【転】
さて今回は【転】の回です!
ウィル達の事を「神に遣わされた方」とルアーナがぶちまけた直後からスタートします!
なんでこの皇女様は一言多いんでしょ?
《3》
ルアーナが俺達を「神に遣わされたお方」とぶちまけて玉座の間は大混乱したが何とか落ち着き
「大変お見苦しいところを……」
玉座を降り平伏しているヴォルフェン皇帝陛下。周りを見渡すと集まっていた貴族達も一様に平伏している。こうなるから神絡みの話は黙っていて欲しかったんだが!?
俺は傍にいるルアーナにジト目を向けるとルアーナは小さく舌を出して「しまった」と言う顔をしていた。可愛いからって何でも許されると思うなよ?
「あーっと、そんなに畏まられても困るんだが……」
「し、しかし、神から遣わされたお方に対する礼節を欠く訳には……」
何処かで聞いた台詞を口にする皇帝陛下。流石は親子である。それを見ているルアーナがウンウンと頷いている。どちらにしてもこのままでは埒が明かないので、何とか普通に接してもらえる事にした。但し呼び方は様付けのままだったが。
兎に角場所を移し話を続ける事にする。俺とコーゼストと皇帝陛下以外にルアーナとアンシェリーナ、あと1人宰相が控えの間に移動するとまず俺が口を開く。
「あーっとヴォルフェン皇帝陛下?」
「何でしょうかな、ウィルフレド様?」
……やっぱり様を付けられると身体がムズムズするんだが!? 俺はひとつ咳払いをするとルアーナ達に聞かせたのと同じ事を話して聞かせた。
「──と言う訳で俺達は機導頭脳の暴走を止めに来たんだ。具体的にどうするかは決まっていないんだが……」
当然機械の神──デアから依頼された事も含めてである。俺の話を皇帝陛下は目を閉じ腕を組んで聞いていたが
「それでしたら我らも協力出来るかも知れませんぞ」
そう徐ろに言葉を発する。
「それは「秘事」とか言うやつか?」
「おお、ルアーナから聞かれておいでか。そう、その「秘事」と呼ばれるモノです」
俺の受け答えに合点がいった顔をする皇帝陛下。
「その物言いだと言い伝えでは無く、何かを引き継いでいるのでしょうか?」
コーゼストが皇帝陛下の物言いに何かを感じ取り推測を話すと、皇帝陛下は大きく目を見開いて
「なんと! 如何にもその通りですコーゼスト様。我ら皇族には代々引き継がれて来たとある物があります。言葉で言うより実際に見ていただいた方が宜しいでしょうな」
コーゼストの推測を肯定すると、掛けていた豪奢な椅子から立ち上がり懐から小さな鍵を取り出し、背後に置かれていた鷹と思しき彫像の眼の部分にその鍵を差し込む。
カチリ、と音がすると壁の一角が音を立て床に沈み込み、隠されていた階段が現れた。
「この階段の奥にその「秘事」が置かれております」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
皇帝陛下に先導され隠し階段を降りる俺達。いつの間にか俺の右腕にルアーナがしっかり抱き着いていた。階段には灯りが配されているから暗くないのに何故だ?
そんな事を思っていたら階段の終点に到着した。そこは小さな部屋になっていて、壁一面に何やら複雑な規則性のある模様が刻まれており、部屋の奥には──
「──人形?」
身の丈2メルト程の人型機械が佇んでいた。
「コレが我ら皇族が引き継いで来たものです。この部屋とその奥に安置された旧型のドールが全てになります」
皇帝陛下が「秘事」について明かす。
「これ以外に伝わっている事はありませんか?」
「ありますな、口伝ですが。確か──『機導乱れる時、この部屋を訪れよ。資格有りし者の魔なる力が導きを開かん』でしたな」
コーゼストの質問にそう答える皇帝陛下。『機導乱れる時』とは今の状況の事を指すのだと思う。
「我もこの事態が起きてから幾度と無くこの部屋を訪れたのですが、何がなにやら全く解らず……」
さも残念そうな皇帝陛下や部屋を見渡しているルアーナ達を置いて、俺とコーゼストは安置されたドールを調べ始めた。
「どうだ、コーゼスト?」
コーゼストはドールを備に調べると
「これは──機械人形ではありませんね。構造は私達が知っているのとは異なりますが自動人形だと思われます」
「なんだって?!」
驚く俺を尻目に更に目の前のオートマトンを調べるコーゼスト。
「ふむ……特に何処も壊れている訳では無く、単なる停止状態ですね。外部から起動用の魔力を与えれば起動すると思われます。なのでマスター ──」
そこまで言うとこちらに視線を向けるコーゼスト。
「はァ……わかったわかった。俺が魔力を与えれば良いんだろ?」
「理解が早くて助かります」
俺に恭しく頭を下げて礼を執るコーゼストをジト目で睨みながらオートマトンに近付いた俺は、オートマトンに触れようとして──
「──コーゼストさんや」
「何でしょうか?」
「何処から魔力を与えれば良いんだ、コレ?」
思わず確認してしまう俺。わからないんだから仕方ない。
「腹部付近に魔皇炉がありますので、そこから魔力を与えれば起動するかと」
「了解っと──どうだ?!」
コーゼストの指示を受けオートマトンの腹部に手を当て属性装備を使う要領でオートマトンに魔力を流し込む。やがてオートマトンから声が聞こえる。
『外部魔力を確認。起動します』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『メインプログラム・ロード。システムオールクリア。再起動確認。『トランゼ』起動しました』
そう声が告げるとゆっくり目を開けるオートマトン。そして俺に視線を向けて確認して来る。
「私を起こシたのはアナタですカ?」
「あ、ああ、そうだが?」
「オなまえを伺っテも?」
「俺の名はウィルフレド・ハーヴィーだが……」
何となく嫌な予感がするんだが?!
「わかリマした。アナタを資質あリと認めます。私『トランゼ』の所有権は一時的にウィルフレド・ハーヴィーに移ジョウされましタ」
ほらやっぱり! こうなる〜〜〜!! 俺は目の前で俺に傅くオートマトン──トランゼを見て深い溜め息をついた。事の成り行きを見ていた皇帝陛下やルアーナが「流石は神から遣わされたお方!」と何やら絶賛している。
いやいや、いきなり異世界で仲間増やしても困るんだが?!
「トランゼに確認します。貴方は一時的に所有権を移譲と言いましたが、何か特定の行動もしくは場所と関係があるのですか?」
俺が頭を抱えて悩んでいたらコーゼストが代わりに聞くべき事を聞いてくれた。トランゼはそれに答える。
「はい。ワたしは──」
トランゼの話だと彼は自分の事をオートマトンだと判断出来る技術力と起動させられる魔力を保有する者の選定者で、認めた者を機導頭脳が置かれている機械之塔と言う所まで連れて行くのが使命なのだそうだ。
「するとお前は道案内役と言う事か……」
「ハい。塔までオ連れしますが、サキに進むにはこの部ヤで手掛かりを得ナイといけませン」
トランゼの物言いに困惑する。だってこの部屋にはトランゼのみが置かれていただけなのだ。だがそれに対しコーゼストは「それに関しては私にお任せ下さい」と何やら自信ありげである。
まぁその辺はコーゼストに丸投げにしよう!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
兎にも角にも最短でマシンブレイン──機械之神の所に行く算段がついたので改めて装備を整える──まぁコーゼストの無限収納からちゃんとした装備を出しただけなのだが。そして再びトランゼの元に向かい声を掛ける。
「準備ハ宜しイでしょうか?」
「ああ、それでどうやって俺達を連れて行ってくれるんだ?」
そう聞く俺。何となく想像が付くのだが、まさかと思う気持ちの方が勝っていた。
「はい。ワタシがお2人ヲ塔の入口まで転イでお連れシマす。ソれがワタシの役目なのデス」
……やっぱり想像通りだった。と言うか何でこんなまわりくどい方法を取らせるんだ? 俺が素朴な疑問を感じていると
「そレデは機械之塔にお連れシマス。私のソバにお寄リクださイ」
トランゼの言葉を聞き、とりあえず疑問を棚上げにして言われた通りにトランゼの傍に立つ俺とコーゼスト。
「では転移シマス」
そう言うとトランゼを中心に足元に見慣れない魔法陣が展開される! どうやらこれは転移魔法らしいと思っていたら
「待ってくださ〜〜〜いっ!!」
それまで黙っていたルアーナとアンシェリーナがいきなり魔法陣に飛び込んできた! ちょっと待て!?
その瞬間に転移が始まり俺とコーゼスト、そしてルアーナとアンシェリーナも纏めて転移の光に包まれる!
「な、な、なんだこりゃあーーー!!!」
俺の絶叫は光の中に掻き消えた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「「申し訳もございません……」」
目の前でルアーナとアンシェリーナが全力の土下座を敢行中である。
「謝っていないで、先ず説明してくれないか?」
俺は痛むこめかみを揉みながら2人に説明を求める。
「「はい……実は……」」
ルアーナとアンシェリーナの言う事には──自分達も何か俺達の役に立ちたいと慮った結果なのだそうだ。その志は立派なのだが物事には限度と言うものがあるのを知らないのか? 何となくだがこの皇女様とお付の近衛騎士はあちこちでトラブルに自ら頭を突っ込み回っている気がする。
「どちらにしてもこのままと言う訳にはいきません。2人にも来てもらうのが宜しいかと」
コーゼストが正論を口にする。そらこんな所に置き去りにして何かあったら寝覚めが悪いのは確かだし…… 。俺はひとつ大きく息を吐くと
「……わかったわかりました。2人とも一緒に来てくれ」
半ば投げ遣り気味に言い放つ。それを聞いて「は、はいっ!」と急に元気になる2人。今までシュンとしていたのが嘘みたいである。
「デハ私はここでお待ちしテオリます。ドうかご武運ヲ」
トランゼはそのままこの場に残るらしい。まぁオートマトンだし大丈夫だろう。
「さてと、行ってみるか」
俺は3人に声を掛けると目の前に有る扉に手を掛ける。すると手が触れた瞬間、独りでに扉が開いた。思わずたたらを踏んだ俺の目に、通路の向こうから押し寄せる兵士人形の群れが見えた!
「早速団体さんがお見えになったぞ!!」
俺の声に臨戦態勢をとるコーゼストとアンシェリーナ!
「では先手は私が」
そう言うとコーゼストが前に立ち、右手の人差し指と中指をソルジャードールの群れに向け突き出す形をとる。その突き出した2本の指の先に光が灯り急激に明るさを増して行き──
『増幅光束』
そうコーゼストが唱えると眩しさを増した指先から光の束が放たれる! ソルジャードールに当たった光の束はソルジャードールの胴体を貫通して後ろにいたソルジャードールも貫く!
「おいおい何をしたんだ、コーゼスト!?」
「ただ単に光魔法『眩燿』の光を位相調律し増幅して、エネルギーの高い光として放出しただけです。手数を撃つならこの方が効果的ですので」
「またとんでもない事をしやがって!!」
コーゼストが放った魔法に悪態をつく俺。それでも襲いかかって来たソルジャードールを一刀両断にしているが。傍ではアンシェリーナが同様にソルジャードールを斬り裂いている。最初にあった時とは別人の様で驚いていると
「流石は皇族に伝わる宝剣『レイザーブレード』、斬れ味抜群ですね!」
と嬉々としたアンシェリーナの声が聞こえた。なるほど装備が違うのか。道理で強い訳だ。
そう思いながらも手を休めず斬りかかって来るソルジャードールを返り討ちにする俺! しかし数が多いな!? 仕方ない──
「コーゼスト!」
俺はひと声吠えると刀剣を大振りに横薙ぎ、巨大な空裂斬を生み出す! それに合わせる様にコーゼストも増幅光束を放ちながら横に腕を振っていく! アギトの斬撃波とマギアレーザーに胴体を横薙ぎに切断されるソルジャードールの群れ!
程なくして、押し寄せた軍勢は全て沈黙したのであった。
「良し、先に進むぞ」
俺はセイバーを構えたまま通路の奥に向かい駆け出す。
「張り切ってますね? マスター」
一緒に駆け出したコーゼストが横に並ぶと意外そうに言う。
「そらまあ早く解決してとっとと帰りたいからな……」
後ろから付いて来るアンシェリーナとルアーナをチラリと見ながら、そんな言葉を漏らす俺。
いや、だって、なぁ?
皇族に伝えられていた「秘事」とは自動人形だったのでした。勿論それだけではありませんが、こうした面倒な仕掛けを解くコーゼストの活躍は次も続きます!
それにしてもルアーナ皇女はトラブルメーカーか?! そして遂にマシンナリーが居る塔に向かったウィル達の運命は?!
*いよいよ次回は【結】の回になります! 明日14時を是非お楽しみに!




