【起】
新年明けましておめでとうございます!
2020年初っ端からお送りしますはウィルとコーゼストのゆる〜い冒険譚でございます!
*本編とは何ら関係ございませんので、ゆる〜くお読み下さいませ!
【起】
「何処だ、ここ?」
気が付くと俺は何も無い空間に突っ立っていた。正確には白いモヤが立ち込める空間にである。確か何時もの様にアン達と『魔王の庭』での探索を終え、何時もの様に『蒼眼の新月』に戻ってベッドに潜り込んだんだが……。
『マスター、何があったんでしょうか?』
声に気付き左肩を見るとちょこんと肩に座る妖精体のコーゼストがそこには居た──その顔に不安を貼り付けて。
「いや、俺にも何が何だかさっぱり──」
──わからん、と言おうとした時、不意に声が響いた。
《気が付いたかい》
「?! 誰だ!」
俺は慌てて周りを見渡すが、周りには白いモヤしか見えない。
《おっと失礼。キミタチに危害を加えるつもりは無いから安心して欲しい》
「声」はそう言うが安心出来たもんじゃ無い。
『マスター、落ち着いてください。先ず貴方は誰なのでしょうか? 何故私達はこんな不明な所に居るのかの説明も併せてして頂ければ有難いのですが』
……コーゼストに先に誰何されてしまった。まぁ姿も見せないなんて怪しい事この上ないのは確かである。一方の「声」は楽しげに語り掛けてくる。
《流石は知性ある魔導機のコーゼスト、冷静だね。しかしまぁ姿を見せないのは確かに不味いかな……っと》
「声」がそう言うと目の前に光が現れ人の形を取る! やがて光が薄れると──
「ふむ……こんなものかな?」
「……幼女?」
『幼女……ですね』
姿を現したのは白い服を纏った幼女であった。
「こちらの世界では色々制約が掛かってね。今はこれが精一杯みたいだね」
自身の身体を確認すると「仕方ないね」と両手を広げ頭を振る幼女。何だか行動が大人びている。
「んで、アンタは誰なんだ?」
左腰に下げている刀剣に手を掛け誰何する俺。すると幼女はニッコリと笑って
「私は──神様だよ」
「…………………………はいぃ?」
あまりの告白に頭の中が真っ白になった。
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兎に角無理矢理自分を納得させ、目の前に現れた「神」と名乗る幼女の話を聞く。
「神」の話によると彼女? は俺達の世界の神様では無いのだそうだ。何でも彼女は魔導機や機械を担当する「機械の神」で、今彼女が管理している世界の1つで問題が起きたらしい。そこでその問題を解決する為に俺達の世界の「神」に助けを求めたのだそうだ。
「私は「神」と言っても比較的新しい神でね、有り体に言えば経験不足なんだよ」
幼女はちょっと拗ねた顔でそんな事を口にする。何処でも人材不足みたいである。
「それで代わりに俺達に解決させようって事か」
「うん、こちらの「神」からの御推薦でね。君達ならきっと上手く解決出来るだろうって」
その話を聞かされ俺は思わず頭を抱えた。幾ら俺が面倒事を呼び易いとは言え、まさかの神様がトラブルを持ってきて、あまつさえ解決して欲しいとか言われるとは思いもしなかった!
『どうやらマスターのトラブル体質は神にも認められたみたいですね』
やめてくれ! そんな事で認められても1ミルトも嬉しくないんだけど!!
「で、どうだろう。引き受けて貰えないかな? 勿論解決したらちゃんとこの世界に帰還させるし、解決させる為にコーゼストには今回限り機械の身体を与えるし、私からは君に「神の加護」を与えるから、ね?」
両手を合わせ懇願してくる「機械の神」、いや幼女だから機械の神か。その姿でそれは反則である。俺は深い溜め息を吐くと
「はァ……仕方がない。断ると寝覚めが悪そうだし……それで俺達は何をすれば良いんだ?」
その面倒事を渋々受ける旨を「機械の神」に伝える。
『結局折れましたね、マスター』
ジト目を向けるコーゼストをこの際無視する。
「ありがとう! これで何とかなりそうだよ! それで君達にして貰いたい事と言うのは──」
「機械の神」の彼女は喜びながら事の詳細を俺達に話し──
「──それって俺達だけで何とかなるものなのか?!」
あまりの内容に思わず「機械の神」に突っ込む俺。
「それなら大丈夫。行ってもらう世界は機械は発達しているけど、魔法と言う手段に対して脆弱だから。特に優れた魔導機であるコーゼストの敵にはなり得ないよ。それと申し訳無いんだけど魔物の仲間達は連れていけないからね。あちらの世界にはあんな魔物はそもそも居ないからね」
何だかそれだけで物凄く不穏で不安になるんだが?!
「ん? ちょっと待て! それじゃあ俺が行く必要性がそもそもあるのか?」
「うーん、本来ならコーゼストだけ送り込んでも良かったんだけど、君達は魂が繋がっているからね。だから君達2人と言う訳なんだよ」
「機械の神」の台詞を聞いて盛大に転ける俺! つまり俺は巻き込まれただけなのかよ!?
「それじゃあ早速君達を私の世界に送り込むね!」
「機械の神」──幼女が俺に向かい手を翳すと不意に体が光に包まれだした!
「それじゃあ、あとは頼んだよ! ちゃんとあとから支援するから!」
「ちょっと待てぇぇぇーーーーー!!!!!」
俺の叫びは光の中に虚しく掻き消えるのだった。
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視界を覆い尽くしていた眩しさが薄れ、目の前が鮮明に見えてきた。どうやら無事異世界に到着したみたいである。
「くっそォォォォォ! あの神様めぇぇぇぇぇ!」
到着して一番最初にした事、それはあの神様への呪詛である。全く人をなんだと思ってやがる!
「まあ文句はお有りでしょうが、先ずは現状を確認しませんか?」
「……お前がそれを言うのか?」
愚痴愚痴言う俺の傍には背がスラリとし、出る所は良く出ている翡翠色の長い髪の女性が立っていた。切れ長の紺碧の瞳と少し尖った耳を持つ極めて美しい女性──言わずと知れたコーゼストである。
「まあお前は念願叶って身体を貰えて良かったかも知れないが、俺は確実に巻き込まれているよな?」
「大事の前にそんな些細な事はどうでも良いんです」
俺の一大事を簡単に些細な事と切って捨てるコーゼスト。相変わらず絶好調である。
「はァ、わかったわかった。先ずは現状確認だろ?」
「ええ」
そう言うと周りを見渡す俺とコーゼスト。今は鬱蒼とした森のど真ん中らしい。
「これはどっちに向かえば良いんだ?」
俺の呟きに「声」が頭の中で答える。
《あーあー、聞こえるかな?》
「! 誰だ!?」
《私──機械の神だよ。一々フルネームを口にするのも大変だろうから今後は唯の「デア」で良いよ。これは君の頭の中に直接接続して会話をする私の固有能力さ。まあ短時間しか話せないんだけど》
「何だかビミョーに便利なのか不便なのか判断に迷うな、オイ」
「マスター、誰と話しているんですか?」
ふと横を見ると何やら心配げなコーゼストのドアップの顔が!? 俺は慌てて機械の神──デアからの念話だとコーゼストに言って聞かせる。傍から見たら頭がおかしくなったみたいに見えたのか?
俺はコーゼストに断りデアとの会話を再開する。
《コーゼストの誤解は解けたみたいだね》
「いきなり独り言を呟けばそら心配もするだろうが!」
《だったら君も何時もの念話と同じ様に頭の中で会話すれば良いんじゃないかい?》
……すっかり失念してました!
俺は念話の時と同じ様に口を閉ざし頭の中で会話する事にした。デアから今の場所が何処なのか、先ずどこに向かうべきなのかを確認する。
それによると俺達が転移してきたこの森は「冥闇の森」と言う場所で、この森を南に抜けると街道に出るらしく先ずはそこに向かう事を指示された。何でもそこには運命の出会いとやらが待っているらしい。
幸い持っていた水晶地図板の方位表示はこちらの世界でも使えるみたいだ。まぁ事前にデアからこの世界『アウロア』は俺達が来た世界と細かい所を割愛しても極めて酷似しているのを聞いていたので慌てる事は無かったが、右も左も分からない世界なので欲を言えば地図が欲しかった。
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兎にも角にも行くべき所は決まったので、その事をコーゼストに話しマップタブレットの方位表示を確認して南に向かう。
その道中コーゼストの事を色々聞いた。何でもその身体はルアンジェと同じ自動人形らしく、しかもヒトと全く見分けがつかない。身体の中には色々な機能が付いているらしいのだが、今は未だコーゼスト自身が扱える機能は一部らしい。どちらにしても流石は機械の神ではある。それとコーゼストがオートマトンだと言う事は最初は伏せておく事にした。
そもそも俺達が『アウロア』に来させられた理由の一つに、この世界の──
「キャーーーーーッ!!」
俺の説明はいきなり響いた悲鳴に遮られた。何と言うが画一的である。
「?! どっちだ?!」
「待ってください──確認しました。あちらの方です」
俺が悲鳴が上がった方向を尋ねるとコーゼストが南から少し逸れた方角を指差す。その辺は流石である。
「良し、行ってみよう」
「はい」
悲鳴が聞こえた方角に向かい駆け出す俺とコーゼスト。程なくして剣戟の音と人が叫ぶ声が聞こえてきた。いつの間にか森を抜け街道に出たみたいである。
とりあえず森の中から出ない様に様子を伺うと、全身鎧の騎士と思しき一団が隊商らしき馬車の一団を襲っている場面が目に飛び込んで来た。既にキャラバンの何人かが斬られ命を落としていて、どう見ても全身鎧達が盗賊紛いの事をしている様にしか見えない。
さて、どうするべきか──これが運命の出会いなら正にテンプレである。
俺が逡巡しているとコーゼストが徐ろに
「マスター、あの騎士達からは生命反応が全く感じられません。恐らく機械かと思われます」
とんでもない報告をしてきた!
「なに?!」
「──微弱な駆動音を感知。間違いなくあれは機械人形です」
「よし助けるぞ、コーゼスト!」
コーゼストが断定したのとほぼ同時に飛び出す俺! アンやルアンジェ、従魔が居ないのが不安だがそんな事を言ってられない! それにコイツらを倒す事は今回の目的にも繋がっているからな!
俺は急に目の前に見知らぬヒトが現れ、戸惑うキャラバンの人達と機械の騎士達の間に割って入ると、キャラバンの人達に斬り掛かろうとしていた機械の騎士を
「たあァァァァァァ!」
気合一閃、頭上から鎧ごと両断した! 両断された騎士からは血の様な物が吹き出し、一瞬ヒトかと思われたが切り口からは切断された機械の部品が見え明らかにヒトでは無いのを確信した。
その時短い悲鳴が聞こえ振り向くと、馬車を背に片腕を負傷しながら剣を構える軽鎧を着込んだ女性と、その後ろに匿われている怯えた表情を見せる少女の姿と斬り掛かろうとする騎士の姿が見えた! このままでは間に合わない!?
「2人とも伏せろーーーーー!!!」
俺はそう叫ぶとセイバーに魔力を込め横薙ぎに振るう! セイバーに込められた魔力は緋緋色金の刀身から斬撃波を生み出し、束の間の距離を跳び機械の騎士の胴体を上下に寸断する! いわゆる空裂斬で斬られた機械の騎士の半身が音を立て地面に落ち、続けてアギトはその先にあった馬車の幌や荷台をも切り裂いた! しまった! 焦っていたから加減を間違えた!
一方、俺から声を掛けられ咄嗟に伏せていた2人は、頭をあげると寸断された機械の騎士を見て驚き、背後にあった馬車の無惨な姿を見て更に驚いていた。
「あ、貴方は!?」
これはやっちまったな……等と思っていたら女性戦士から声を掛けられ、「あっ、言葉は通じるんだな」と間の抜けた事を思ったりしてしまう俺。
「説明は後だ! ここを動くな!」
そう返事を返す。説明を後回しにしたのはややこしい話だからである。決して面倒くさいからでは無い!
兎に角そう女性戦士に答えると、俺は他の馬車の方に向かいセイバーを振るう! 横から襲ってきた機械騎士達は
「『雷光投槍』」
コーゼストの放った雷撃魔法に胴体や頭を穿たれ、雷光を撒き散らしながら倒れ伏す! と言うかコーゼストは魔法を使えるのか?! そんな事を思いながらもセイバーを振るう俺!
そして遂に最後の騎士も切り伏せられたのである。
「フゥ〜」
俺は大きく息を吐くとセイバーを鞘に納め、キャラバンの馬車の所に居る生き残った人達の元に向かってコーゼストを伴い歩き始めた。
さて……これが本当に運命の出会いなのか、な?
神=幼女に請われ異世界に渡った(送り込まれた)ウィルとコーゼストが出会ったのは?!
サスペンス要素は皆無なのでご安心下さいませ。
次回【承】の回は明日14時投稿しますのでお楽しみに!




