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チセとシトリー

 突如起きた爆発と、その炎の中から現れた少女――否、魔物(サキュバス)

 ギルドは一瞬にして喧騒に包まれた。


「おい! あの魔物はなんだ! まさかギルドを襲撃しに来たのか!?」


「いや、おそらくあの男が呼び出したのだろう。ギルドへの登録を済ませてない者が呼び出したとは、到底思えないが……」


「てかあの()、めっちゃ可愛くね?」


 真面目そうな者から酔っ払いまで、その場にいた全員の視線を感じながら、俺は頭を抱えた。一方、当のシトリーはふんぞり返っている。


「さあマスターよ! 我を呼び出したということは、倒すべき敵がいるのだろう! この凡骨共のどの首から焼き落としてよいのだ!?」


「……もうそういうの終わったから」


「え?」


 初の召還のせいかおかしなテンションになっているシトリーに、俺が事情を説明すると、シトリーの顔は見る見るうちに羞恥に染まっていった。


「……私、ただの手続きのために呼び出されたってことですか?」


「そうだ」


「あんなに派手な登場と、格好いい口上までやったのに?」


「そうだ」


「……うわあああぁぁぁん!」


 シトリーは真っ赤な顔を隠すようにして、その場にうずくまってしまった。羽と尻尾まで小さく丸めながら。

 俺もかなり恥ずかしかったのだが、二人して丸まっていても仕方がないので、手続きを進めることにした。


「……そういうわけなので、チセさん。これが俺の使い魔(パートナー)です」


「あ、はい……」


 チセさんはまだ呆然としていたが、俺が声を掛けると手続きを再開してくれた。時折シトリーの方にチラチラと目を向けていたが。


「えー、それでは登録のために『分析(アナライズ)』をかけさせていただきますね……って、ええっ!?」


 今度はチセさんが素っ頓狂な声を上げた。それを聞いた周囲の冒険者達も、思わず耳を(そばだ)てる。


「種族はレッサーサキュバス……レベル99!?」


 ……まあ、こうなることは予想していた。普通は魔物遣い(テイマー)が最初に仲間にする魔物(モンスター)といえば、コミュニケーションが容易な動物系や鳥系が多い。サキュバスというだけでも珍しいのに、レベル99ともなれば驚かれて当然だろう。

 周囲の冒険者達も呆気にとられているようだ。


「レベル99の魔物なんて初めて見た……」


「普通に生きてたら会わないし、会ったら死ぬもんな……」


 そんな声を聞き、シトリーはそろそろと顔を上げた。どうやら周囲の反応で少しは立ち直ったらしい。


「……こほん。そうです、私がご主人様(マスター)の初めてのパートナーで、レベル99です。何か?」


「い、いえ……」


 チセさんに対してやけに威圧的な態度で言い放つシトリーだが、その目にはまだ薄っすらと涙が浮かんでいた。


「そういうわけなんで、チセさん。強さ的には問題ないってことで……いいですかね?」


「……分かりました。ギルドとして登録を許可します」


 その直後、チセさんは俺の耳元で小さく囁くように言った。


「(でも、どういうことなのか、今度きちんと説明して下さいね?)」


「(……はい)」


 まあ、明らかに不自然だから仕方がないだろう。さて、どう説明すれば納得して貰えるだろうか。

 そんなことを考えている俺とチセさんの間に、シトリーが割って入る。


「ちょっとあなた、さっきからご主人様(マスター)と近くないですか!? ご主人様(マスター)もなんかデレデレしてるし! 今ご主人様(マスター)と一番近しいのはこの私なんですからね!」


 その様子は、キャンキャンと吼える小型犬のようだった。

 サキュバスは根本的に人間の女性を嫌うと聞くが、シトリーもその例に漏れないらしい。


「……そういうわけで、さっそくクエストを受けたいんですが」


 このままシトリーに構っているときりがなさそうので、俺は半ば強引に話を進める。


「登録直後の冒険者が受けられるのは、難易度★1のクエストですよね? 今何かありますか?」


「ええと、1件だけありますね。依頼主は街の北部にある釣堀の管理人で、『大ザリガニの討伐』だそうです。本当は初クエストで討伐系はあまり推奨しないんですが……大丈夫ですよね」


「もちろんです」


 なにせこっちはレベル99だ。★1のクエストは正直冒険者でなくてもこなせるような内容なので、意外と受けられる数は限られる。今日受注できたのは運が良かったといえるだろう。俺はチセさんから依頼書を受け取った。


「では、行って来ます」


「ケインズさん、本当に気をつけてくださいね! 油断しちゃダメですよ!」


「レベル99の私がいて負けるはずないじゃないですか!」


 確かにシトリーはレベル的には十分な強さのはずだが……それ以外の部分で一抹の不安を抱えたまま、俺は初クエストへ向かったのだった。

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