【その①】
皆様、新年あけましておめでとうございます!
2026年初っ端からお届けします「俺ヒザ」のスピンオフ! 今回のお話の時間軸はep316/299話とep317/300話の間のお話となっております!
いつもの事ながらおせち料理を食べながらゆる〜く読んでいただけると幸いです!
それでは【その①】からどうぞ!!
【その①】
「ねぇ、お父さん。お願いがあるんだけど……いい?」
迷宮「魔王の庭」の第十二階層の調査もひと通り終え、イーヴァインやクロノの件も漸く解決し、ウィルが久々に自分の屋敷の自分の部屋でのんびりと過ごしていた所、愛娘のマーユから朝っぱらから上目遣いのお強請り攻撃をモロに受けていた。
「ん? 何だマーユ、俺にお願いって?」
マーユの愛らしさににやけそうになるのを、頬の内側の肉を噛みながら懸命に堪えながら、そう尋ねるウィル。
「えっとね、実は……お父さんの従魔のみんなと一緒にお出かけしたいの」
「はぁ?」
突然のマーユの申し出にウィルは思わず目を白黒させる。
「ほら、いつもお父さん達と一緒にあちこちお出かけしてるけど、たまにはファウストやヤトお姉ちゃんなんかと一緒に探検したいなぁ、と思って……だめ?」
そう言うと瞳をキラキラさせながら、ウィルを見つめてくるマーユ。
「探検ったって……何処に行く気でいるんだ?」
「うんとね、ラーナルー市の街の中を通ってすぐ近くの丘の上まで行きたいの」
そう言って更に上目遣い攻撃を強めるマーユ。思いの外、マーユの上目遣い攻撃は攻撃力が高いなと、場違いな事を思うウィル。
だが一方でウィルはマーユの言いたい事が分かる気がしていた。マーユの中にも、やはりマデレイネの血が流れており、彼女にとっては見慣れたラーナルー市内も、立派なダンジョンなのだろう。
だからこそ『小さな探検』をしたいのだと、ウィルはマーユの様子にそんな事を思うのであった。
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兎にも角にもそう言う事なら、ウィルとしても希望を叶えてやる事に吝かでは無いが、しかし問題もある。それはウィルの従魔達は、素でも威圧感が半端ないと言う事だ。
「うーん……」
思わず腕を組んで唸るウィル。
「だめ……かなぁ?」
一方のマーユは瞳をうるうるさせて、ウィルの方に視線を向けてくる。
「マスター。そう言う事でしたら、ひとつ解決策がありますよ?」
そんなウィルの様子を見かねたのか、すぐ傍で控えていたコーゼストが口を開く。
「……何だよ、解決策って?」
「はい、ファウストを始めとする従魔達を全て仮想体にして、マーユちゃんのお供に付けるのです。そうすれば万事解決です」
そう言うとドヤ顔を決め込むコーゼスト。だがそれはそれで問題がある。
「ファウストやヤトなんかは兎も角、イーヴァインがアバターになってくれるのか?」
「それは大丈夫ですよ。マーユちゃんのお供となれば、イーヴァインの場合は逆に喜んでアバターになってくれる筈です。その代わり、かなり可愛くなりそうですが」
コーゼストの言葉に一瞬ウィルの脳裏に「萌え爺」と言う文言が浮かぶ。
「確かに……それは有り得るな」
何せイーヴァインはマーユの事を猫可愛がりしており、いつもは雄々しいイーヴァインも、マーユの前では唯の好々爺になるのは周知の事実なのである。
「マーユの為」と言えば、嬉々として自ら進んで短身モードでも、何でもやりそうなのは目に見えていた。
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とりあえずそう言う事ならと、それぞれ自室で寛いでいるヤトやセレネ、それにニュクスやイーヴァインを、侍女のリアに頼んで大広間に呼んできてもらうウィル。
それから程なくして──
「なぁに? 御主人様ァ? いきなり呼び出したりしてぇ? 私ぃ、これから三度寝しようと思っていたのにぃ……」
「もうヤトったら……リアから御主人様が急用だって言われたでしょうに…… ヤトは置いておいて、このセレネに何なりと言って下さいましね? 御主人様♡」
「くふっ、セレネ? 抜け駆けは許しませんわ。主様、用とあらばこのニュクスにお任せ下さいませ♡」
「火急の要件と聞いて馳せ参じたぞい、主殿!」
ヤトやセレネやニュクスの魔物娘'Sとイーヴァインが、口々にそう言いながら大広間に姿を現した。相変わらず賑々しい面子である。そんな4体にウィルは思わず苦笑をしながら、コーゼストの中からファウストとデュークをアバターで顕現させる。
「「ワンワン!」」
「ヴ……マスター、お呼ビでしょうカ?」
喚び出されたのが余程嬉しいのか、尻尾を千切れるかの様にぶん回すファウストと、表情からは分からないがやはり嬉しそうな声色のデュークの2体。ここにスクルドを除くウィルの従魔達が勢揃いしたのである。
「えへん! あーっと、皆んな聞いてくれ。実はな……」
ウィルはわざとらしい咳払いをひとつすると、皆んなをこの大広間に集めた理由を、出来るだけ分かりやすく説明するのであった。
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「……と、まぁ、そう言う話なんだが……どうだ? 皆んな、ひとつ頼まれてくれないか?」
集めた従魔達にマーユの願いを全て話すと、皆んなに向かって頭を下げるウィル。その横ではマーユもウィル同様に「お願いします」と頭を下げていた。
「他でも無い主殿の頼みであるし、何よりマーユちゃんの願いとなれば、儂に否やは無いぞい! 喜んでその役目を引き受けようぞ!」
真っ先にイーヴァインがそう返事を返し
「私も別に構わないわよ! それぐらいの事ならお安い御用よ!」
「それぐらいの事なら、何ら問題ありませんわ。私にお任せ下さいまし。ね? 御主人様♡」
「くふ、他でも無い主様とマーユちゃんの頼み、妾も確かに承りましたわ♡」
「このデューク、マスターの御命令ヲ確かに受領致しマシた」
「「ワンワンワンッ!!」」
続けてヤトやセレネやニュクス、そしてデュークにファウストも、ウィルに対して威勢良く返答をする。
「ッ……皆んな、有難う」
「イーヴァインおじいちゃん! ヤトお姉ちゃん! セレネお姉ちゃん! ニュクスお姉ちゃん! デュークもファウストも、皆んな本当にありがとう!」
そんな頼もしい従魔達に、心からの感謝を伝えるウィルとマーユ。
「ね? 私が言った通りでしょう?」
そんな2人にそう言うと、これまた満面のドヤ顔を見せるのはコーゼスト。
何故にお前がそんなに偉そうな顔をするんだ、とウィルは頭の中でコーゼストに至極真っ当な突っ込みを入れたりしていた。
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「さて、と……これで忘れ物は無いな」
マーユ愛用の小型肩掛鞄に必要最低限のものを入れ終わり、満足そうに独り言ちるウィル。可愛い兎の刺繍が入っている手巾等は兎も角として、銀貨が10枚入った皮袋を入れたのは些か、いやかなり過剰過ぎる気がする。
「全く……『親馬鹿ここに極まれり』ですね」
「うるせーぞ、コーゼスト」
その様子を見て呆れた物言いのコーゼストに、思わず気色ばむウィル。
「お父さん! コーゼストお姉ちゃん! 準備出来たよ!」
ウィルとコーゼストがそんな掛け合いをしていると、お気に入りの余所行きのワンピースに着替えたマーユが、ご機嫌な顔で2人の元にやって来た。
「ああ、此方の方も準備は万端だ」
そう言うとマーユに彼女愛用のポシェットを手渡すウィル。
「「ワンワン!」」
「マーユちゃん、お待たセシました」
「マーユ、お待たせッ!」
「此方のお出掛け準備は整いましたわ、御主人様♡」
「くふっ、此方はいつでも出発出来ますわ、主様♡」
「よぉし! それでは出掛けようではないか、マーユちゃん!」
時を同じくして従魔達がアバターの姿になってウィル達の前に整列した。
特にイーヴァインは2メルトの巨体から、90セルト程の3等身の短身モードにと、大分可愛くなっている。そんなイーヴァインの姿を見て、ウィルの脳裏には「萌え爺」と言うフレーズが、再度浮かんでは消える。
何はともあれコレで、マーユの「小さな探検」の準備がひと通り整ったのである。
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かくしてマーユと愉快な(?)仲間達の準備は全て完了し、屋敷の玄関広間からいよいよ出発する運びとなった。エントランスホールには完璧家令のシモンを初め、屋敷の使用人達がマーユ達の出発を見送る為に一堂に会していた。
「マーユお嬢様、そして皆様方も行ってらっしゃいませ」
『『『『『行ってらっしゃいませ!』』』』』
そう言うとマーユ達に向けて会釈をする一同。
「うん! シモン、皆んなもありがとう! 行ってきますッ!」
そんなシモン達に笑顔で挨拶を返すマーユ。ヤト達魔物娘'Sやイーヴァイン、そしてデュークも「行ってきます」と声を揃え、ファウストは千切れんばかりに尻尾を振って、やはりシモン達に答える。
「よしッ、それじゃあマーユ、気を付けて行ってくるんだぞ? ファウスト達もマーユの事を頼んだぞ?」
シモン達とマーユ達のやり取りを黙って見ていたウィルも、そんな言葉と共にマーユ達を笑顔で送り出す。
「御主人様! この私に任せなさいっての!」
「御主人様、ヤトだけで無くこのセレネにもお任せ下さいまし♡」
「くふっ、主様。ヤトやセレネだけで無く、妾もいるのでご安心下さいませ♡」
「うむ! 確かに任されたぞい!」
「お任セ下さイ」
「「ワンワンッ!」」
ヤトが、セレネが、ニュクスが、イーヴァインが、デュークが、そしてファウストが銘々に答え
「うんッ! お父さん、行ってきまーーーすッ!」
最後にマーユがウィルに答えて、一行は元気良く屋敷から出掛けたのであった。
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「それでマーユ、何処から見て回るのかしら?」
屋敷を出て直ぐに、マーユにそう尋ねるのはヤト。それに呼応するかのように、首を縦に振るのはセレネやニュクス、それにイーヴァインやデューク。やはりと言うか何と言うか、従魔達の序列はヤトが一番みたいである。まぁ短身モードなのでいまいち迫力に欠けるが。
「うんとね……まずはマーケットでお店屋さんを見て回ってから……冒険者ギルドに寄ってルピィお母さんに会って……そのあとは西の正門からラーナルー市を見下ろせるって言う、丘の上まで行くつもりなんだけど……」
ヤトの問い掛けに小さな頤に指を当てながら、そう訥々と答えを返すマーユ。
「ふーん、それでいいんじゃないかな? ね、皆んなはどう思う?」
「そうねぇ、別にダンジョンに行く訳でも無いんだし、私もそれで良いと思うわよ」
「くふ、主様からマーユちゃんの身の安全を第一に、と言われてますからね。妾もそれで良いかと」
「そうじゃのう。何を置いてもマーユちゃんの安全が一番大事じゃからな!」
「ヴ……今回はマーユちゃんの命令に従いマス」
「「ワンワンワンッ!」」
マーユの言葉にそれぞれに同意を示す、ヤトを初めとする従魔達。
「よーし、それじゃあまずはマーケットに向かって出発!!」
「「「「「オーッ!」」」」」
「「ウーッ、ワンッ!」」
マーユの号令一下、元気良く返事をして市場へと歩を進める、ヤト以下の愉快な仲間達なのであった。
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兎にも角にも屋敷があるラーナルー市の第三層区画北街区、所謂高級住宅街の大通りを、仲良く歩調を合わせて歩いて行くマーユ達一行。その途中では
「おはよう、マーユちゃん。今日はウィルさんと一緒じゃないのね?」
顔馴染みのご近所のご婦人が、マーユを見掛けると声を掛けてくる。
「あっ! おはようございまぁすッ! はい! 今日はお父さんとじゃなくて、ファウスト達と一緒にお出かけして来ます!」
そんなご近所さんにこれから何処に行くのか、身振り手振りを交えながら話して聞かせるマーユ。
「あらっ、そうなの? でも従魔の皆んなが一緒だから安心ね」
ご近所さんの言葉を聞いて、特上のドヤ顔を決め込むヤト達魔物娘'S。イーヴァインやデュークも表情は読みにくいが嬉しそうだし、ファウストに至っては尻尾を千切れんばかりにぶん回している。
「それじゃあ気を付けて行ってくるのよ。従魔の皆んなもマーユちゃんを守ってあげなさいね?」
「はぁい!ありがとうございますッ!」
「うん! 任せなさいっての!」
続くご近所さんの台詞に、これまた特上の笑顔でお礼を言うマーユと、従魔達を代表する形で答えるのはちびヤト。
そうしてそのご婦人と別れた後も、幾人かの顔馴染みのヒト達と出会っては同じ様な会話を繰り返しながら、いよいよマーユと愉快な仲間達はラーナルー市の第一層区画の東区、つまりは最初の目的地である市場へとやって来たのであった。
この先、何が起こるかは分からないが、マーユの『小さな探検』は、まだ始まったばかりだ。
今回の主役(?)はマーユちゃん! お供にはご存知ファウスト達従魔一行が加わっております! さていよいよ始まったマーユちゃんの『小さな探検』のお話! この後はどうなるか、次回【その②】は明日10時に更新ですので是非ともお読み下さいませ!




