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帰還

 再び姿を現した俺と、それに従うルキフェナを見て、村人や冒険者達はちょっとしたパニックになった。まあ、事件の元凶なのだから当然か。

 俺は今のルキフェナに害意はないこと、そして死んでしまった者達を生き返らせるために連れてきたことを説明した。


「お前達の気持ちも分からないでもないが、今は俺を信じてほしい。皆に害を及ぼさないことは約束する」


「……分かりました、貴方のことを信じます。おい、動けるものは手を貸してくれ!」


 真っ先に動いてくれたのは、一連の騒動を見ていたあの神父だった。それに追随するかのように、他の村人達も手を貸す。彼らなりの罪滅ぼしのつもりなのだろう。他の冒険者達の中には俺達を警戒する者もいたが、まあ仕方があるまい。

 そうして俺達の前には、全滅した4パーティー分の上位冒険者達が並べられた。


「これだけの人数となると、流石に全員は厳しいか? なら日は浅い者は一旦後回しに――」


「何を仰いますか主よ(マスター)! 貴方様からいただいた力を以ってすればこの程度、造作もありません! いきますよ、『その器と魂を再び満たせ! 蘇生魔法(リバイヴ)!』」


 ルキフェナの呪文と共に、辺りが神々しい光に包まれる。それは彼女が堕天使であることなど微塵も思わせない、神聖なる天の光そのものだった。そして――


「……うっ。ゲホッ、ゲホッ! 俺は、一体……?」


「おお! 生き返ったぞ!」


 とっくに死んでいたはずの者が、息を吹き返すという光景。それは俺達に疑いの目を向けていた他の冒険者達からしても、奇跡としかいえない光景だっただろう。


「ま、まさかこんなことがあるなんて……」


「あの女はまさか、天使族か? そんなものを従えるとはあの男……本当に"魔物遣い(テイマー)"なのか!?」


「知らねえよ。ただハッキリしてるのは、俺達全員アイツに助けられたってことだ」


 そして全員が意識を取り戻した頃、村の入口から隊列が近づいてくるのが見えた。


「お、ギルドの救援隊だな。ありがたい」


「ふむ。では主殿、儂らは隠れておこうかのう」


「あのー、わが(マスター)? 今の働きに対するご褒美は……」


「ほらルキフェナさんも来てください! 今貴方が見つかったらややこしいことになります!」


 3人の仲間達が押し合いへし合いしながら姿を消すのを見届けていると、村長から声が掛けられた。


「おーい、"魔物遣い(テイマー)"殿! こちらの方が隊長だそうですじゃ」


 見れば、立派な勲章をつけた壮年の男が隊の先頭に立っていた。


「うむ、私がギルド緊急救援部隊の隊長を務める者である。現状を確認したいのだが、君がこの討伐隊のリーダーかね?」


「え?」


 俺はリーダーなんかでは全くないのだが。しかし村長や村人達、そして一緒に来た冒険者達は、うんうんと頷いている。俺に任せるということだろうか。

 本来は上位冒険者が行なうべきだと思うのだが……彼らは目覚めたばかりだろうし、仕方がない。


「はい、報告します。村を襲っていた魔の者は完全に無力化しました。犠牲者はゼロです。怪我人の救護を手伝ってください」


「うむ。承った!」


 ……都合のいいように言ったが、嘘は言っていない。どのみち詳細はギルドに戻ってから話すことになるだろう。俺は適当に切り上げると、シトリー達が隠れた小屋に戻った。本当は怪我人の手当てにでも入りたいのだが。


「はあ、あれだけ頑張ったのにご褒美ナシなんて切ないですわ。はっ、まさか放置プレイ……?」


ご主人様(マスター)はそんな歪んだ性癖じゃありません!」


「ううむ、しかし儂も最近ご無沙汰なのは事実じゃのう。どうじゃ、混乱に乗じて村人の男でも(さら)って来るか?」


「ふっ、今更ただの人間のモノに興味などありませんわぁ。私を満たしてくれるのは(マスター)のモノしか……」


「そうですよツバキさん、冗談でもやめて下さい! 今の私達はご主人様(マスター)のしょ、所有物なんですから!」


「なんじゃこいつら。サキュバスたるもの男の一人も襲わんでどうする! 儂の若い頃は――」


 ……こいつらを放置しておかないことが、今の俺にとって最重要の使命だろう。



   ◆     ◆     ◆


 その翌日。俺達が救護部隊と共にラルフの街に戻ると、大勢の住民達に迎え入れられた。4組もの上位パーティーが壊滅という未曾有の事態を知っていたのであろう、住民達の顔には当初不安や失意が見て取れた。

 だが当の上位冒険者達が馬車に乗って次々と現れるのを見て、街は一気に喧騒に包まれた。


「おいおいおい! お前ら、全滅したんじゃなかったのか!?」


「キャー! エバンズ様ー! 良かったー!!」


「これ、道を塞がないでいただきたい! 彼らは怪我人であるぞ! ええい、道を空けんか!」


 隊長が無理矢理進める馬車の上で、上位冒険者達は曖昧に笑ったり手を振り返したりしていた。

 今回の件についてどのように公表するかは、これからギルドのお偉いさん達が決めるそうだ。まあ、おそらく『全滅は誤報で、実際は瀕死でした』とか、そういうことになるだろう。


「さあ、ギルドに到着だ! 今日検査の奴だけ残って、後は一旦帰ってくれ! 間違っても酒場に直行しないでくれよ!」


「ええー!? 酒くらい好きに飲ませてくれよ旦那!」


「馬鹿野郎! お前ら全員魔導検査の対象なんだからな! とんでもない大事件に巻き込まれたってことを自覚してくれよ!」


 被害の規模に関わらず、今回のように『洗脳』や『呪い』に関わった者が多い場合は、関わった冒険者達は魔導検査を受けることになる。万に一つも影響が残っていないか確認するためだ。

 それに並行して、当然ながらギルドからの詳しい聞き取りも行なわれることになる。


「では討伐隊リーダーの"魔物遣い(テイマー)"、ケインズ殿。そして上位パーティーの代表者4名。いささか急ですが、これから諮問室までお越しいただけますか?」


「了解です」


 俺は職員をしていた頃にも通らなかった重厚な扉を開け、ギルドの本陣へと向かうのだった。

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