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最弱のスキル、そして追放

 16歳の誕生日。それはこの世界で生きる人間にとって最も重要な日である。

 何故ならば、その日に行なわれる『成人の儀』によって、生まれ持った固有スキルが明らかになるからだ。当然それによって、その者の将来もおおよそ決定されることになる。


 例えば【剣技】の固有スキルを持つものは、"勇者"や"戦士"の職業(クラス)になることが多い。剣の扱いに長け、『竜殺し(ドラゴスレイヤー)』などの個別のスキルも習得できる彼らは、ダンジョン攻略の花形だ。

 その他にも、【回復魔法】や【蘇生魔法】なら"白魔道士(ヒーラー)"、【気配探知】や【鍵空け】なら"盗賊(シーフ)"など。

 固有スキルによってその者の職業(クラス)は決定される。それがこの世界の常識だ。


 だからこそ、俺はこの『成人の儀』を迎えるにあたって、大いに緊張していた。

 俺の家系は代々王国お抱えの"魔物遣い(テイマー)"である。特に父は歴代最強とも言われ、「父一人が従える魔物だけで小国が落とせる」と噂される程だ。


 その跡取りとして、俺は幼い頃から大変なプレッシャーを浴びてきた。だから俺は、体は強い方ではなかったが、魔物や魔法について人の何倍も勉強した。

 もっとも、どれだけ知識があったところで、有用なスキルを持って生まれた者には適わない。例えば【魔物博士】の固有スキルを持つ者は、初めて目にした魔物の弱点や好物が自動で頭に浮かび上がるという。だからこそ、この世界では何よりもスキルが重要視されるのだ。


(どうかお願いします! 最低でも【魔物博士】か【配合師】、できれば『レジェンドスキル』が当たりますように!)


 ごく稀に、レジェンドスキルと呼ばれる唯一無二の固有スキルも発現する。『伝説の勇者』などと称される者は、ほとんどがレジェンドスキル持ちである。

 ちなみに父は【ソロモンの指輪】というレジェントスキルを持ち、天使や精霊すら従えることが出来るという。

 固有スキルの強さや方向性はある程度遺伝すると言われているから、俺がレジェントスキルを引ける可能性も決して低くはない、と信じている。



 そしてとうとう、運命の時が来た。


「では、これより『成人の儀』を始める。ケインズ・グランバレル殿!」


「……はい!」


 神官に呼ばれ、俺は一歩前に出た。そして儀式の作法に則り、目を閉じて祭壇の『精霊石』に手を当てる。

 一族の長である父、そして一族の中でも特に優秀といわれる"魔物遣い(テイマー)"達に見守られながら。


「『我が身に秘めたる能力よ、顕現せよ』!」


 俺が宣言すると同時に、精霊石が虹色に輝き出した。周囲から歓声が上がる。


「これは……! レジェンドスキルだ!」


「流石、当代最強と言われたグランバレル殿の嫡男ですな」


「うむ……」


 普段から厳格な父だけは、全く喜ぶ様子も見せなかったが、この時の俺は気にも留めなかった。

 やがて精霊石から溢れ出た光の中に、文字が浮かび上がった。



『ケインズ・グランバレル。貴方がその身に宿すスキルは、【明晰夢】です』



「……【明晰夢】?」


 その呟きは周囲の誰のものだったか、或いは俺自身の口から漏れたものだったか。

 俺は聞いたことがない固有スキル名を告げられ、茫然自失となっていた。そこに更に追い討ちをかけるかのように、追加で文字が浮かび上がった。


『貴方は自身が望むままの夢を見ることができ、その夢の中でなら何でも出来ます』


 ……ああ、見間違いではなかった。一瞬この状況こそが悪夢であることを考えたが、周囲のどよめきが俺を現実に引き戻した。


「夢を見られる……だから何だっていうんだ?」


「こんなものがレジェンドスキルだというのか!?」


 父の側近であり、一族のナンバー2とも言われる男、ヘンリーが口を開いた。


「……レジェンドスキルとは、必ずしも超越的な力を秘めているわけではありません。同じ世に二人といない程に希少性が高いものを指すのですから」


 周囲の目線が、俺に対する失望、そして軽蔑するものへと変わっていくのが分かった。しかし俺にはどうすることも出来なかった。

 やがて父が重々しく口を開いた。


「……息子よ。今までお前を手塩にかけて育ててきたが、それも今日限りだ」


「そんな! 待ってください父上、これでもレジェンドスキルです、必ず役に立ってみせます!」


「無理を言うな。現実逃避にしか使えないスキルで、何が出来るというのだ?」


「それは……」


「お前は努力家ではあるが、もはや我が一族に不要な存在だ。本日よりグランバレルを名乗ることは許さん!」


 突然の勘当宣告に、俺は目の前が真っ暗になった。


「だが儂にも父としての責任がある。二度と儂に顔を見せぬという条件で、ラルフの街に住処(すみか)と、当面の生活費をやろう。新米冒険者が集まるあの街であれば、スキルを持たぬお前でも、口に糊する程度は出来るだろう」


「……分かりました。今日までありがとうございました」


 こうして俺は一族から追放され、ラルフの街で(いち)労働者として生きることになったのだった。

本日は3話まで投稿します。

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