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再会

 上位冒険者とは、冒険者達の中でもほんの一握りの、才能や実績を認められた者だけがなれる存在だ。少なくとも、初めて数ヶ月の駆け出し冒険者からすれば雲の上の存在である。


「ありえぬ! ありえませんぞ! いくら功績をあげたとはいえ、つい最近までうちの職員だった男が上位冒険者などと! 何よりその者は――まだレベル15ですぞ!?」


 ギルド長の言うことももっともである。現在の俺のレベルは15、駆け出しに毛が生えた程度のものである。。だが議長の男は眉一つ動かさずに、淡々と説明した。


「上位認定にレベルによる制限など無い。人々のために、ひいてはわが国のために貢献できる人材であれば、より多くの活躍の機会を与えるべきだというのが我々の方針だ」


「し、しかし! その者の素性には不可解な点が多すぎます! いくら強くとも、そのような者を安易に上位冒険者と認めることは出来かねますぞ!」


 ギルド長が食い下がるのも無理はない。上位冒険者になれば、クエストで得た素材や物品をギルドの名を借りて市場で直接取引したり、魔物とは関係のない国の要人の警護の仕事も請けられるようになる。つまりギルドだけでなく住民達にとっても影響力の大きい存在であり、だからこそ簡単に認めるわけにはいかないのだろう。


「ええと、そもそも俺はまだ、上位冒険者への昇格希望申請すらあげてないと思うんですが?」


 上位冒険者になりたがる者はいくらでもいるが、実際に認められるのは年に数人という狭き門である。希望も出していない者に声が掛かることがあるのだろうか。


「君の場合は推薦だ。この街のギルド職員一同からの連名でな」


 そういえば、今回のクエストを達成したらギルドとして報酬を出すとか言っていたな。


「ギルド職員ですと!? ギルド長であるこの儂は何も聞いておりませんぞ! それが推薦などと――」


「ああ、勿論そちらは正式なものではない。単にこれまでの実績と、そして彼の人柄を踏まえて推薦したいというだけの話だ」


「であれば!」


「無論それだけでは我々も動かない。だが連名の最後に驚くべき名前があったものでね。間違いありませんな? ()()()()()()殿()


「――ああ、確かだとも。そいつはアタシのお墨付きさ」


 俺と議長達の間。これまで一度も発言していなかったフードの女性がおもむろに立ち上がり、そのフードを外した。そこに立っていたのは、かつて魔王を倒した伝説の英雄の一人、エレオノーラその人だった。ただしその姿は俺が会ったときの半分ほどの年齢で、身に纏う衣装も露出の多い、妖しげな魔女といった風貌だ。

 呆気に取られる俺に、エレオノーラさんは色っぽくウインクした。


「ふっ、そんなに驚かないでくれよ。アタシだってこういう場所(とこ)では若作りくらいするさね」


 それは明らかに若作りというレベルではない、どう見ても魔法による操作としか思えなかったのだが。あまり突っ込んで地雷を踏んでは(たま)らない。


「エレオノーラさんが俺を推薦してくれたんですか?」


「ああ、受付の嬢ちゃんから話を聞いてね。このアタシが直々に魔法を教えてやった奴が、上位冒険者()()になってないのはおかしいだろ?」


 横暴ともいえる彼女の言葉に、しかし異議を唱える者はいなかった。この国を救った伝説の英雄からすれば、上位冒険者など大した存在ではないのだろう。


「というわけだ、こいつに認定試験を受けさせてやって欲しいんだが……何か不満でもあるかい?」


「ぐっ、い、いえ……」


 先程までの勢いはどこへやら、ギルド長は力なく頷いた。だがそうしていたのも束の間、彼は再び怒気に満ちた顔を上げた。


「で、ですが議長! 試験の内容はこちらで決めさせてもらいますぞ! 彼は当ギルドの所属なのですからな!」


「うむ。様式に則ったものであれば、内容の選択はそちらの裁量に任せよう」


「貴様もそれで良いな!?」


「……勿論です」


 血走った目を向けられ、俺は思わずたじろぎそうになったが、何とかまともに返すことが出来た。なんで俺、ここまで恨みを買っているんだろうか。


「では、以上で本日の議題は全て終了とする!」


 議長の言葉で、長かった諮問会議は終わりを告げた。ようやく一息ついた俺に、エレオノーラさんが話し掛けてきた。


「よう、あのサキュバスの嬢ちゃんに教えた魔法はどうだい?」


「それが、実はあまりうまくいかなくて……」


 俺達は彼女から固有魔法である『虹蛇(こうだ)』と呼ばれる魔法を教わったのだが、その再現は困難を極めていた。正直、見通しが甘かったと言わざるを得ない。固有魔法とは単なる『天才が考えた新しい魔法』ではなく、『その天才にしか扱えない魔法』でもあるのだ。


「あっはっは! そう簡単に真似されちゃ困るよ。私だってそれなりの天才魔法使いだと自負しているんだからね!」


 悩む俺の肩をバシバシと叩きながら、エレオノーラさんは笑顔で言った。


「まあ頑張りたまえよ若者! あ、そうそう。あの娘以外にも色々と変な仲間を増やしているようだが、精々気をつけるんだよ?」


 それだけ言うと、次の瞬間にはエレオノーラさんの姿は消えていた。


「(変な仲間、ね……)」


 今日の議題に上ったルキフェナのことだけではなく、おそらくツバキのことも含めてだろう。彼女の長年の(かたき)であるツバキを仲間にしたことを知られたらどうなるかと思っていたが、どうやら見て見ぬ振りをしてくれているらしい。


「やあ、ちょっといいかな?」


 そんなことを考えていた俺に声を掛けてきたのは、あの議長の男だった。


「議長殿、何か御用でしょうか?」


「ははは、もう議長ではないのだから名前で構わないよ。私はサイタス・ピエール。ちょっとした世間話さ」


 議長、いやサイタスと名乗った壮年の男は、柔和な笑みを浮かべたまま言った。


「勘違いだったらすまない。だがその黒髪と顔つき、そして"魔物遣い(テイマー)"としての技量。もしかして君は、あのグランバレル家の血縁者じゃないか?」


 もう二度と関わることはないと思っていた名前を耳にして、俺は一瞬で血の気が引くのを感じた。

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