強化の方法は……
仕方がないので、俺は説明した。俺の固有スキルである【明晰夢】と、それを利用した強化について。
「なるほど……夢魔の特性を利用するとは。よく考えたのう」
「まあ偶然というか、成り行きだったんだけどな」
「運も実力のうちじゃ。それで、儂を仲間にしたということは当然、儂のことも強化してくれるんじゃろ?」
当然、そういう流れになるだろう。俺としても仲間は強いにこしたことはないのだが。問題は、例の『レベルドレイン』についてだ。シトリーとするだけでも相当疲弊しているのに、二人相手なんてことになったら……。
俺はなんとかその件だけを隠しつつ、強化の具体的な説明をすることにした。
「……こんなふうに魔物遣いのスキルを使うことで、潜在能力の解放やレベル上限の解放が出来るんだ」
「おお、確かにステータスが上がっておるな」
といっても、ツバキの場合元々かなりの強さだったため、シトリーと違いそれほど劇的に強くなるわけでもない。そうなれば、当然聡い彼女も気付く。
「で、肝心のレベルはどう上げるんじゃ? そこな下位サキュバスが200レベルを超えておるのも、主殿の力なんじゃろ?」
「ちゃんと名前で呼んでください! ……一応、仲間なんですからね」
「面倒な小娘じゃのう」
「ちょっとぉ!」
再び口論を始める二人を尻目に、俺は考えていた。ツバキを仲間にした以上、『レベルドレイン』の件をこの先ずっと隠し通すのは不可能だろう。だが問題は俺の体力面だけではない。シトリーが間違いなく反対するだろうということだ。あれだけ貞操観念に厳しい彼女が、ツバキとの行為を認めるとは到底思えないのだが……。とにかく、説得を試みるしかないか。
俺はいつものように自身のレベルを99まで引き上げた。
「おぉ? 主殿の気配が急に濃くなったな。何をしたのじゃ?」
「これも【明晰夢】の力だ。俺は自分のレベルなら好きに操作できる。この状態で『レベルドレイン』を使ってもらえば――」
「|成程、レベルを吸い取り放題というわけじゃな! では早速」
「あっ!? ちょっと待ってくださいツバキさん!」
俺の手を取ろうとしたツバキを、当然シトリーが押し留めた。だがその表情には何故か、怒りというよりも焦りが浮かんでいる。
「シトリー。お前との約束の手前、他の女と行為をするのは、俺自身もどうかとは思うんだが。これも必要な――」
「ん? 行為? 主殿は何を言っておるのじゃ? 『レベルドレイン』なんて手に触れるだけで――もがっ!?」
「あーあーあー! ちょっと待ってくださいお二人とも! ツバキさんはこっちへ! ご主人様は絶対聞かないで下さいよ!」
シトリーは強引にツバキの口を塞いだまま、俺から離れたところで話し始めた。
「……ということで……ドレインは……必要ということに……」
「はあ?」
「大声出さないで下さい! ……ということにして……ええっ!?……でもなぁ……それじゃあ……」
しばらくすると、二人は俺の元に戻ってきた。ツバキは満面の笑みで、シトリーは拗ねたような落ち込んだような複雑な顔で。
「いやー主殿! 吸精と強化が一度に行なえるなんて素晴らしい方法ではないか! シトリーの奴もほれ、この通り納得してくれたぞ?」
「うぅぅ……でも、ご主人様にも条件があります!」
嫌な予感しかしないんだが。
「……なんだ?」
「行為には私も混ぜてもらいます! 私のいない所でするのは許しません!」
「お前の貞操観念的にはそれでいいのか……?」
「しょうがないじゃないですか! バレてできなくなるよりはマシで……何でもありません!」
よく聞こえなかったが、とにかくオーケーらしい。ただし俺の負担という意味では状況は悪化しているのだが。ツバキが体躯に見合わない妖艶な表情で俺に迫り、そして――
「では、ありがたくいただくとしよう。安心せい、主殿。加減はしてやるからの?」
◆ ◆ ◆
「はぁっ、はぁっ……ようやくシトリーのレベルと並んだのう」
「ちょっとツバキさん、やりすぎですよ!」
「お主もしておったではないか」
「だってツバキさんが私を追い抜こうと躍起になるから……って、ご主人様死にそうになってるじゃないですか! 『淫魔の加護』もあるのに!」
「ん? ……ああ、儂の妖気に当てられておるだけじゃな。ほれ」
ツバキの手から光が迸り、俺はようやく意識が戻った。
「……復上死するかと思った」
「おはよう、主殿。人間にしては中々楽しめたぞ?」
俺はゆっくりと身を起こした。先ほどまで気を失っていたにしては、それほど体に疲労は感じられない。少しは慣れたということだろうか。
「ところで、さっきの光は?」
「ああ、あれは儂が覚えたスキル『神獣の加護』じゃ。あらゆる邪気や妖気、そして呪いから身を守ってくれる有難い術なのじゃ」
「それは助かるが……お前が邪気とやらを抑えてくれれば必要なかったんじゃないのか?」
「久々じゃからついはしゃいでしまってのう。まあ許せ!」
全く悪びれもしないツバキに何か言ってやりたかったが、俺はとにかく疲れていた。
「これから朝まで本気で眠るから、絶対起こさないでくれ」
「ご主人様……ゆっくり休んでくださいね」
「労わってる風だけど、お前も同罪だからな」
「うっ」
サキュバスと愛し合った人間は早死にするというが、俺の寿命は倍の早さで縮まるんだろうか。そんな恐ろしいことを考えながら、俺は泥のように眠った。