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真の黒幕

10/27 大幅に加筆修正しました。

「な、何が起こってるんですかぁ!?」


「落ち着け!」


 異様な雰囲気に呑まれ、泣き出しそうになっているシトリー。俺は努めて冷静に言った。


「これらの不可解な現象は、全て同じ奴の仕業だ」


「どういうことですか、ご主人様(マスター)!?」


「石化しているのはあの悪魔を直接倒した者達だ。おそらく転移型の呪いだろう」


 俺は以前読んだ本の内容を思い出しながら言った。これは並の者には扱えない、古代呪術と呼ばれる代物である。


「ほう。それであの怪物は殺されたがっていたわけじゃな。強力すぎる呪いは魂まで蝕むというからのう」


「ああ。次にこの同士討ちだが、こいつらは一種の狂化(バーサク)状態にある。そしておそらく、これはあの『祝福』とやらの副作用だ。いや、むしろこっちが本命か」


 俺は周囲の流れ弾を避けながら、一歩ずつ前に進む。


「あれも『祝福』ではなく『呪い』だったんだろう。俺には『神獣の加護』で呪いが効かないから、あの時何も起きなかったわけだ」


 一つひとつに目を向ければ何のことは無い、単なる呪いの類であることは明らかである。

 俺はようやく人ごみを抜け、ある人物の背後からその肩に手をかけた。


「そして、これらの出来事を仕組める奴は限られてくる」


「ひ、ひいぃっ!」


 俺の手が触れた途端、神父は悲鳴をあげた。そして俺から顔を背けたまま、手を合わせて一心に祈り始めたのである。


「申し訳ありません! どうか、どうかお赦しください!」


「何を自分だけ助かろうとしてるんですか! ご主人様(マスター)、こいつどうします!?」


「もちろん、()()()


 俺が肩にかけた手を引くと、神父は祈りの姿勢を崩さぬまま倒れこんだ。しかし、その懇願するような視線の先にいるのは、俺ではない。


「どうかお赦し下さい――シスター・ルキフェナ!」


 俺と神父の真正面で、シスターと呼ばれた女がにこりと微笑んだ。


「……まさか、人間如きに見破られるとは思っていませんでしたわ。いつお気付きになったので?」


「ただの消去法だ。この神父は黒幕にしてはあからさま過ぎるし、魔力もないただの人間だ。となれば、残りは一人だろ?」


「ふふ、残念ですわ。その者にも()を埋め込んでおりましたのに」


「うう、うううぅぅ……」


 神父は体を丸めたまま、搾り出すような呻き声を上げた。


「……冒険者殿。私達があの女の言いなりになり、多くの人を陥れたのは事実です。都合が良いのは百も承知ですが――どうかお願いします! あの悪魔を、ここで止めて下さい!」


「ああ、承った」


 おそらく先の上位パーティー達も、同じような手管で全滅させられたのだろう。神父や村人達がその一端を担ったのは事実ではあるが――彼らもまた被害者に他ならない。


「ああ、人間というのは何故こうもいじらしく、嗜虐心をそそるのでしょう! あまつさえこの私に勝てるなどと思い上がっているとは!」


「随分と余裕だな。言っておくが、俺の仲間達は、強いぞ?」


「ええ、ええ、存じておりますとも。貴方方(あなたがた)は確かに強いです――()()にしては、ですけどね」


 そう言ってシスターがその瞳を見開いた瞬間、その背後から3対の翼が現れたのである。それを見て、俺達は思わず驚愕の声をあげた。


「これってまさか、天使族の羽ですか!?」


「いや、天使族の羽は白以外ありえんぞ!」


 シスターの身体を覆うように現れた巨大な翼の色は、その内なる邪悪さを映したような、深い漆黒だったのである。


「まさか――堕天使か!?」


 悪魔族と違い、天使族と遭遇することは非常に稀であり、当然俺も目にしたことはない。ましてや、魔に堕ちた存在である堕天使など、御伽噺でしか聞いたこともない。


「改めて名乗りましょう、地に這いずる者達よ。私は堕天使ルキフェナ。貴方に永遠の安寧を(もたら)す者です」


 シスター、いや、ルキフェナは変わらぬ微笑を浮かべたまま告げた。それは余裕の表れでもある。俺は苦々しく呟いた。


「……堕天使様とやらが、こんな地上まで来て一体何をしているんだ? 何故こんな回りくどい真似を?」


「天使族にとっての力の源は人の信仰心です。より力のある者からより強い信仰を集めることが出来れば、効率が良いでしょう?」


「なるほどな。強い冒険者を呼び込んで自分だけを信仰するよう洗脳すれば、信仰を独占できるというわけだ。堕天するのも当然の行ないだな」


 あの『祝福』と称した呪いも、洞窟の悪魔を倒させたのも、全てはより強力な洗脳を施すための工程だったというわけだ。


「ふふ。察しの良い方は嫌いではありませんわ。では、これならどうします?」


 ルキフェナの瞳が妖しく光ると、次の瞬間、周囲の冒険者達が一斉にこちらを振り向いた。その顔からは一様に正気が失われている。


「『魔眼』による強引な洗脳か!」


「貴方のような立派な冒険者ほど、傲慢にも他人を救いたがるものです。ですが彼らに貴方の声は届きません。さあ、どのように彼らを救いますか?」


 その言葉と同時に、操られた冒険者達が暴徒と化して俺達に向かってきた。彼らを傷つけてでも退けるか、あるいは無様に逃げるのか。そういった苦悩を味あわせたかったのだろうが。


「生憎と、こっちも真っ当な冒険者ではないんでね。シトリー! この場の全員に『魅了』だ!」


「はいっ! はあぁっ――『セクシーウィンク』!」


 その瞬間、シトリーの視界に入っていた全ての冒険者達が動きを止め、バタバタとその場に倒れる。それを何度か繰り返すことで、冒険者達を無力化することに成功していた。


「ほう、(わたくし)の『魔眼』による洗脳を上書きするとは。中々面白い真似をしてくれますね」


「ふふん、見ましたか! これがサキュバスの本気です!」


 少なくとも『人間の理性を奪う』ことにおいては、サキュバスであるシトリーの方が上回ったらしい。

 天使族は確かに強大な相手だし、堕天使ともなればその能力は未知数である。だが、俺の仲間達も決して劣らないということだ。


「いいでしょう。少し本気で相手をして差し上げます」


 ルキフェナの背後に、様々な色の魔法陣が次々と浮かび上がる。俺はそれに応えるかのように告げた。


「行くぞ、シトリー、ツバキ! あの堕天使はここで討伐する!」


「はいっ!」


「応とも!」

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