【破】
いよいよエリンクス国王陛下らを案内すべく、ダンジョンの入口に立つウィル! しかし、そこには思いもよらぬ人物も居て…… ?!
2021年正月三が日「なぜか俺のヒザに」スピンオフ第二話【破】、お楽しみ下さい!
【破】
エリンクス・フォン・ローゼンフェルト国王陛下から ” 依頼 ” を受けてから ” 準備 ” をして10日後、迷宮「小鬼の砦」の入口前に俺達と国王陛下、ジュリアス・フォン・ローゼンフェルト殿下は立っていた。そして同行者も。
「ウィルフレド様、お久しぶりです」
「今回も何卒宜しく御願い致します」
赤味がかった金髪の総髪の凛々しい顔立ちの歳の頃20歳前後の女性と、褐色の癖っ毛のある長髪の同じく歳の頃20歳前後の青年、嘗てユリウスと言う偽名でジュリアスが俺達とダンジョン「精霊の鏡」に潜った際、ジュリアスの護衛役として同行していたヒルデガルトとヨアヒムの2人だ。今回グラマス殿は王都で留守番である。
「2人とも久しぶりだな。今回もよろしくな」
「ヒルデガルトさん、ヨアヒムさん、よろしくお願いしますね」
「ん、またよろしく」
「2人ともよろしくね!」
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
俺とアンとルアンジェ、そしてヤトは再会の喜びを口にし、エリナ以下の初対面のメンバー達も挨拶を交わす。聞けばヒルデガルトは近衛騎士団第一大隊の副隊長を、ヨアヒムは陛下直属の魔法士団第三大隊の副隊長を務めているのだそうだ。それを聞いてなるほどと納得した。彼等2人の強さは「精霊の鏡」で実証済みだからな。
「まあ2人は来るだろうと思っていたんだが……」
俺はそう言いながら2人の横に視線を向ける。
そこには何時もの正装姿から一変、上半身に赤い軽鎧、下半身は下袴の上にこれまた赤い鱗鎧女袴を履き、手には柄が1メルトほどある星球式鎚矛を持つ勇ましい姿の愚妹──アドルフィーネ・フォン・ヴィルジール女伯爵の姿が!?
「……何でお前がここに居るんだよ、アドル?!」
思わず突っ込みを入れる俺に対して
「うふふっ、兄様お久しぶりでございますわ♡」
咲いた花の様に華やかな笑顔を振りまくアドル。コイツは俺の話を聞いてないな?!
「ッ! だから俺の質問に答えろよ!?」
「はい♡実は国王陛下から兄様にダンジョンへ連れて行って貰う話を聞かされまして、私も同行させて頂きたく居ても立ってもいられず罷り越しましたの! 陛下と殿下だけだなんて狡いですわ!」
凄く爽やかな笑顔で凄く残念な事を堂々と言い切るアドル。建前もへったくれも無い。
「……遊びに行く訳じゃないンだぞ?」
「それは解っておりますが、もしかしたら兄様とダンジョンで2人っきりになれる機会もあるかと思いまして♡」
自分の欲望に忠実過ぎるアドルの告白に俺は地面へと突っ伏すのだった。
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「はぁ…………」
『また随分辛気臭い溜め息ですね。まあわかりますが』
ダンジョン内を歩きながら思わず溜め息を付く俺にツッコミを入れつつ一定の同情を示すコーゼスト。本当に溜め息のひとつも付きたくなる……はァ。
アドルが参加する件は完全に想定外であったが、国王陛下達にもあまり時間が無い事もあり、アドルを加えて「小鬼の砦」に入宮する事にした俺達。
因みに今回は氏族の中からの選抜メンバーである。具体的には俺とアン、エリナとレオナとルアンジェ、スサナとルネリートとアリストフの8人と、従魔からはヤトである。ベルタ達には『戦乙女』として「魔王の庭」に潜ってもらっていたりする。
「うむむッ! これがダンジョンの内部なのか?!」
エリンクス陛下は盛んに辺りを見回しながら興奮した面持ちをしている──完全に片田舎から出てきた辺境の貴族みたいである。
実際今回は陛下とジュリアスの身元は、とある辺境地方のエリック・フォン・ロワイエ伯爵とその息子のユリウスと言う事にしてあるので何ら違和感は無いと思う──無論アドルにもその設定を無理矢理適用して、伯爵の娘のアドルと言う設定だ。
「父上、あまりそんなに燥がれては……そうだろうアドル?」
「そうですわ、お父様。ユリウス兄様の言う通りですわ…………何だか陛下をお父様、殿下を兄様と呼ぶのに違和感を感じますわね……」
ジュリアス──ユリウスから話を振られたアドルが、それに答えつつも小声で戸惑いがちに呟く。そらまあ、いきなり自分の仕える国王陛下や殿下と疑似的にとは言え、家族を演じるんだから抵抗はあるんだろう。
「そうかい? 私はステラが居るので大した違和感は無いのだが……」
「うむ、私もジュリ……ユリウスと同じ意見だな。ヴィ……アドルフィーネもそんなに畏まる必要は無いぞ?」
一方のユリウスとエリンクス陛下──エリック卿はそんなに違和感は無い様だ。但しエリック卿、いま一瞬本名を言いかけたな?
因みにユリウスの口から出たステラとは、ユリウスの実妹であるステラシェリー・フォン・ローゼンフェルト王女の事である。俺はまだ直接会った事は無いがユリウスの話では今年15歳になったばかりの美少女らしい。
まぁ身内の欲目だとは思うんだが。
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そんなこんなをしながらも進む事しばし、俺の顔の横をふよふよ浮遊していたコーゼストから警戒が発せられる。
『この先、凡そ100メルト進むと小鬼の小さな群れが居ます、その数8体。格は33が7体、35が1体。順位はC。技能は確認されません』
「わかった。ところでお前の事だからエリック卿達のレベルも確認しているんだろ?」
コーゼストからの報告にひとつ頷くと確認を取る俺。コイツは何と言ってもコーゼストだからな。
『はい、先ずエリック卿はレベル40、ユリウスさんはレベル49、アドルさんはレベル30、ヒルデガルトさんとヨアヒムさんはレベル47ですね。この中ではアドルさんとエリック卿のレベルが低いので、もしレベルアップをされるのでしたらお2人に率先して魔物へ止めを刺して貰うのが宜しいかと』
俺の問い掛けにスラスラと答えるコーゼスト。想像はしていたがエリック卿とアドルの2人は思いの外レベルが低いな。
「どうします、エリック卿? コーゼストの言う通りレベル上げをするならトドメを任せますが──無論アドルもだが?」
とりあえず2人にはそう話を振る俺。すると
「うむッ! やらせて貰えるのなら是非に!!」
「あ、はいっ、私も殺らせていただきますわ。無論兄様に支援していただいて♡」
2人ともに即答だった──だがアドルよ、「やる」が「殺る」になっているぞ?
アドルの言動に一抹の不安を感じながらも隊列を全員に伝達する俺。
具体的にはコーゼストには周辺の索敵を、俺やエリナやレオナ、ユリウスやヒルデガルトの前衛組が魔物にダメージを与えつつ行動不能にし、アンとルネリートとヨアヒムには後方からの弓と魔法による支援に徹してもらい、アリストフは得意の常時回復を発動、ルアンジェとスサナはエリック卿とアドルを護りつつ遊撃に、ヤトは魔法障壁で全体の防御に徹し、最後にエリック卿とアドルがトドメを刺すと言う仕様である。
まあぶっちゃけ、やり過ぎ感はあるが。
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準備が整ったのを確認すると慎重に進む俺達。
やがて100メルトほど進んだ通路の先で、コーゼストの言った通りゴブリンの小さな群れと遭遇した。
「キシャアァァァーーッ!」
「グガアァァァーーッ!」
「ギャッ、ギャッ!」
俺達を見つけると錆びた歩兵剣や棍棒を振りかざしながら此方に向かって来るゴブリンの群れ!
俺はエリナ、レオナ、ユリウス、ヒルデガルトに目配せすると通路一杯に拡がり、ゴブリンを迎え撃つ! 俺の刀剣が、エリナとユリウスのショートソードが、レオナの拳鍔が、ヒルデガルトの細身剣がゴブリンの攻撃を受け止め、その腕や脚、胸や腹を切り裂いていく!
「グワッ!?」
「ガアァァ?!」
「ギャッ?!」
俺達の反撃に手に持つ獲物を取り落とし怯むゴブリン達! その動きが一瞬止まり、群れは瞬く間に混乱に陥る!
「いまだッ!」
それを見て後ろに控えるエリック卿──エリンクス陛下とアドルに鋭い声を飛ばす俺!
「うむッ! おおぉぉぉぉーーーッ!」
「はぁぁぁぁぁーーーッ!」
エリンクス陛下は腰から抜き放ったショートソードを、アドルは頭上高く掲げたモーニングスターを、それぞれ動きが鈍ったゴブリン目掛け振り下ろす! 肩口から股まで深く切り裂かれ、或いはくすんだ緑色の頭を星球と呼ばれる柄頭で打ち砕かれ、次々と辺りに紅い花を咲かせるゴブリン達!
未だ逃げる元気があるゴブリンの何体かは俺達が逃がさない様に退路を塞ぎ、アンやルネリートの弓とヨアヒムの魔法による支援攻撃で弱体化させ、陛下とアドルが止めを刺すのを繰り返す!
哀れゴブリンの群れは陛下とアドルの獲物の露と消えたのであった。
「ハァハァハァ……ふぅ」
「ハァハァハァハァ……ハァハァ」
戦闘で乱れた呼吸を整える陛下とアドルの2人。かなり辛そうに見える。
「2人とも大丈夫か?」
心配でそう問い掛ける俺に「だ、大丈夫だ(ですわ)」と何とか声を絞り出す2人。
まぁこればかりは慣れてもらうしか無いんだが。
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それから何度かゴブリンの群れと遭遇して戦闘を繰り広げ、エリック卿──陛下やアドルに経験値稼ぎをして貰って第一階層の避難所のひとつまで来た。
「良し、とりあえずここで一旦休憩しよう」
俺の一言にハァ……と大きく安堵の息を吐く陛下とアドル。何せ初のダンジョンの探索と共に、初の戦闘を複数熟しているのだ、それなりに疲労は溜まるのも必然である。
俺は腰袋から水晶地図板を取り出して時間と位置を確認する。ここまでで「小鬼の砦」第一階層の3分の1を4時間で消化した事になる。
「さて、と……どうです陛下、それにアドル。初めて経験したダンジョンは?」
アン達が手早く麻の敷物や水袋や携行食、それに干し肉をコーゼストの無限収納から出して広げているのを横目で見ながら、2人に尋ねる俺。ここには俺達しか居ないので元々の呼び方をしていたりする。
「う、うむ、幾人かの冒険者からは色々と聞いていたが、これ程までに過酷だとは思わなんだ……」
「わ、私も陛下と同じですわ。まさかこれ程とは思ってもいませんでしたわ……」
そう答える2人の顔には明らかに疲れの色が見て取れる──然もありなん。
「だけど、戦闘も最初の時から見ると、2人ともトドメを刺すのに慣れて来ていたみたいだったが?」
「うむ、ウィルの言う通りだな。確かに父上の剣筋は鋭くなっていた。あとアドルフィーネ嬢のモーニングスターの振り回しもな」
そんな2人に俺は見たままを告げ、ユリウス──ジュリアスも同様の評価をする。
まぁそれだけ2人とも使っている獲物の習熟度が上がったからだろう。こう言うのは理屈云々よりは実践が第一だからな。
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結局、疲れが見える陛下とアドルに配慮して避難所で1時間ほど休憩を取った。最初の頃は水を呑む事さえ辛そうだった2人だが、何とか水分を補給し腹に少し食べ物を詰めたら顔に生気が戻って来て、ジュリアスやアン達と雑談が出来るまでには回復したみたいだった。
「ところでコーゼスト。陛下とアドルのレベルはどうなんだ?」
そんな2人の様子を見ながら、左肩に座るコーゼストに尋ねる俺。
『はい。エリンクス陛下はレベルが42へとアップしましたね。アドルさんはレベル35です。アドルさんの方の上昇率が高いのは、アドルさんの元々のレベルが低い為です。今遭遇している魔物のレベルから推測するとレベル38ぐらいまでは急上昇するかと。他の人達のレベルには変化無しです』
何時もの如くスラスラと答えるコーゼストの報告を受けて、俺はジュリアスやヤトと話していたエリンクス陛下とアンと言葉を交わしていたアドルに声を掛ける。
「……だそうだ陛下、アドル。2人ともに順調にレベルは上がっているぞ。あとは2人の ” 慣れ ” だけだ」
そう言って2人にその ” 覚悟 ” を聞く俺。だが実際そうなのだ。俺達は未だこのダンジョンの冒頭部分に取っ掛かっただけに過ぎないのだ。幾ら単純な城砦形ダンジョンでも、 ” 素人 ” が ” 先 ” に進むにはそれなりの覚悟が必要なのだ。だが俺の言葉に2人とも
「大丈夫だ、ハーヴィー卿──いやウィル。これは私自らが望んだ事なのだ。弱音など言ってはおれん」
「私も陛下と同じですわ。兄様と2人っきりになれないのには不満ですが、私も決して軽い気持ちでここにはおりません」
まだ少し疲れが見えるが熱が篭もった眼差しで、真っ直ぐに俺の顔を見据えて来る。
「そうか……」
エリンクス陛下とアドル2人の確固たる意思を聞いた俺は、それ以上なにも言わずに頷くのみ。
2人がそこまで言うなら、俺から何も言う事は無い──但しアドルが相変わらず垂れ流す妄想までには付き合うつもりは毛頭ないが!
まさかのアドルフィーネの飛び入り参加! なんと言うかエリンクス国王陛下もですがアドルフィーネも行動力があり過ぎます! 果たしてこれでオールディス王国は大丈夫なのでしょうか?!
*鱗鎧女袴…………金属の小板を幾重にも重ねてロングスカート状に作られた女性用専用の防具。そこそこ重い。
☆明日は【急】を10時にお送りいたします! お楽しみに!




