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テレジアの村へ

 俺達がギルドに足を踏み入れると、即座に喧騒に包まれた。


「おお、ケインズ! よく来てくれた!」


 かつての同僚であるギルド職員の男が、俺の姿を見るなり駆け寄ってきた。


「ええ。随分な騒ぎですね」


「無理もないさ。このギルドで数少ない上級冒険者のパーティーが4つも壊滅したんだからな」


 駆け出し冒険者が多いこの街では、上級冒険者と認められたパーティーはごく一部だ。それが4つも壊滅したとなれば、ギルドにとっては大きな痛手だろう。


「クエストの内容は?」


「ああ。テレジアという田舎の村があるんだが、近くの洞窟に上位の悪魔が住み着いたと連絡があってな。そこで上位パーティーに討伐を依頼したんだが、しばらくして連絡が途絶えたんだ」


 職員の男の声色からは、焦りとも恐怖ともとれる感情が見栄隠れしていた。


「それから追加で3組の上位パーティーを派遣したんだ。上位パーティーがそれだけいれば万が一はないだろうと思っていたんだが……。ついさっき村長から連絡があって、そいつらが全滅していたらことが判ったんだ」


「なるほど。状況は分かりました」


 普通のパーティーが3、4人だとして、4組もいれば上位冒険者が10名以上いることになる。それだけの数がいて全滅することなど、普通は有り得ない。


「それで村長が、もっと強い冒険者を寄越してくれと言ってきているんだがな。敵の全貌も掴めないまま増援を出して、これ以上犠牲者を増やすわけには…」


 俺達はちらりとギルドの中央に目を向けた。


「オレは行くぜ! あの上位とか言われてる連中は前から気に入らなかったんだ!」


「ふ、裏社会で鍛えた我が剣、ついに日の目を浴びるときが来たか」


「悪魔払いなら任せなさい……神の祝福が全てを消し去るでしょう……」


 どうやら名乗りをあげているのは、功績を挙げようと暴走している連中しかいないらしい。

 チセさんも俺の手を取って言った。


「私からもお願いします、ケインズさん! これはギルドの危機なんです!」


「お前は肩書きは初級冒険者だが、実力は折り紙つきだ。どうか頼む!」


「分かりました。そのクエスト、受けましょう」


 ギルドの危機などと言われれば、元職員として黙っているわけにもいくまい。


「ありがとうございます、ケインズさん! 早速馬車の手配をしますね!」


「ギルドの建前上、今回は他のパーティーにも同行してもらう形にせざるを得ない。正直お前にとっては足手まといかもしれないが…」


 この緊急時に派遣するのが初級冒険者一人では、面子がたたないということだろう。組織としての(しがらみ)というやつだ。


「構いませんよ。なるべく犠牲も出さないよう努めます」


「すまない。この任務が成功したら、ギルドとして正式な報酬を出すことを約束する!」


 こうして俺達は、テレジアの村に向かうことになった。職員達の目が離れたのを見計らって、シトリーが声をかけてきた。


「やりましたねご主人様(マスター)! 相手が上位の悪魔だろうと、私達が負けるはずありません。報酬はいただきですね!」


「そう単純にいけばいいけどな」


「え? どういうことですか?」


 不思議そうに首を傾げるシトリーに、俺は説明した。


「後発の冒険者が逃げ帰ってきたのならともかく、『全滅』の連絡だけ来るのは不自然だ。まさかダンジョンから死体が送り返されてきたわけでもないだろうし」


「言われてみれば、確かにそうですね……」


「それに救援を求めている割には、被害の状況も避難の要請も来ていないようだ。色々と妙じゃないか?」


「なるほど。確かにキナ臭いのう」


「……もしかして、罠かもってことですか?」


「ああ。とにかくこれ以上の犠牲者は出せない。油断せずにいこう」



  ◆  ◆  ◆


 一時間後。俺達は商隊用の大型馬車に揺られ、決して快適とは言えない旅路についていた。


「へっへっへ、アンタが噂の魔物遣い(テイマー)かい? 例の愛人二人はどうしたんだ?」


「……」


「下らんな。色に溺れる者が戦場に赴くなど自殺行為でしかない」


「……」


「おお神よ……罪深き魂に祝福を……」


「……」


 馬車に同乗していたのは、よりによってこいつらだった。一々相手にする気力もないので、シトリーとツバキには飛びながら警戒を任せている。

 今回のクエストに参加するのは上位未満の4つのパーティーである。しかしそのいずれも、こいつらのように功績と報酬に目が眩んだ連中が殆どのようだ。


「おい聞いてんのかよ魔物遣い(テイマー)! あの美人達と同じ馬車に乗れると思ったのになんでいねえんだよ!」


 いないのではなく、不可視の魔法をかけた状態で飛んでいるんだが。


「……随分と余裕だが、上位パーティーを全滅させた相手に勝てる自信でもあるのか?」


「ああ!? あんな鼻持ちならない連中よりも、オレの方が実力は上だ! あいつらはこれまで運が良かっただけだ!」


 あまりに根拠のない暴論である。こんな連中を守るのは気が重いが、クエストである以上はやるしかあるまい。

 そんなとき、外にいたツバキが俺にしか聞こえない声で言った。


「(主殿、見えたぞ。あれがテレジアの村じゃ)」


「(様子はどうだ?)」


「(主殿の予想通りじゃ。不自然なほど平和じゃの)」


「(もう()()()かもしれないな。十分注意してくれ)」


「((あい)わかった)」


 こうして俺達は、テレジアの村へと足を踏み入れたのである。

私情によりしばらくは遅い時間の更新となります。

よろしくお願いします。

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