遅刻する主任
完全な遅刻だ。そもそも取引が休み明けの朝一なんて…まじめかよっ!
現場に到着すると、ヴェッェラーゼ男爵がコロトラーナさんに凄い剣幕で詰め寄っていた。
「こともあろうに貴族である私にあらぬ疑いをかけるとは…。あまつさえ、ここを動くなだと? 貴様…、貴族の権限に置いて命令するっ!! 全員ひれ伏せっ!!」
職務上、公正取引委員会に貴族の権力は通用しない。しかし無罪となると莫大な慰謝料を請求されてしまうのだ。
中年太りの若ハゲおじさんは、部下4人に抑えられながら、顔真っ赤で憤怒していた。
あぁ…帰りたい……。でも…帰ったら、誰があの子達を食わせていくのだっ!!
「遅くなりました…コロトラーナさん」
「うん。現在、ヴェッェラーゼ男爵の取引内容を確認中なのだが、粗方、塩の取引だ」
それを聞いていたヴェッェラーゼ男爵は食いついた。
「だから言っておる。把握しているなら、そこの包囲網を解け馬鹿者がっ!!」
「ヴェッェラーゼ男爵。私は公正取引委員会 グラフォード支部のエイサルです。私からもいくつか質問をよろしいでしょうか?」
「青二才が…。なんだ言ってみろ」
<ビジネスメソッド:クローズドクエスチョン>
言い分けを封じるため、回答をこちらが用意する質問型式。成功率は相手の精神状態と質問の核心部分への負荷に依存する。
「本日は、塩の取引に?」
「はい…。な、なんだ? 何が…」
「ここでの取引は今日が初めて?」
「いいえ…。はっ! また…どういうことだ…」
「では、前回も塩の取引を?」
「いいえ…。ちくちょう、どうなって…」
「次の質問です。国内への輸入禁止されている…鉄を輸入していますか?」
「ぐぬぬ………はぁ、はぁ…し、知らん…」
どうやら魔法を精神力が上回ったらしい。魔法が解除されてしまった。
やはり貴族だけあって魔法の抵抗力が強い。もう少し強引な魔法もあるが…今は時間稼ぎだ。
「も、もう質問がないなら…はぁ、はぁ、か、帰らせろ…」
全身脂汗でぐっしょりなヴェッェラーゼ男爵は荒い息で訴える。確かにこのままでは、睨み合いが続いているヴェッェラーゼ男爵の警備兵と公正取引委員会側の警備兵が衝突するのも時間の問題だ。
くっ…寝不足だ…こっちもどこまで魔力が続くか…。