【その三】
2022年「なぜか俺のヒザに」スピンオフ! その最終話です! いきなりの戦闘シーンから始まる今回でいよいよ決着が?! アン達4人を待ち受けるモノとは?! 果たしてアン達は生き残る事が出来るのか!?
それでは【その三】をお楽しみ下さい!
【その三】
「ブギャッ!?」
「ブフォ?!」
「ナ、なンダどォォォーーッ?!」
長剣で胸板を突き抜かれ、或いは後頭部を『破砕掌』で破裂させられ、或いは戦斧を持つ両腕を鎌剣で斬り落とされ、強化型巨猪人達が立て続けに濁った悲鳴を上げる!
「ギッ?!」
両腕を斬り落とされたウルクは、アンの魔導小火砲『リュシフェル』から放たれた魔力弾で頭を撃ち抜かれ、止めを刺される! 3体の強化型巨猪人は光の粒子へと変わり、後には大振りな魔核のみが残された。
「ふぅ……」
ウルクが光の粒子になって消えるのを見届けたアンは、『リュシフェル』の射撃姿勢を解くと小さく溜め息を漏らす。前の方ではエリナとレオナが戦闘の余韻から、大きく息を吐いて緊張を解いている。ルアンジェはいつも通りに魔核を回収している。
「エリナ、レオナ、ルアンジェ、怪我とかしていない?」
アンは前衛の3人にそう声を掛け、それに対して「大丈夫」と端的に答える3人。夜営していた部屋から出て既に数戦、自動人形のルアンジェは兎も角エリナとレオナは疲れが出ていてもおかしくない状況である。
2人の様子をそう見て取ったアンは
「ここで少し休憩しましょう」
と言葉にすると同時に、肩に斜め掛けしていた無限収納ザックから『魔物避け』の魔道具を取り出して床に置くと、自身も通路の壁を背に腰を下ろす。
それを見たエリナとレオナも溜め息と共に、やはり壁を背に腰を下ろす。2人が腰を下ろすのを見て、アンは床に置いた魔道具を起動させるのだった。
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銘々に休憩している中、アンは水晶地図板を腰袋から取り出して地図を確認していた。それと夜営した部屋からの移動時間を確認したアンは
(そろそろこの回廊も終点に差し掛かるわね……)
等と思い、ここで今一度しっかり休んでおこうと考えていた。それはここ最下層で遭遇した魔物達が上位種ばかりだったので、最後の最後まで気を抜くべきでは無いと言う思いからに他ならない。
そして水晶地図板をポーチに仕舞うと、ふと今度は遠方対話機を手に取るアン。交換機を変える事無く、釦を押してウィルを呼び出す。耳に当てた遠方対話機から数度呼び出し音が響くが、ウィルが取る様子は無い。
(多分今は戦闘中、なのかも)
そう思い、再度遠方対話機のボタンを押して呼び出しを止めるアン。
(声を……聞きたかったな)
その顔は少し寂しそうである。
「アン」
その時不意にエリナから声が掛けられる。思わず其方に顔を向けると
「ウィルも私達と合流する為に今は必死だと思うの。だからそんな顔をしないで、ね?」
そう笑みを浮かべて優しく諭すエリナの姿が。その後ろではレオナもルアンジェも大きく頷いている。
「有難う、皆んな」
そんなエリナ達3人に素直に言葉を返すアン。
(そうね、私は1人じゃない。エリナやレオナ、そしてルアンジェも居るんだから)
だから必ず皆んなでウィルの元に帰るのだと、決意を新たにするアンであった。
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充分な休息をとったアン達は慎重に且つ速やかに迷宮の先へと進んで行った。先程の戦闘後、急に魔物との遭遇が無くなり、回廊にはアン達の足音だけが響き渡る。急に訪れた静寂を訝しむアン達。
やがて回廊の終点──上へと続く階段がある小さな部屋に出た彼女らを出迎えたのは──身の丈3メルトはあろうかと言う単眼巨人であった! 階段を守護するかの様に静かに階段前に佇むサイプロクス。その巨躯には蒼い輝きを放つ重甲冑が頭部を除き装備されている。その輝きから察するに星銀ではないかと思われた。
(参ったわね。最後の最後にこんな大物に逢うなんて……)
思わず心の中で呟くと、自分を含めた4人に『物理結界』を即座に掛けるアン。
サイプロクスは近付いて来たアン達4人をその大きな単眼の視界に捉えると
「グルゥゥゥ、ウオォォォーーーッ!!」
途端に大きな叫び声と共に、手にしたこれまた巨大な三日月斧を振りかざす!
「!? エリナ! レオナ! ルアンジェ!」
思わず叫ぶアン! それだけでエリナ達は何かを察して四方に散る! それと同時についさっきまで4人が居た場所に振り下ろされるバルディッシュ! 斧刃が床の敷石を深く穿ち、四方八方に飛び散る破片!
(?! あんなの食らったらひとたまりもないわ!)
『リュシフェル』を構えながら距離を取るアンはサイプロクスの膂力に舌を巻く! そんな出鱈目な攻撃の間隙を縫ってサイプロクスに左右から肉薄するのは、ロングソードを構えたエリナと拳鍔を握り締めたレオナ!
「はぁァァァーーーッ!」
「うぉぉぉぉーーーッ!!」
猛然とサイプロクスに攻撃を仕掛ける2人!
最下層最後の戦いの幕が切って落とされたのである!
~~~~~~~~~~
「うおりゃーーーーーッ!」
先に届いたのは『神聖な黒騎士団』の切り込み役であるレオナの拳! サイプロクスの右脚、その膝の横に綺麗な殴打が入る! それに一瞬遅れてエリナのロングソードもサイプロクスの左脚のやはり膝へと斬撃が入る! だが!
甲高い金属音が響き渡り、レオナのパンチもエリナの斬撃も重甲冑の膝当てに阻まれる! エリナのロングソードは兎も角、レオナの拳鍔が弾かれたと言う事は、やはりサイプロクスが身に纏っている重甲冑はミスリル製であるようだ。
「ッ?!?」
「コイツ、戦い慣れしている?!」
一方で自分達の攻撃が通らなかった事に驚くエリナとレオナの2人。2人共、重装甲の敵の相手をする時の定石通りに装甲の可動部の隙間に攻撃を仕掛けたのだが、サイプロクスは攻撃が当たる寸前に狙われた膝部を動かして防御したのだ。
唖然とする2人の様子に顔を歪ませる様に嗤うサイプロクス! すぐさまバルディッシュでの攻撃が2人を襲う!
「キャッ?!」
「グッ!?」
振り回されたバルディッシュの斧刃に吹き飛ばされるエリナとレオナ! それぞれ部屋の左右の壁まで吹き飛ばされて壁に身体を強打する! そのまま2人ともピクリともしない!
「エリナッ?! レオナッ?!」
『リュシフェル』を構えたまま悲痛な声で2人の名を呼ぶアン! だがその声にも身動ぎひとつしない2人。思わず最悪の事態が頭を過るが、その時、あと1人の姿が見えない事に気が付いたのである。
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その刹那!
「貴方の相手は彼女達だけじゃない」
2人に気を取られていたサイプロクスの死角から音も無く駆け寄るルアンジェの姿が!? そしてサイプロクスの巨躯を一気に駆け上がると、その太い首に二振りの鎌剣の刃を立てる! だが、しかし!
鎌剣の刃がサイプロクスの身体に当たる寸前で光の壁が現れてサイプロクスの身を守る!
「!?!」
「あ、あれは『光の神壁』ッ?!」
突如として発動した『光の神壁』に驚愕するルアンジェとアン! その時サイプロクスが纏う重甲冑が淡く発光しているのに気付いたアン!
(!? そうか! あのフルプレートは魔道具なのね!)
だが仕掛けが分かった所で事態が好転する事は無い。
サイプロクスの首を狩ろうとしていたルアンジェは、一瞬のスキを突かれ、その小柄で華奢に見える身体を大きな掌でむんずと掴まれると、目にも留まらぬ速さで部屋の壁に投げつけられる! 流石のルアンジェも受け身を取る暇さえ無くそのまま壁に激突してしまう!
「ッ!? か、はッ!」
「ルアンジェッ?!」
滅多に上げない苦悶の声を上げ、激突した壁からずり落ちるルアンジェ。その様子にまたもや悲痛な声をあげるアン!
そのまま床まで落ちるかと思われたが、すんでのところで何とか着地すると蹌踉ながらも立ち上がるルアンジェ。だが!
『──右腕不調。魔導火砲使用不可──身体各部に損害多数──回復まで直ちに全機能停止。再起動まで3600秒──』
それだけ言うとルアンジェはそれっきり動かなくなってしまったのである!
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「うそ……」
思わず呟くアン。ルアンジェが機能停止した事により、最早サイプロクスと対峙しているのはアンだけになってしまったのだ。
動かなくなったルアンジェに興味を失い、ただ1人残っているアンに狙いを定めるサイプロクス! 一瞬茫然としていたアンだが、自分にゆっくりと向かってくるサイプロクスに心を奮い立たせると、その単眼目掛けて『リュシフェル』での射撃を仕掛ける! だが撃ち出された魔力弾はサイプロクスの単眼の手前で光の壁に弾かれた! その様子に顔を歪ませるアン。どうやらサイプロクスの『光の神壁』は思いのほか強固であるらしい。
一方のサイプロクスは残虐な笑みに顔を歪め、アンに一歩また一歩と近付いて来る! 折れそうになる心を何とか奮い立たせ、今度は魔法『雷霆三叉戟』をサイプロクス目掛け放つアン!だがそれすらも光の壁に防がれる!
(こんな所で終わってしまうの?! 私の生は?!)
防がれる『雷霆三叉戟』を見て心の中で絶望するアン。既に心は折れ、遂には抵抗を止めてその場に立ち尽くしてしまう。
そんなアンを嘲笑うようにゆっくりバルディッシュを振り上げるサイプロクス! その凶刃が振り下ろされようとする刹那! 不意にその背が大きく爆ぜて部屋一杯に爆音が轟く!
「ゴガァッ?!」
「アン、おまたせッ!」
突然の事に苦悶の声を上げるサイプロクス! 驚くアンの目に映るのはウィルの従魔である半人半蛇のヤトの姿! そして!
「すまんッ! 遅くなったッ!」
アンが会いたいと希ったウィルの姿がそこにはあったのである!
~~~~~~~~~~
「ウ、ウィルッ! 来てくれたのね!」
ウィルの姿を認め、我を忘れて彼の名を呼ぶアン。最早涙声である。
「ちょっとアン! 私も居るんだけど?!」
そのアンに抗議するのはヤト。だが今はそんな事を言い争っている場合では無い。
『私も居ますよ?』
そんな軽口を叩くのは妖精体のコーゼスト。無論そんな軽口を叩いている場合では無いのは百も承知である。
ウィルは壁に吹き飛ばされて倒れているエリナとレオナの姿を認め、更に機能停止となっているルアンジェを目の当たりにして
「──アン、コイツが皆んなをこんな目に合わせたのか?」
と目の前に立つサイプロクスへと静かな、そして激しい怒りを表す! 一方不意打ちを食らったサイプロクスはサイプロクスで
「ウガァァァァァーーーッ!」
とバルディッシュを振りかざして既に臨戦態勢である! ウィルは既に抜き身の刀剣を横に構えると
「お前、煩い」
そう一言言い放ち、サイプロクスの首を目掛け無造作に全力全開の空裂斬を放つ! 解き放たれた斬撃波はサイプロクスの首に到達すると、攻撃を防ぐべく発生した光の壁ごとサイプロクスの首を横一文字に切断する!
断末魔の叫びを上げる間もなく、一瞬で絶命するサイプロクス! その巨躯が光の粒子となり、その後にはミスリルのフルプレートがガラガラと音を立てながら床に落ちて、小山の様に遺されるのだった。
~~~~~~~~~~
「す、凄い……」
あっという間の出来事に言葉を失うアン。自分達が苦戦したサイプロクスを難なく瞬殺したウィルに、改めて畏敬の念を抱く。
「アン、大丈夫か?」
そんなアンに近付いて声を掛けるウィル。返事の代わりに思いっきり抱き着いて感謝の気持ちを示す彼女に
「気持ちは分かるが……先ずはエリナ達の容態を見ないとな」
と彼女の髪を優しく撫でながら諭すウィル。
「え、ええ、そ、そうね」
そう言うとアンは頬を赤らめながらそっと離れるのだった。
その後、手分けしてエリナとレオナそしてルアンジェの様子を診るウィルとアン。エリナとレオナはアンが掛けた『物理結界』のお陰で骨折はしていたが致命傷には至っておらず、ウィルが持っていた上位回復薬で程なく意識を取り戻した。
まぁ気がついたら気がついたで、ウィルが目の前に居たので2人共に抱き着いたのはご愛嬌であるが。
ルアンジェはコーゼストによると自己修復中との事で1時間もしないで目覚めるだろうとの事だった。
「はァ、酷い目にあったわ……」
「本当だよ……まったく」
何とか一息つく事が出来て、思わずそうボヤくエリナとレオナの2人。
「でもウィル。こんな短時間でこの最下層までどうやって来たの?」
アンはアンであまりの速さに驚いているらしく、ウィルにその事を尋ねて来る。
「ん? いや何、最短ルートをコーゼストに示して貰って、んで更に各階層にあった『落とし穴』を使って近道して来たんだよ。お陰で尻が痛いがな」
アンの質問に事も無げに答えるウィル。そのあまりにも突拍子も無い答えにどっと沸くアン達。
こうしてアン達の2日間の過酷な生存競争は幕を下ろしたのであった。
因みにこの迷宮の調査は、ウィル達の手により後日改めて行われたのは言うまでも無い。
最終話のラスボスは単眼巨人でした! アン、エリナ、レオナ、ルアンジェが手も足も出なかったこのラスボスですが、最後駆け付けたウィルの全力全開の空裂斬であっさりと?!
いずれにしてもこれで2022年正月三が日の「なぜか俺のヒザに」スピンオフ! 三部作完結でございます! ここまでお読みいただき有難うございました!
本編「なぜか俺のヒザに毎朝ラスボスが(日替わりで)乗るんだが?」は1月9日日曜日朝8時から新年一回目の更新です。そちらもお楽しみに!




