属性の夜明け
「転移なのです」
いかにもキャリアウーマンっぽいお姉さんが、眼鏡の位置をクイっと戻しながら言った。
「転移ですが…。いや、そこじゃないですよ、俺、何で? 何かしましたか?」
「リルサーレ本部長、エイサルさんへのご説明は?」
キッと睨まれたリルサーレは慌てて弁解する。
「い、いや…ちゃ、ちゃんとしたよ? 属性が危険視されいるから保護すると」
「「それじゃ、わかりませんっ!!」」 俺とお姉さんは同時に言った。
応接室に案内され、ここに至るまでの経緯が説明された。
「国家公安委員会は、各街の警備兵を管理する組織です。そして街で発生する魔法も監視しており、エイサルさんの使う強力な魔法に気が付いたというわけです」
「いや、最近じゃなくて、前から使っていましたが…」
「はい。理由は幾つかありますが、グラフォードの監視装置が意図的に改造されていたこと、監視装置の定期点検を怠っていたこと、監視業務を担当者が放棄していたこと…などが原因とされます」
「はぁ…。それで、俺は? どうすればいいのでしょうか?」
「はい。まず理解して頂きたいのは、ご自身が狙われているということです」
「誰に? 何で? 仕事関係なら恨まれているかも…」
「野党第一党である”革新派・属性の夜明け”からです」
「う〜ん、名前だけ聞くと、俺にぴったりだよね…。でも、具体的に狙われれいるとはなんでしょう?」
「正確に言えば、”属性の夜明け”自体に問題はありません。しかし裏に付いている組織が問題なのです。”世の中を変えるためには犠牲やむなし”という理念を掲げた…まぁ、簡単に言えば暗殺者集団です。名前は確か…デスマーチでしたっけ?」
「えっ!? 俺、命狙われているの?」
お姉さんが、眼鏡の位置をクイっと戻しながら言った。
「いえ、あなたを取り込もうとしています。なので、国家公安委員会が、護衛を付け匿います。それと同時にKY属性の研究の協力と、国家公安委員会としての教育をいたします」
「ちょっと…待ってくれよ…俺には…グラフォードで待っている家族がいるんだ」
キッとリルサーレを睨む。
「それすらも説明していないのですか? 家族も保護対象です。既にグラフォードから、別の街へ転移しているでしょう。デスマーチの常套手段で、家族を誘拐して対象者を手駒にすることは珍しくありませんから。でも…残念ながら、二度と会うことはできません…」
全身の力が抜けた。嘘だろう? これは夢じゃないのか?
今まで築き上げてきたものが…やっと手にした幸せが…音もなく崩れ去っていった。