草原の取引
夜の帳下りた草原のど真ん中で、俺は野営をしている。焚き火を眺めながら、またあの日のことを思い出していた。
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「ほら、お祝いなんだから、好きなもの買いなさい」
母親が珍しく好きな食べ物を買って良いというので、俺はワクワクして骨付き肉を選んだ。
「ほら、今から馬車に乗るんだから、酔い止め飲んでおきなさい」
馬車とは揺れる乗り物で、揺れる乗り物は気分が悪くなるらしい。これも洗礼の義の続きらしいが早く終わって欲しいと思った。早く友達に自慢したかった。
気が付くと俺は森の中、大きな木の下で寝ていた。そばには街で買った骨付き肉の包と僅かなお金と手紙が残されている。俺は街の中でも珍しく、洗礼の儀の前に文字を読み書きできる数少ない子だ。
”ごめんなさい、エイサル。あなたの属性では街にいられない。どうか元気で”
そうか、あの薬は…酔い止めではなく、眠くなる薬なのか…。
確かに天職は商人だが、属性がKY? 一体何なのかわからない属性持ちに見習いなど務まらないと思われても仕方がないのか。
これが親のすることなのか? 親だから…家族を守るため…。兄弟たちの犠牲になれと?
「なんでだよぉぉぉっ!!!」森の中、俺の声が木霊す。
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馬車が街道から外れ、俺の焚き火を目印に向かってくるのが、音でわかった。
「時間か」<コール:メンタルヘルス>
心の中で呟くと魔法が発動する。過去のトラウマを癒やすため、精神面を健康的に回復させた。
馬車からは、冒険者風の男が鋭い眼光で警戒しながら降りてきた。
「ボス、大丈夫です」
その声で商人風の男と、もう一人、今度は傭兵風の男が一緒に降りてきた。
「久しいなエイサル。今回が最後だ。金輪際お前とは縁を切るつもりだ」
<コール:イニシアチブ>
<コール:ネゴシエーション>
主導権と交渉力と自分に付与する。
「それですか。あなたの商会が潰れないのなら、私は構いませんけどね。さぁ、情報交換といきましょうか?」
商人風の男の側にいた冒険者が剣に手をかけるが、商人が制した。
「馬鹿者。我々は商人だ。そこらのゴロツキと違う。だが……情報はもう必要ない。お前が死ねばなっ!!」