告白
俺は自分がシトリーと共に【明晰夢】の中にいることを確認した。クエストの疲れだろうか、思った以上に早く眠りに入れたので、早速固有魔法の練習を始めようと思ったのだが。
「その前に、ちょっと聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「さっきの話ですけど、ご主人様って今レベル15なんですか?」
「ああ、その話か」
"魔物遣い"という職業は、魔物を使役して戦うものである。したがって、契約した魔物が敵を倒せば、その経験値の一部を得ることが出来るのだ。それでも俺達が今まで倒してきた敵の数を思えば、もっと俺のレベルが上がっていてもおかしくはないのだが。
「"魔物遣い"は仲間の魔物のレベルが相手よりも高いほど、得られる経験値が少なくなる。だから今まで倒した敵の経験値もごく僅かしか入っていないんだ」
「そういうものなんですねえ。ということは、同じくらいの強さの魔物を倒せばご主人様のレベルもガンガン上がるんじゃ?」
「今のお前らと同格の相手なんてそうそういないぞ。何せ魔王軍幹部クラスだからな」
通常クエストの難易度は★9、つまり相手のレベルも90程度が最高であり、それを超えるモンスターなど普通はお目にかかれない。その例外であり過去一番の強敵であったルキフェナも、結局倒さず仲間にしてしまった。
「本当は最初の頃にレベルを上げすぎないよう、調整しようと思っていたんだが」
「何でそうしなかったんですか? ってああ、私が……」
自分で言っている途中で思い出したようで、シトリーは顔を赤らめた。
「……とにかく、上がってしまったものは仕方が無い。お前達がレベル以外の強さを少しでも伸ばせるように、協力してくれるよな?」
「も、勿論です!」
◆ ◆ ◆
エレオノーラさん曰く、【虹蛇】は魔力を『凝縮』することで破壊力を増しているそうだ。その理屈は分かっているのだが。
「えいっ! うーん、やっぱり上手くいきません……」
「ふうむ」
シトリーも同じようにやってみるのだが、どうも『凝縮』の工程で魔力が漏れ出てしまっているようだ。魔力量では決して劣っていないから、技術的な問題なのだろう。
ちなみに俺の【明晰夢】で【虹蛇】を再現することは出来るのだが、その細かい手順や理屈まで理解しているわけではないので、完璧にシトリーに教えることは出来ない。ひたすら訓練するしかなさそうだ。
「感覚だが、力を立体的に渦巻かせて、一点に集約するイメージで……」
「ひぃん。難しい言葉分かんないですよう」
弱音を吐きながらも、めげずに何度も試行錯誤するシトリー。そんな健気な姿を見ていて、ふと呟いてしまった。
「シトリー、ありがとな」
「……えっ?」
「お前と出会わなかったら、今みたいな気持ちにはなれなかっただろうから」
俺はサイタス氏との会話を思い出していた。もしシトリーと出会わなかったら、俺は【明晰夢】の使い道も分からないまま、一生父や家族に引け目を感じたまま生きるしかなかっただろう。
だが今の俺は、日々の生活に満足している。久しぶりに耳にした『グランバレル』の名に胸が締め付けられる思いもしたが、もう大丈夫だ。何故なら俺には、シトリー達という心強い仲間がいるのだから。
……というようなことを言いたかったのだが。
「ちょ、ちょっとご主人様! どうしちゃったんですか? いきなりマジ告白とか……」
「……ん?」
「確かにご主人様とはもうそういう関係ですけど、実はちゃんと告白してなかったというか、ぶっちゃけごり押し気味だったし、ご主人様の本心はどうなんだろうとか不安に思ってたりもしてて、」
「おい、シトリー?」
「でもでも! これで晴れて両想いってことですよね! 私が正妻であとの二人は愛人ってことで! まあ私は器が広いサキュバスなので最低限の魔力供給は許してあげてもいいですけど、やっぱり愛の結晶は――」
顔を真っ赤にしたり涙目になったりとコロコロ表情を変えながら、小声で呟いているシトリー。見ていて飽きないのでしばらく眺めていたが、そんな彼女が思い立ったように俺の手を握ってきた。
「あの、ご主人様。私、頑張りますからね!」
「ああ、頼むぞ」
「はい!」
そういうとシトリーは何故か俺の腰に腕を回し、顔に唇を近づけ――
「何故そうなる」
俺はいつかのように彼女の顔を手で押しやった。今更この程度で動じるわけもない。
「えっ!? 今絶対そういう流れだったじゃないですか!」
「今日は特訓だと最初に言っただろう」
サキュバスという種族は、日頃の感謝を伝えただけで即そういうことになるのだろうか。
「……もしかして私、また勘違いしちゃいました?」
「勘違い?」
「何でもありません!」
何故か拗ねてしまったシトリーの機嫌は、結局朝まで直ることはなかった。