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限界突破

 それからの一週間は、怒涛のように過ぎていった。


難易度★1『森ゴブリンの討伐』


「『フレイムピラー』! ……ふっ。ゴブリン如き、私からすれば雑魚(ザコ)ですね」


「森が盛大に燃えてるんだが」


「あっ! えーと、『爆風消火(エグゾーション)』!」



難易度★1『ダイオウムラサキの(さなぎ)の撤去』


「ただの蛹とはいえ、人間サイズだと不気味だな」


「あの見た目でも、中身は意外と美味しいんですよ」


「……食べたのか?」


「私じゃないです! (ハーピー)系サキュバスの友達から聞いたんです!」



難易度★2『屋根裏に住み着いたケイブキャットの捕獲』


「見ろ、子猫がいるぞ。害獣とはいえ可愛いもんだなあ」


「じゃあ私とどっちが可愛いですか?」


「猫と張り合うなよ……」



難易度★2『グレイホーネットの蜂蜜の採取』


「どうするんですかご主人様(マスター)? 燃やしたらまずいですよね?」


「風魔法で巣を切り離して、周りの蜂も撹乱してくれ。その間に俺が取りに行く」


「了解です――『風迅の刃(ウインドスラッシュ)』!」



   ◆     ◆     ◆


 昼間はクエストをこなし、夜は【明晰夢】による魔法のレクチャー。そうした日々を続けていくうちに、シトリーは炎属性と風属性だけではあるが、上級魔法すら習得していた。

 そして、とうとうクエストの受注制限が解除されることになった。


「えー、魔物遣い(テイマー)、ケインズ殿。貴公の功績を踏まえ、本日より自己の判断で任務(クエスト)を選定することを認めます。ラルフの街ギルド長。 ……ふぅ。おめでとうございます!」


 チセさんが読み終えると共に、周囲の職員や冒険者から拍手が巻き起こった。初クエストでキラーロブスターを討伐したということもあり、俺は異例の早さで一冒険者として認められたのである。

 そして、今日を以って俺は正式にギルドの職員を退職することにもなっていたのだ。


「ありがとうございます、チセさん。皆さんも、短い間でしたがお世話になりました!」


 俺は他の職員達の方に向き直って言った。俺が2年間生活してこれたのは、この職場のおかげである。


「おうよ! これからは冒険者として、クエストをバンバンこなしてくれよな!」


「レアなモンスターはちゃんと買い取るからね!」


「大丈夫、今度は食べませんよ」


 俺の勝手な都合で職員を辞めるというのに、暖かく送り出してくれる職員達。だがそんな中で、チセさんだけが真剣な顔をしていた。


「……ケインズさん。貴方の強さは分かっていますが、でも絶対に、無茶はしないで下さいね。冒険者の8割はクエストで命を落とすと言われていますから」


「心配してくれてありがとうございます。でも大丈夫ですよ。俺には頼れる……いや、とにかく強い仲間がいますから」


「(ちょっと何で言い直したんですか!?)」


 人前なのでフードを被って大人しくしていたシトリーから非難の声がしたが、聞こえないフリをしておく。


「これからは冒険者として、ギルドの皆さんのために頑張りますよ。だからチセさんも、是非力を貸してください」


「……分かりました。ケインズさんのためなら、私にできることは何でもします!」


 再び周囲の冒険者達から拍手が起こった。ついでに囃し立てるような口笛も混じっているが、これも聞こえないことにしておいた。


「じゃあ、さっそくクエストを受注したいんですが、いいですか?」


「はい! どのクエストですか?」


「『神秘の結晶』の採取です」


「ちょっと待ってくださいね……って、難易度★7のクエストじゃないですか! 無茶しないでって言ったのに!」


 俺が周りの人達と共にチセさんを説得するのに大変な苦労をしたことは、言うまでもない。



   ◆     ◆     ◆


 それから3日後の夜。俺とシトリーは『神秘の結晶』を守る火焔竜(フレイムドラゴン)をなんとか退けてダンジョンから帰還し、いつものように【明晰夢】の中にいた。


「いやー、渾身の炎魔法が効かなかったときはどうしようかと思いましたよ」


「ああ。相手が話の分かる奴でよかった」


「普通のドラゴン族って大体みんな偉そうで、いつも私達(サキュバス)のこと見下してますからね!」


 魔物目線だとそういう印象なのか。人間からすれば、ドラゴンは特別な存在だと自然と思ってしまうのだが。


「でも、これで上限突破出来るんですよね? そしたらドラゴンも軽く(ひね)れるくらい強くなれますか?」


「確かにレベルは300まで上がるようになるが……」


 通常下位の魔物はレベルの上限が99であるが、魔物遣い(テイマー)なら『神秘の結晶』を使ってその壁を超えることが出来る。レベルが上がればステータスは上昇するだけではなく、強力なスキルを覚えることができるのだ。

 だがレッサーサキュバスという種族は、おそらく戦闘系のスキルは覚えないと思うのだが……とにかく、やってみるしかない。俺は『神秘の結晶』を持ったまま、シトリーの頭上に手を(かざ)した。


「『世界の神秘よ、我が(しもべ)に新たなる力を――!』」


 眩い光が迸り、そして――。


「……成功したか?」


「どうでしょう。全く変わりがありませんけど」


「まあ、レベルの上限が上がっただけだからな」


「じゃあ、久しぶりに『レベルドレイン』、やっちゃっていいですか?」


「……1回だけだぞ」


 …………。


「あっ! レベル129になってます!」


「ぜぇ、ぜぇ……もう十分だろう」


「えー。どうせなら今晩中にレベル300目指しましょうよ!」


「馬鹿言うな!」


 俺は気怠(けだる)い体に鞭を打ち、なんとか自力で服を着た。


「で、何か新しいスキルは覚えたか?」


「えーと……『慈愛の蜜』『淫婦の抱擁』『谷間の百合』を覚えました!」


 どれもロクでもなさそうだ。


「やはり、これ以上強くなるためには、新しい魔法を覚えるしかないな……」


 レベルアップで攻撃スキルを覚えない以上、また新しい魔法を覚えてもらうしかない。それも、その辺の本に載っていないような強力なものをだ。俺達の次の目標が決まった。


 

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