの言葉で答えるエリナとレオナ、そしてルアンジェ。
魔導小火砲を、長剣を、拳鍔を、鎌剣を煌めかせながら、4人は通路の先へと突き進むのだった。
ウィルからアンが偶然預かっていた無限収納ザックが思いのほか役に立ちました! さて、この最下層は上位種の魔物揃いです。アン達は無事に最下層を越えてウィルと合流出来るか?! 次回、怒涛の展開が?!
最終話【その三】は明日朝10時更新です。お楽しみに!




