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魔眼の弱点

10/27 大幅に加筆修正しました。

「天に満ちよ、地に裁きを――『シャインスコール』!」


「地獄の業火よ、ここに! 『インフェルノフレア』!」


 シトリーの放った炎魔法がルキフェナの呪文を相殺しつつ、その体ごと飲み込む。しかし――炎に灼かれたはずのルキフェナは、ほとんどダメージを受けていない。


「だめですご主人様(マスター)! 私の魔法が効いてません!」


「くっ、やはり腐っても天使族か!」


「あら。堕ちてはいても落ちぶれてはいませんわ」


 天使族はあらゆる属性に対して非常に高い耐性を持っている。唯一の例外は闇属性なのだが、堕天使であるルキフェナにはそれさえ効かないようだ。

 純粋な攻撃魔法の撃ち合いではシトリーがやや勝っているのに、肝心のこちらの攻撃が通らない。そして更に――


「『神威の魔眼』!」


「!!」


 魔法の隙間を縫うように放たれる、強力な『魔眼』。それによって俺の動きは一瞬止められてしまっていた。単純な呪いなら『神獣の加護』で無効化できるのだが、聖属性の『魔眼』という矛盾した代物相手では、完全には無効化できないようだ。


「刺し穿て、『セイントスピア』!」


「させぬわ、『二重結界』!」


 回避が遅れた俺に向かって、容赦なく追撃が降ってくる。それを防いでくれたのはツバキの術だった。


「すまん! 助かった!」


「ふん。彼奴(あやつ)め、戦場に慣れておるのう。神の眷属とはとても思えぬ」


 相手の狙いは当然、魔物遣い(テイマー)である俺だ。その攻撃をツバキが防ぎ、シトリーが反撃する。その繰り返しで何とか戦えてはいるのだが、このままではジリ貧である。


「あらあら。いくら魔物が強くても、主人は所詮人間ですものねえ? そろそろ限界ですか?」


「(くそっ、何か弱点は――)」


 俺はこれまでの知識を総動員し、次の一手を考える。その時ふと、頭に()ぎるものがあった。


「(魔眼、か)」


 『魔眼』というのは、その名の通り魔の力を宿した瞳である。相手と目を合わせるだけで発動できるという非常に強力なものだ。

 だが、『魔眼』はそれほど強力なのに、それを使いこなしたという人間の話は聞いたことが無い。それは何故だっただろうか。


「そうだ、『魔眼(がえ)し』だ」


「何?」


 思わず呟いた俺に、ツバキが相手に気取られぬように聞き返してきた。


「『魔眼』は強力だが、発動の瞬間に相手にも『魔眼』を使われた場合、互いに無防備な状態で精神力の勝負をすることになる。だから人間には向いていないんだ」


「ほう。ならば――」


「ああ、俺達ならいける! シトリー、こっちに来てくれ! ツバキ、少し時間を稼げるか?」


「任せよ! 『アメノイワト』!」


 ツバキが唱えると共に、岩のように見える強固な結界が俺達を囲った。


「これは儂の結界の中で最も強いものじゃが、長くは持たんぞ!」

 

「ああ」


 俺は二人に作戦を伝えた。


「一発勝負になるが、いけるか?」


「さすがご主人様(マスター)! 素晴らしい作戦です!」


「うむ。お主が(かなめ)じゃぞ、シトリー」


「任せてくださいよ! これ以上あんな堕天使なんかの好きにはさせません!」


 その時、ルキフェナの攻撃によってミシミシと結界が悲鳴を上げ始めた。


「む、もう限界か! どこまでも相性の悪い奴じゃ!」


「よし。準備はいいか?」


「はいっ!」


 俺はシトリーとツバキの顔を見た。大丈夫。俺達なら勝てるはずだ。


「ではいくぞ――結界、解除!」


 ツバキの声と共に結界が消えるのと、ルキフェナの放った魔法が着弾したのはほぼ同時だった。



   ◆     ◆     ◆


 ほんの数分前までと打って変わって、堕天使ルキフェナは辟易としていた。


「はあ。いつまで籠もっているつもりなんでしょうねえ」


 ぼやきながらも、攻撃の手は一切休めていない。並みの魔物なら一撃で吹き飛ばすほどの強烈な魔法が、毎秒相手を襲っている筈なのだ。

 それにも関わらず、あの妙な形の結界はビクともしないまま、5分以上経過した。いい加減飽きもするというものだ。


「あれはおそらく、異邦の神にまつわる力でしょうねえ。地を這う魔物の分際で生意気な……」


 本来、天使族の扱う聖属性魔法を防ぐ手段など、魔物が持っているはずもない。だが、系統が異なるとはいえ神に所縁のある力であれば、聖属性の効果も半減してしまうのだ。

 もっともそれは相手にとっても同じ事である。その証拠に、強固である筈のあの結界にも綻びが出始めていた。


「やれやれ、ようやくですか?」


 投げやりに、しかし最も強力な魔法を撃ち込むと、遂に結界が割れた。だがおそらく、この程度では致命傷にはならないだろう。やはり一番確実な方法は、主人である人間の男を直接仕留めることだ。

 その時、狙いであるその男が土煙の中から飛び出てくるのが見えた。


「あら、もう終わりですか。呆気ない」


 ルキフェナは勝利を確信していた。配下の魔物達は異様とも言える強さだが、あの男自身はただの人間。現に今も、こちらの攻撃を必死に避けているだけだ。

 もっとも、それ自体も普通の人間ならあり得ないのだが。おそらく彼女の手元や魔法陣を見て先読みする程度の知能はあるのだろう。


「とはいえ、これで詰みですね」


 だが、彼女にはもう一つの能力がある。攻撃を避けるためにこちらに目を向けるというだけの行為が、彼女の前では致命傷になりうるのである。


「『心失の魔眼』」


 視線が交錯したほんの一瞬だけで、彼女の『魔眼』は発動した。これでほんの少し動きを狂わせるだけで、あの人間の命は終わるのだ。

 地上に来てから最も強い人間だっただけに、殺してしまうのは勿体無い気もするのだが。魔物とつるんでいるような汚らわしい人間を利用する気にもなれない。そんなことを考えていたとき――ふと、視界が揺らいだ。


「――え?」


 自分の目に映っていた筈の男の姿が消え、代わりにあの汚らわしい魔物の姿が現れたのだ。

 驚愕に見開かれたルキフェナの瞳を、魔物の瞳が真っ直ぐ見据える。そして――


「――『魔眼返し』!」


 刹那。ルキフェナの体に、天使としてはあるはずのない、未知の感覚が走った。

更新が滞っており申し訳ありませんでした。

前話より加筆修正をしておりますのでお読みいただけると幸いです。

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