【急】
ダンジョンも半分以上を踏破したウィルと国王陛下一行!
ここに来てエリンクス陛下もアドルも戦闘にも慣れて来たみたいですが、諸々の事態は急変します! 果たしてウィルは無事に国王陛下達をダンジョンから連れ出せるのか?!
2021年正月三が日に渡る「なぜか俺のヒザに」スピンオフ第三話【急】、ここに堂々完結!!
【急】
「うおぉぉぉぉーーッ!」
「やあぁぁぁーーーッ!」
エリック卿──エリンクス国王陛下とアドルの切迫した掛け声が迷宮内に響き、2人に斃された狗亜人達が光の粒子になって消えて行く!
ダンジョン「小鬼の砦」に入宮してから4日目、俺達は陛下とジュリアス殿下、そして俺の愚妹アドルフィーネらを伴って第三階層まで上がっていた。それにしても──
「──2人ともようやくまともになって来たな」
陛下とアドル2人の様子を見ながらそう誰ともなく呟く俺。
『その様ですね。武器への習熟度だけでは無く体力も付いた様ですし、何より格も上がってますし』
俺の呟きにひとつ頷いてそう評するのは、左肩に座るコーゼスト。
「この分なら第三階層も余裕で突破出来そうね」
そんな俺らの会話に混ざって来たのはアンさん。彼女にはこのダンジョンに入ってからは得意の弓による後方からの支援をして貰っている。
「まぁ、このまま何事も無ければ──だけどな」
アンの比較的楽天的な見通しに苦く笑う俺。そう言う事を言っていると伏線が出現するんだぞ? 俺がそう1人でツッコミを入れていると腰袋から不意に規則的な音が聞こえて来る。どうやら誰かが遠方対話機を掛けて来たみたいである。
俺はポーチから遠方対話機を取り出し、釦を押して遠方対話機に話し掛ける。
「──ウィルだ。誰だ、呼んだのは?」
『ウィル君、僕だよ。セルギウスだよ』
俺の問い掛けに答えたのは王都に居るグラマス殿だった。
「どうしたんだ、グラマス?」
『うん、陛下達の様子はどうかなと思ってね』
俺がテレ・チャットでグラマスと話し始めると、聞きつけたアン達が近くに寄ってくる。
「今の所は順調だぞ? もしかして……其方で何かあったのか?」
わざわざそれだけの為だけにテレ・チャットを使う訳が無いからな。すると案の定グラマスは
『うん……少し厄介な事になりそうなんだよ……陛下の予測通りにね』
と此方の予感が的中した事を告げてくる。ほらなアン! だからフラグだって言ったんだ!!
と言うか何だよ、陛下の予測通りって?!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『──と言う事が判ったんだ』
そう締め括るグラマス。その言葉に苦々しさを乗せて。
グラマスが言う事を要約すると──今から約40年前に前国王陛下が崩御した時に、正室派と側室派で色々とやり合って、最終的に正室の子であり前国王の実子であった今のエリンクス国王陛下が即位する、と言う悶着があったらしい。
その当時、側室派に付いていた貴族の幾つかがその煽りを受け降格や爵位剥奪や取り潰しの憂き目を受けたのだが、その側室派の残党が今も何人か王城内の貴族に居るらしく、今回の国王陛下のダンジョン探索に託けてダンジョン内でエリンクス国王陛下を亡き者にしようと刺客をこのダンジョンに送り込んでいた事が判ったのだ。それは本当に復讐とも言えない単なる逆恨みだ。
「そいつは──厄介だな」
その話を聞いて俺も思わず苦々しく言い放つ。だがグラマスは
『まぁ、こうなる事は陛下の予測通りなんだけどね──そうですよね、陛下? 殿下?』
此方で一緒に話を聞いていた陛下やジュリアスに呼び掛けて来る。そういやさっきも言っていたな、陛下の予測通りだって!
「うむ、やはりと言うべきか、何れにしてもこれで奴等を一網打尽に出来ると言う訳だな」
「そうですね、父上」
一方、狙われている側の陛下もジュリアスも何故かに頷いている。
「ちょ、ちょっと待て!? そこだけで納得されてもこっちがわからんわ!」
すっかり部外者の俺は思わず説明を求める。口調がすっかり素になっているのはご容赦願いたい。
「おお、そうであった。ウィルにも説明せねばな。実はな、今ライナルト卿が話した私の暗殺については、以前からそう言う企みがあると聞き及んでおってな。今回は敢えて私が向こうの計画に乗る振りをして行動し、その間にマウリシオ宰相やライナルト卿らに其奴らの動きを調べて貰っていたのだ。これを期にこの国に燻る反抗の芽を摘み取るべくな」
混乱する俺の質問に答えたのはエリンクス国王陛下。その言葉を聞いて今度は顔が引き攣る俺。アン達も同様だ。
「……つまり俺達は陛下達の計画のダシにされたって訳か?!」
「まあそう言う訳だな! ウィル、頼りにしているぞ!」
陛下に満面の笑みでそう宣われて、俺はダンジョンの床に突っ伏すのだった。
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「はァ……」
『マスター、心中お察しします』
思わず溜め息をつく俺を慰めてくれるコーゼスト。全く……40年も昔の事を未だ引き摺っているとか有り得んだろ!? 逆恨みも甚だしい!
「兄様……」
1人憤激しながら歩く俺の隣にアドルが不安そうな顔で並び立った。彼女も今回の件には巻き込まれたクチである。それに対する謝罪は陛下とジュリアスからは受けたが、2人にとっても今回アドルが強行参加した事は全くの想定外な事であったらしい。
俺は不安を顔に張り付けたアドルの頭をクシャッと撫でると
「大丈夫だ。お前は俺が護ってやるから」
と昔の様に優しく語り掛ける。するとアドルは一瞬キョトンとした顔をし、それから頬を紅く染めて「はい♡ありがとうございます」と嬉しそうに呟く。
アドルが安心して陛下の傍に戻り、俺達はコーゼストを初めとした最大級の警戒態勢を取りつつダンジョン「小鬼の砦」を進んで行き、第三階層を抜けて第四階層へと上がる。
途中すれ違う何組かの他のパーティーにも注意を払い、幾度もの魔物との戦闘を繰り広げ、避難所で休む時でもコーゼストの物理結界を幾重にも張ってもらい、陛下とジュリアスそしてアドルの安全に気を配りつつ、最終第五階層へと──そしてこのダンジョンの最終目的地である最奥の部屋に入る直前──
『人感センサー、生命感知センサー、及び熱感知センサーに反応有り。これは間違いなくヒトの反応です。人数は8名』
──最大級の警戒態勢を取っていたコーゼストから警告が発せられた!
「やっぱりここに居たか……」
俺は小さく溜め息を吐くと事前に打ち合わせた通り、全員との会話を念話へと切り替える。無論陛下とジュリアスとアドル、ヒルデガルトとヨアヒムもコーゼストの連絡網へと一時的に組み込んであるのは言うまでもない。
『良し……それじゃあ皆んな、打ち合わせた通りにな』
俺の念話に全員が黙って頷く事で返事を返してきて、俺は部屋の扉に手を掛けるとゆっくり開けるのだった。
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最後の部屋の扉が軋みをあげてゆっくりと内側に開く。内部は仄かに灯る魔導照明に照らされており、部屋の奥には闇が拡がっていた。
俺はその「闇」に向かって声を掛ける。
「おい、何時まで隠れんぼしているんだ。出て来いよ」
すると「闇」が不意に蠢いたかと思えば、8人のヒトの姿となった。
「何故気付いた?」
そのうちの1人が話し掛けて来る。男とも女ともつかないくぐもった声。良く目を凝らすと全員が黒い布で口元を覆い隠している。それだけで無く着込んでいる軽鎧や腰に下げた歩兵剣の鞘に露出している肌の部分までもが黒く染められている。どうやら此奴らが刺客で間違い無いな。
「さてね。で、どうするよ?」
刺客の問いに答える事無く軽くすっとぼける俺。教えてやる道理は無いからな。勿論煽りを入れる事も忘れていない。
俺の台詞に8人全員が無言のまま鞘から剣を抜き放つと此方に向けて構える。一方の俺達はと言うと、俺とエリナとレオナ、ルアンジェが前に突出し、その後ろにアンとルネリート、ヨアヒムとアリストフが、更にその後ろでエリンクス国王陛下とジュリアス殿下とアドルが、ヒルデガルトとスサナに護られている形になっている。アリストフには勿論陛下達の傍で常時回復を発動させ、コーゼストも妖精体を解除している。何故かヤトの姿は無い。
刺客達はショートソードを構えたままジリジリと此方に近付いて来ていたが、何の前触れも無く斬り掛かって来た! その初撃を刀剣で受け止める俺! この剣筋だとかなりの実力者か?!
俺がそう分析している間にもエリナ、レオナ、ルアンジェもそれぞれに斬撃を受け止めている! ここで先ず4人!
残りの4人には後ろのアンとルネリートの弓による攻撃と、ヨアヒムの魔法が浴びせられる! だがそれ等の攻撃を或いは避け、或いは剣で弾き飛ばしアン達を突破して行くのは3人の刺客!
ヒルデガルトとスサナが突っ込んできた残り3人を迎え撃つ! ヒルデガルトとスサナが2人を押さえ込むと、残り1人が脇目も振らずに国王陛下に肉薄する!
その前に立ち塞がるのはジュリアス! 刺客と数度剣を交えるが、競り合いの最中に交えた剣を巻かれショートソードが弾き飛ばされる! そしてジュリアスには目もくれず最後の1人は、護るべき者が居なくなった国王陛下に向けて凶刃を煌めかせた。
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エリンクス国王陛下目掛け振り下ろされる刃! だが──!
「ッ?!」
突如として陛下とアドルの前に出現した星銀の壁に斬撃が弾かれる! 同時にその身体を不意に床から現れた巨大な腕に捕られられる!
実はこの部屋に入る直前、従魔の宝石岩人形デュークを顕現し陛下達を密かに守護する様に命令をしておいたのである。其れは勿論、襲撃して来た刺客を此方の懐に誘い込んで一網打尽にする為である。
デュークがミスリルの防壁を展開するのと同時にジュリアスもその壁の内側へと退避する! 自らの腕に捕らえた刺客の身体を軽く捻るデューク! それだけで相手の身体は変な嫌な音を立て、ぐったりと大人しくなる刺客。
「なッ?!」
その様子に驚きの声を小さく上げるのは俺と斬り結んでいる刺客の1人! 一瞬だけ意識が其方の方へと向く──チャンス!
俺は組み合った相手に剣を交えたまま身体ごと体当たりを仕掛け後ろに飛ばす!飛ばされ大きく体勢を崩す相手に立ち直る暇を与えず、俺は続けざまに威力を絞った空裂斬を放った!
放たれた空裂斬は刺客の身体に当たると、軽鎧を大きくへこませながら部屋の壁まで刺客を吹き飛ばす! 白目を剥いて気絶する刺客の1人! 上半身と下半身が2つにお別れしなかっただけでも感謝して欲しいものである。
そうしている間にもエリナ達は襲い掛かって来た刺客の片手、或いは片足を斬り飛ばし、レオナは鋭い拳撃で、アンとルネリートは矢で、ヨアヒムは魔法で5人の刺客を無力化する! 最後の1人は突如として虚空から放たれた雷撃に打たれ床に伏せた──部屋の外で万が一に備えて待機させていたヤトの魔術である。
こうして襲撃して来た刺客8人は全て俺達に返り討ちとなったのであった。
全員かなりの重傷であるが──そんなのは知らん。
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こうして襲撃者を全て討ち取った俺達は、無事にダンジョン「小鬼の砦」から外へと帰還を果たした。因みに8人の刺客達は縄で縛り上げ、デュークに一度に纏めて運ばせていたりする。
ダンジョンの外ではマウリシオ宰相が手配した王国騎士団第三騎士団が待ち構えており、捕縛した刺客達は彼等に引き渡したのであった。
そして俺達はエリンクス国王陛下やジュリアス殿下そしてアドルを護衛しながら、のんびりと王都ノルベールへと戻ったのであった──帰路、アドルが何回か隙を見て突撃して来たのには手を焼いたが。そして──
「改めてハーヴィー卿、此度は本当に世話になった」
──王城の玉座の間に座ったエリンクス国王陛下が俺に軽く頭を下げる。横に並び立つジュリアス殿下とマウリシオ宰相、グラマスも同様だ。
「はァ……まぁ……無事に終わったからもう良いんだが」
一方の俺は頭を掻きつつそう答えるのみ。既に陛下に敬語すら使っていなかったりする。
「それで? 結局、あの後はどうなったんだ?」
「うむ、それはな──」
そう言って陛下が話す事には──ダンジョンで陛下達から聞いた通り、元側室派とそれ等に連なる者達が、陛下達のダンジョン探索に乗じて行動を開始しようと一堂に会した所を、グラマスとマウリシオ宰相が此方も文字通り一網打尽にしたのだそうだ。これにより王国内部に燻っていた火種は見事に根絶出来たらしい。
全く……何度も言うが40年も前の事でこんな騒ぎが起こるとは、つくづく貴族って言うのは面倒臭いものである。そして国王陛下ってのはそう言ったストレスに常に晒されるんだな…… 。
兎に角、今回の ” 依頼 ” を無事に達成出来た事に安堵する俺に、ジュリアスが言った通りに褒賞が贈られる事になった。
どうやら陛下やジュリアスは俺を陞爵させたいらしいが──それはコチラから願い下げである! そんなのされて貴族の柵に囚われたりしたら、それこそ命が幾つあっても足りないからな。
因みにダンジョンを無事(?)踏破した陛下とアドルは、それぞれレベルが46と42となっていたとはコーゼストが言っていた。その気になれば2人とも冒険者ギルドでAクラスとして登録できるのだろうが、俺としては大人しく国政をしていて欲しい。
いや割と本気で!
事態は急変し、ラストいきなりの暗殺者との対人戦でしたが無事に国王陛下達を守り切ったウィル達! 最後は少し駆け足気味でしたが、何とか纏まりました!
これにて2021年スピンオフ、全巻の終わりと相成ります!
☆本編「なぜか俺のヒザに毎朝ラスボスが(日替わりで)乗るんだが?」2021年最初の話171部第百五十九話も本日8時に更新済! そちらも是非お読み下さい!




