公正取引委員会
最初から交渉する気がないとはね。余計な魔法を使わせないでくれ。
<コール:レスポンス>
本来とは異なる使い方だが、肉体に付与すれば、それなりに反応速度があがるのだ。
レベルの低い冒険者たちの剣筋など、余裕で回避できる。
<ビジネスメソッド:コンプライアンス>
これはかなりの大技であり魔力の消費量も格段に多いが、相手に法令遵守である社会的規範や企業倫理を守ることを強制する。
冒険者と傭兵の二人は剣を地面に捨てる。
「すまない、エイサル。ついカッとなってしまった。私は…商人として…最低のことをしてしまった」
「いえ、怪我一つありませんし、問題ないですよ」
<ビジネスメソッド:リーク>
秘密や機密情報を漏らすとことを相手に強制させる魔法だ。
「謝罪と言ってはなんだが、草木の日にヴェッェラーゼ男爵が、北の倉庫内で違法取引をしている。それが男爵の裏金作りの正体さ。あの裏金がなければ、市場価格がぐんと下がり、俺の商会だって…もっと市民に安く提供できるんだがな」
「ありがとう。サクラリーノさん。きっと違法取引を阻止してみますよ」
商人の男は馬車に乗り込むと、街道へと姿を消していった。
商人が消えると、馬を連れた少年が近づいてくる。
「エイサルさん、よくご無事で…。剣を抜かれたときは、もう駄目かと思いましたよ」
この少年は奴隷商人から格安で買った。決めては天職が戦士で属性が闇なのだ。
つまりは忌み子であり、俺と同様にタダ同然で奴隷商人に売られたのだろう。
「問題ない。それより、フラッツの闇魔法も完璧だったな。まったく気配がわからなかったぞ」
「へへへっ。そう言って貰えると嬉しいです」
フラッツの連れてきた馬に乗る。フラッツも後ろに乗せ、貿易の街グラフォードに戻る。
俺は公正取引委員会のエイサル。たまたま街の商人を相手に一歩も引かない交渉の末、市民権を持たずに16才で南一番街に店を持つことが許された唯一の男だ。
その店舗の権利と公正取引委員会の席をトレードして今に至る。
武力や権力、後ろ盾を持たない俺には店の権利より、国の権力の傘の下でヌクヌクしているほが、利口じゃないか?
ある程度の貴族よりも地位が上で、各ギルドにも顔が利く、権力様様ですよっ!!
本日も違法取引の情報をゲットしたからね、上司のコロトラーナさんの機嫌も良くなるかもね。