【承】
さて今回は起承転結の【承】の回です。
転移して来た異世界での第三種接近遭遇です。助けた2人の女性は何処の誰なのか?!
【承】
「お陰で助かりましたっ!」
軽鎧を纏った女性戦士が、俺とコーゼストに頭を下げている。怪我を負った右腕はコーゼストが回復魔法で治してやったのだ。何でも魔法は今まで知識としてあったものは一通り使えるらしい。
「……これも神様効果なのかね」
「はい?」
「いや、何でもない」
コーゼストのあまりの出鱈目振りに思わず口をついて出た呟きを女性戦士に聞かれ誤魔化す俺。軽く咳払いをすると
「兎に角無事で何よりだ。俺の名はウィルフレド・ハーヴィー、こいつはコーゼストと言う」
「コーゼストと申します。以後お見知り置きを」
2人でそれぞれ自己紹介をするとそれに答えて
「そう言えばまだ名乗っていませんでした。私はアンシェリーナ・フォーシェと申します。そしてこちらのお方は──」
「ルアーナ・フォン・ヴォルフェンと申します。助けていただきありがとうございました」
女性戦士──アンシェリーナが自己紹介をし、続けて先程後ろで怯えていた少女が綺麗な礼を執りながら自らの名を明かす、がちょっと待て、もしかしてルアーナって娘は──
「失礼ですがもしかしてルアーナさんは、やんごとなき身分のお方なのでしょうか?」
俺の感じた疑問をコーゼストが質問してくれる。するとルアーナは
「はい、確かに私はこのサマルー皇国のヴォルフェン皇帝の娘です。今は出家してますが……」
「私はルアーナ様お付の近衛騎士ですっ」
自分達の身分をあっさり明かした。しかし真逆の王女様──いや、この場合は皇女様になるのか──だったとは! 俺が更に質問を重ねようとしたら
「申し訳ありませんが、どうかコーゼスト様のお力で他の人達を治していただけないでしょうか? お礼は差し上げますので」
ルアーナ皇女がコーゼストに頼み込んで来た。そういや他の人が未だだったな。
「わかりました。では早速治療致しましょう」
「よろしくお願いします、コーゼスト様」
「コーゼスト様、感謝しますっ!」
請われたコーゼストは治療を快諾し、早速回復魔法を掛けて回り始めた。
どうでも良いが、オレ、空気じゃね?
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「「申し訳ありませんでした、ウィルフレド様!」」
目の前でアンシェリーナとルアーナ皇女が並んで俺に頭を下げ謝罪している。
「コーゼスト様が魔法をお使いになられたので、そちらに気を取られてしまいました」
とはルアーナ皇女の弁である。何でもこの『アウロア』では魔法を使える人は稀有な存在で、かく言うルアーナ皇女も魔法が使える数少ない人なのだそうだ。
「私の場合は回復魔法と水魔法が少し使える程度なんですが……コーゼスト様ほどではありませんの」
その稀有な力を持つ為に皇籍を離れ神殿の巫女を務めているんです、とはまたもルアーナ皇女の弁。魔法が稀有なのは機械の神──デアの話にあったから知ってはいたが正直ここまでとは思っていなかった。まぁとりあえずの疑問は置いといて……
「その皇女様がどうしてここに居るんだ?」
今確認しなくてはならない事を聞く俺。
「はい。実はこの冥闇の森に来る様にと『ご神託』がありまして……何でもここに来れば『運命』と出会えると」
ルアーナ皇女の台詞を聞いて思わず額に手をやる俺。これは間違いなくデアの仕業である。しかも俺に言ったのと同じ台詞を神託にしているし…… 。何なんだよ、その曖昧な表現は!?
思わず頭の中でデアに突っ込んでいるとルアーナ皇女が俺達をマジマジと見つめて来て
「あの……もしかしたらウィルフレド様達はこの国のお方では無いのでしょうか? 私を皇女だと聞いても慌てる素振りが無いので……」
そんな事を宣う。なかなか鋭い皇女様である。
「ああ、俺達はこの国はおろかこの世界の人間じゃない」
「「…………はい?」」
俺の答えにキョトンとするアンシェリーナとルアーナ皇女。
「マスター、幾ら何でもいきなり過ぎです」
傍ではコーゼストがジト目を向けてくる。
いや、だって黙っていたら話が進まないだろ?
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「……つまりウィルフレド様とコーゼスト様は神によりこの世に遣わされたと?」
「まぁ有り体に言えばそうだな」
俺達がこの世界に来た経緯を話して聞かせたルアーナ皇女は紫水晶の瞳を輝かせ、俺が話した事をオウム返しに聞いてくる。まぁ何度聞かれてもコレが真実なので他に言い様が無いんだが。
俺がそんな事を考えていたら急にルアーナ皇女が俺達に対し土下座を敢行した! それに併せアンシェリーナや周りの人達も一斉にである! なんだなんだ?!
「お願いします! どうか私達に力をお貸しください!」
「それって、この世界の機械が一斉に反乱を起こした事に関してだな?」
「は、はい、その通りです」
ルアーナ皇女はそう言って目を伏せる。そもそも俺とコーゼストがこの『アウロア』に来させられた理由は、この世界に存在する機導頭脳と言うのが暴走して人間を見境無く襲っているのを止めて欲しい、と言うデアからの依頼なのである。俺は魔道具とか機械とかはさっぱりなので本来なら断るべき話なのだが、その機導頭脳と言うのは「アルカ」と同じ魔導人工頭脳なのだそうだ。そうなると嘗て「アルカ」を修理した事のあるコーゼストの出番である。
解決出来る力があるなら例え別の世界でも手を貸してやりたくなるのは人情と言うものだ。
「わかった、わかったからどうか顔を上げてくれ! 俺はそんなに大層な人間じゃないんだ! 普通に接してくれればいいから!」
「し、しかし、神から遣わされた方に対する礼節を欠く訳には……」
「いいから普通にしてくれ〜〜〜〜〜!!」
俺の台詞に渋るルアーナ皇女に大声で懇願する俺。
いや本気でガラじゃないから勘弁して欲しい!!
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すったもんだの末、何とか普通に接してもらえる事になった俺。コーゼストは……まぁ、様付けを喜んでいるみたいなのでそのままで良いだろう。兎にも角にも一度皇城に来て皇帝にあって欲しいとルアーナ皇女に請われ、彼女達の乗ってきた馬車に乗って皇城に戻る事になった。
「本当に「馬無し」なんだな……」
改めてこの世界の馬車に乗ったが、何と馬が居ないのだ。何でも「魔動機」と言う機械が馬車の客車に組み込まれていて、それで車輪を動かしているのだそうだ。御者は馬車の前方に座り、目の前にある大きなハンドルやらレバーやらを操作してこの「馬無し」馬車を走らせていた。
「乗り心地は如何でしょうか、ウィルさん?」
座席に並んで座っているルアーナ皇女が聞いてくる。この皇女専用の「馬無し」馬車のキャリッジは3人掛けの座席が対面して置かれていて、片方にアンシェリーナと護衛の2人が座り、もう片方には何故か俺を挟む様に右にルアーナ皇女が左にコーゼストが座っていた。
「あ、ああ、乗り心地は快適だよ。ルアーナ皇女様」
「私の事は是非ルアーナとお呼びください。ウィルフレド様」
「いや、だから様は止めてくれないかな?!」
「では私の事もどうかルアーナと」
意外と強かな皇女様であらせられる。聞けば皇女──ルアーナは今年13歳になったばかりなのだそうだ。丁度ルアンジェの設定年齢と同じである。よく見ればアメジストの瞳が烏の様な黒髪と引き立てあってなかなかの美少女だ──顔立ちは何となくルアンジェを連想させる。
「マスター、何処かお加減が優れませんか?」
一方、左側に座っているコーゼストが不意に黙り込んだ俺の顔を心配気に覗き込んでくるが、その拍子に大きな胸が目の前でたゆんと揺れる。それでなくてもヒトの姿を手に入れたお前の美貌は破壊力があるんだからな!? そんなに近付くんじゃありません!
左右を美人と美少女に挟まれ、何となく居た堪れない気持ちになる俺であった。何なんだ一体…… 。
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「そ、そう言えば襲って来ていたあの機械の騎士は何なんだ?」
気を紛らわす意味も込めて俺は対面に座るアンシェリーナに質問をする。こちらも肩までの赤い髪と紅玉の様な瞳は違うが顔立ちがアンに似ている。
「あ、はい。奴等は兵士人形と言い、人形のひと種類です」
「ドール?」
「はい、人形と言うのはこの世界で誰もが皆使役していた機械仕掛けの人型の事を言います」
何でもこの『アウロア』と言う世界では色んな人々がこの人形と言う人型機械を使い、土木工事などの重労働や危険な作業を行わせていたのだそうだ。丁度俺達が魔法でゴーレムを魔法工学で自動人形を作り使役するのと似ている。
「ですがある日、このドールを製造・管理する機導頭脳が突如私達人間に反旗を翻しました。マシンブレインは自らを『機械之神』と名乗り戦闘用のドールであるソルジャードールを大量生産して人間を攻撃してきたのです」
アンシェリーナに続けてルアーナが話の続きを語る。俺達としても何をすべきかと言う「目的」は聞いているが、その「目的」に至る道程は示されていないから、こうした話を聞かせてもらう事は重要である。
「するとマシンブレインを何とかすれば問題は全て解決だが……」
「そのマシンブレインに到達する為には問題が山積していますね」
そう簡単には事が進まないのを自覚し少しめげる俺とコーゼスト。
「そうした事も含め、一度父──ヴォルフェン皇帝に会っていただきたいのです。父と話せば何か打開策が見いだせるかも知れません」
そんな俺達を見て励ます様に言葉を掛けてくるルアーナ。何でも皇族には「秘事」があり、この世界の危機に備えるべく代々受け継がれているらしい。尤もそれが何なのか知っているのは代々の皇帝のみなのだそうだ。
今はそれに賭けるしか無い……のか。
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「馬無し」馬車に揺られること半日、皇都メディウムに無事到着した。無事と言ってもここに来るまで三度ソルジャードールの群れに遭遇、戦闘を繰り広げたのだが。全て俺とコーゼストで返り討ちにしたのは言うまでもない。お陰でルアーナとアンシェリーナからの視線がやたら熱く感じるんだが?
兎に角今すべき事をする為に気を引き締め、皇城に登城すると皇城の奥にある玉座の間に通される俺とコーゼスト。その上座の玉座には黒髪の壮年の男性が──この国サマルー皇国皇帝ヴォルフェンが座っていた。その左右には恐らくこの国の重鎮と思しき貴族達が立ち並ぶ。
皇帝の前に進み出ると片膝を着いて傅くルアーナとアンシェリーナ。俺達もそれに倣い同じ姿勢を取る。
「父上、ただいま戻りました」
傅きながらルアーナが父親である皇帝に帰還の挨拶を口にする。
「おお、ルアーナ。良くぞ無事に帰って来たな」
優しげな声でルアーナに語り掛けるヴォルフェン皇帝。
「はい。冥闇の森で多数のマシンソルジャーに会い、危ない所をここに居らっしゃるウィルフレド様とコーゼスト様に助けていただきました」
「何と!? それは危なかったな! 面を上げるが良いぞ、ウィルフレドとコーゼストとやら。是非とも余からも礼を言わせてくれ!」
皇帝にそう言われ俺とコーゼストは伏せていた顔を上げる。
「父上──いえ皇帝陛下、このウィルフレド様とコーゼスト様はかの問題を解決すべく神に遣わされたお方でございます」
礼の言葉を紡ごうとした父皇帝に向かいルアーナが爆裂魔法級の発言を言い放った! いやいやルアーナさんや、こんな大勢が居る所でそんな事をぶっちゃけないでもらえないか?!
「な、何と! それは誠か?!」
ほらやっぱり、皇帝陛下がピキリと固まってしまった。良く見ると周りのお歴々も一様に静止しているし。
俺としてはあまり大事にして欲しく無かったんだけどなぁ…… 。そう心の中でぼやく俺に
『ルアーナ皇女と出逢った時点で既に大事になっていたのに気付かなかったのですか?』
傍にいるコーゼストから念話で突っ込まれた。
いや、まぁ、そうなんだが………… 。
出会った2人は皇国の皇女様と近衛騎士でした!
そしてあっさり自分達の正体を明かすウィル! まぁそうでもしないと話がそもそも進みませんからね!
それにしてもやたら積極的なルアーナ皇女でございます。
*次回は【転】の回をお送りします! 明日14時をお楽しみに!




