黒い人が来る
退院までの一週間、リハビリに勤しむ俺に新たな悲劇が訪れた。
「公正取引委員会 グラフォード支部のエイサルだな」
全身黒のスーツに身を包んだ8人の男たちに囲まれた。
あれ? 俺何かしましたか?
「国家公安委員会 本部のリルサーレだ。エイサル君の属性は、非常に危険視されているため、保護の観点から一緒に来てもらう」
「はい? あの…」
俺は6人に担がれ、病院の外にある馬車に押し込められた。
問答無用の国家公安委員会の行動に関して、”全て見なかった”にしなければならない。
これは子供でも知っている国の基本ルールなのだ。
”悪いことすると、黒い人が来るっ!?”
これは悪い子を叱るためのテンプレートなのだ。それがまさか…自分がリアル体験するとは…。
マジ、ドナドナ…。
国のルールに従っているのならば、<ビジネスメソッド:コンプライアンス>も通用しないだろう。
馬車が止まると、見覚えのある建物が…。あれ? ここ俺の勤め先…。
そして、公正取引委員会が入居している石造りの建屋に入り、最上階へ…。
はうっ!? 同じ建屋に国家公安委員会がいるのかよ…。
しかし部屋に入ると、机一つ無い空間が広がっていた。
一人の男が進み出ると、懐から懐中時計程度の大きさの何かを取り出し、床に転がした。
それは空中に何かを映し出した。見た目は人より大きな黒い球…。
「さぁ。入りなさい」
リルサーレが言うと、背中を押され、転ぶように球に触れてしまう。
「えっ!? お、俺…まだ…DTだし…」
目を閉じて、床でジタバタする。
「目を開けて、起きなさい…」
「は、はい…」
目を開けると、そこには先程何もなかった空間に、机や椅子が並んでいた…。まるでオフィス…。
「どういうこと?」
「転移魔法です。エイサルさんは、貿易の街グラフォードから中央都市ラフィンラスに来たのです」