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宴の後に

「ZZZzzz……」


「ほらシトリー、(ウチ)に着いたぞ」


 ギルドでの宴会を終え、俺達が家に戻ったのは夜更けの頃であった。俺は背負っていたシトリーをベッドに寝かし、水を飲んで一息ついた。


「今日は随分と贅沢をしたのう」


「たまにはいいだろ?」


「勿論だとも。食欲、財欲、そして情欲。それらの享楽に耽ってこその人間であり、そうさせるのがサキュバスの仕事じゃ。まあ、中には誰よりも先に潰れる阿呆もいるようじゃが……」


 ツバキがちらりと目を向けるも、シトリーは両手足を広げた完全に無防備な格好で眠ったままだった。


「ところで主殿、一つ聞いてもよいかの?」


「なんだ?」


「以前から気になっておったのじゃが。何故主殿は冒険者を続けておるんじゃ?」


 ツバキは窓際に腰掛けたまま、彼女にしては珍しく真面目な様子で尋ねてきた。


「正直、今の儂らの強さならその辺の魔物など蹴散らせるし、もっと楽に生きる方法はいくらでもあろう。金もあって、儂らのような美女も侍らせて、それで十分ではないか?」


 美女を自称することには今更突っ込まず、俺はツバキに答えた。


「俺は優秀な"魔物遣い(テイマー)"になることをずっと期待されてきた。だがこの固有スキルのせいで、周りから一気に見放されたんだ。自分の固有スキルを呪ったこともあったよ」


 俺の言葉を、ツバキは黙って聞いていた。


「だがシトリーと出会って、自分のスキルにも使い道があることが分かった。それどころか、サキュバスの強化に関してはおそらく最高クラスだろう。この力がどこまで通用するのか、試したいんだよ」


 これは俺の本心だった。思わぬ形で最強クラスの仲間ができて、正直戸惑いもあったのだが。せっかく手にした力なのだから、使わなければ損というものだ。


「俺はこの生活に満足しているし、金も地位も名声も、それ程欲しいとは思えない。かといって俺を捨てた家族を恨んでいるわけでもない。でも、俺達が強くなることで、今まで俺達を下に見てきた奴らを少しは見返してやれたら、痛快じゃないか?」


「……なるほどのう、金も名誉も復讐も求めんとは。良く言えば達観した、悪く言えばつまらん人間じゃの」


「無欲な人間は嫌いか?」


「いいや? これまで欲に塗れた愚かな人間ばかり目にしてきたからのう。主殿がいつボロを出すのか見届けてやるのも(やぶさ)かではないぞ。ところで」


 ツバキは窓際からひょいと降りると、月光を背にしてはらりと服をはだけさせた。その神秘的な雰囲気も相まって、俺は思わずドキりとしてしまった。


「情欲の方ならいつでも満たしてやれるぞ?」


「……それはもう十分だ」


「くふふ」


 夢の中ならともかく、現実世界で彼女の相手をしたら間違いなく死んでしまう。俺は普段シトリーが腰掛けているソファに腰を下ろし、そのまま眠りについた。



   ◆     ◆     ◆


 それから2週間が経った。俺は適当なクエストをこなしつつ、夜は【明晰夢】でシトリーと魔法の鍛練をするという生活を続けていた。

 ちなみに以前ギルドに分割での買取りを依頼していた「神秘の結晶」についても、ようやく話がまとまった。ギルド内では色々と揉めていたようだが、少しは俺の実力も認められてきたようだ。

 で、そうして得た金を何に使っているかと言うと。


「届いたぞ二人とも。頼まれていたマジックアイテムと御札?だ」


「わあ、ありがとうございますご主人様(マスター)!」


「おお、本当に買ってくれるとは。いい主人を持ったものじゃ!」


 俺は入ってきた金を専らアイテムの購入費用に充てていた。いくら【明晰夢】で強化し放題だとしても、物理的に必要なアイテムだけはどうしようもない。

 だが逆に言えば、それ以外の出費は最低限の生活費くらいしかないため、大抵のものは買えるのだった。


「しかし本当にいいのかのう? これがあれば確かに強力な術が使えるが、所詮は消耗品じゃぞ」


「現実で戦ってもらうのはお前達なんだ。この出費も俺自身の為さ」


「これをこうして……えいっ!」


 隣にいたシトリーが魔法を唱えると、届いたばかりの紫色の水晶玉が、指輪の宝石サイズにまで縮んでいた。


「さっきから何をやっておるんじゃ、お(ぬし)。まさか壊したのか?」


「違いますよ! エレオノーラさんから習った『圧縮』の考え方を応用すれば、マジックアイテムを小さくて便利なものに出来ると思ったんです。はいご主人様(マスター)、どうぞ!」


「俺にか?」


「はい! これは所有者の『呪い』や『加護』の効果を増幅させるアイテムです! 私の『淫魔の加護』の効果も増幅しますし、しかも『神獣の加護』によって呪いを受けないのでデメリットもありません!」


「なるほどのう。珍しく考えておるではないか」


「ああ、本当に助かるよ。ありがとう、シトリー」


「えへへへ……」


 俺が頭を撫でてやると、シトリーは目を細めて嬉しがった。

 実際のところ、これは俺にとってもかなり嬉しかった。戦闘において圧倒的な二人がいるとはいえ、主人である俺が足を引っ張るようなことがあってはならない。少しでも俺自身も強くなれるのなら、それに越したことは無い。

 しかし、俺が早速それを身に着けようとした時、家の扉がドンドンと叩かれたのである。


「ケインズさん! ケインズさんはいますか!?」


「どうしたんですか、チセさん?」


 声の主は、普段ギルドにいる筈のチセさんだった。こうして血相を変えて飛び込んできたということは、余程のことがあったということだ。


「良かった! 大変なんですケインズさん!」


 チセさんは上がった息をなんとか抑えながら、必死の形相で告げた。


「ある村に派遣されていた4つの上級パーティーが、数日前に全滅していたことが、たった今、分かったんです!」

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