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昇格試験

 翌日。俺はギルドへと呼び出され、試験会場へと身を移していた。


「ではこれより、上級昇格試験を開始する!」


 ギルド長が高らかに宣言すると、観客である他の冒険者達から拍手が巻き起こった。


「はぁ、烏合の衆が朝から(うるさ)いですわねえ」


「お主は帰ってよいぞ、駄目堕天使」


「頑張りましょうねご主人様(マスター)! まあ、私達なら余裕だと思いますけど!」


「どうかな」


 シトリー達は余裕をかましているが、俺はそうもいかなかった。俺を目の敵にしているあのギルド長のことだ、何か策を打っていることだろう。

 そしてその予想は、見事に的中していた。


「本日の昇格試験を受けるのは、"魔物遣い(テイマー)"ケインズ!……と、そしてもう一組。"聖剣士(パラディン)"のクローレフ! 同日に複数の試験が行なわれる場合の規定に則り、本日の試験は『決闘方式』で行なうこととする!」


 観客達からざわめきが起こるのと同時に、もう一組のパーティーとやらが姿を現す。(ドラゴン)の意匠を施した鎧の女騎士の後ろに、露出の多いドレスの魔女とバニーガールに囲われるようにして、リーダーらしき美形の男が現れたのだ。


「おいおい、誰だあいつら?」


「私知ってるわ! 王都で最近売り出しているイケメン"聖剣士(パラディン)"のクローレフよ!」


 一部の女性陣からの歓声に応えるように、クローレフという男は長髪を靡かせながら笑顔を振りまいていた。


「やあ、ラルフの街の皆さん! 今日は僕の晴れ舞台をたっぷり見ていってくれ!」


「「キャー!!」」


 ルックスに見合った爽やかな態度だが、女を3人も侍らせている時点で碌な男ではないだろう。もっとも、俺が言える事ではないのだが。それよりも問題は――


「主殿、『決闘方式』とはなんじゃ?」


「上級試験を受ける複数のパーティーを互いに戦わせる、要は潰し合いだ」


 かつて上級冒険者という地位が創設されたばかりの頃は、試験の希望者が多くこのような方式をとっていたと、ギルドの資料で読んだことがある。だが、冒険者同士で殺し合わせるような真似をするのは当然リスクが大きい為、とっくの昔に廃止されたはずの制度なのだが。


「こんなものまで引っ張り出すとはな。あのギルド長、よほど俺を上級冒険者にしたくないらしい」


「え? 何か問題でもあるんですか?」


「『決闘方式』に参加できるのはパーティーメンバー本人だけだ。そこに仲間の魔物は()()()()()


「ええっ!?」


 一時的に雇った仲間で試験を受けさせないための措置らしいのだが、"魔物遣い(テイマー)"にしてみれば酷い話だ。だが、この『決闘方式』が行なわれていた時代に"魔物遣い(テイマー)"という職業(クラス)など存在していなかったのだから仕方が無い。


「じゃあ、私達は参加できないってことですか!?」


「なんじゃ、暇じゃのう」


「残念。あの人間共も洗脳して差し上げようと思いましたのに」


「言ってる場合ですか! ご主人様(マスター)がたった一人で戦うことになるんですよ!?」


 シトリーが心配するのも当然だろう。上級試験を受けるほどのパーティーに対して、こっちはレベル15の俺一人なのだから。だがおそらく問題はないだろう。


「心配するな。今朝お前から貰った例の物もあるしな」


 俺は心配そうなシトリーに声をかけると、会場の中心へと向かった。周囲の歓声を浴びながら、俺は相手のパーティーと向かい合う。


「ふん、君が試験の対戦相手かい? 話には聞いていたが、本当にレベル15の冒険者一人とは! これほど楽な試験など史上初だろうさ」


 クローレフとかいう男は余裕の表情だ。仲間の女達もこちらをニヤニヤとした目で見ている。


「そのためにわざわざ王都から来たのか? ご苦労なことだな」


「そりゃあ来るだろう! こんな美味しい話はそうないからね。君の所のギルド長には感謝してもしきれないね!」


 分かってはいたが、やはりギルド長の差し金のようだ。昨日の今日で手を回すだけの周到さは見習うべきかもしれない。とはいえ、当然こんな所で負けるわけにはいかない。俺は今朝シトリーから貰ったマジックアイテム――錆びかけた剣を構えた。


「おいおい、君の心意気は認めるけどね。そんなボロボロの剣で、レベル15の君が、レベル50の僕に勝てるとでも思っているのかい?」


 クローレフは呆れたように嘆息する。まあ、客観的に考えればその通りなのだが。


「正直なところ、弱い者虐めは気が進まないんだ。印象も悪くなりそうだしね。今からでもあの強そうな女の子達に来て貰った方が――」


 余裕でべらべらと喋り続けるクローレフ。俺はその言葉を無視して、手にした錆びた剣に向けて詠唱した。


「――『奴隷に剣を、姫に花束を』」


 それと同時に、俺の手から何かが急激に吸われるような感覚に陥り――次の瞬間、俺は紫色の禍々しいオーラを放つ魔剣を手にしていた。


「なっ――」


 突然のことに困惑し、クローレフは間抜けな声を上げる。それと対照的に、観客達からは歓声が巻き起こっていた。


「な、なんだ!? お前、今一体何をしたんだ!」


「先に言っておこう、"聖剣士(パラディン)"。俺が見た目通りの強さなら、観客はこんなに盛り上がらないし、そもそもギルド長がお前を呼び出すこともない」


「くっ――いいだろう!」


 俺の言葉に応えるかのように、相手のパーティーから油断が消えた。王都で活躍しているというだけあり、決して弱い相手ではなさそうだ。その様子を見てか、ギルド長の号令がかかった。


「それでは昇格試験――決闘、開始!」

 

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