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異世界転生事務局  作者: ねこめろん
1/1

貴方の転生のプランはいかがなさいますか

私は、本当になんの起伏もない、いや、平均以下の生涯をここまで送ってきました。


運動が苦手だった私は、小中高と部活にも入らず、なんと彼氏の一人も出来ないまま、とうとう大学も不合格。一念発起して働こうとするも、バイトも長続きせず。

唯一の趣味だったソーシャルゲームもサービス終了。


完璧に打ちのめされた私は、遂に、ある決意をします。


そう。

死んでしまおうと思ったのです。


夕暮れの駅構内。

私は、どうせ死ぬんだから、少しでも汚点を消しさろうと、高校時代の制服を着て。

轟々とけたたましい音を立てながら、こちらに来る電車にめがけて足を踏み込み、目をつぶって、勢いをつけてジャンプ……


した、筈でした。


恐る恐る目を開けてみると、そこには、私の寸断された下半身が転がっていたり……はせず。


書店のような建物の目の前でした。輪廻堂、という看板が垂れ下がり、ガラス戸を閉じたその向こうには、埃をかぶった本が満載された、背の高い、焦げ茶色の木の書架が並んでいて、平積みされた本はだらしなく開きっぱなし。

なんだかかすかに薄暗くて、店主の姿すら見えない。

それはそれはレトロな………


いや、違う。私は、死んだはずだったんですから。


慌てて周りを見渡すと、本当に古い町並みが並んでいて、どれもこれも、木造平屋の、現代ではあまり見ないような家ばかり。

コンビニもなく、色とりどりの駄菓子を軒先に並べた駄菓子屋が辛うじてあるくらい。


紫色を帯びた、夕暮れのような空模様が、尚更、寂しい。


私の徳の低さという奴でしょう。

自殺したのですから地獄に落ちなかっただけマシでしょうが、まさか、死んだ後が古い街に行くだけだったとは。


ふう、と思わずため息をついて、折角古本屋さんがあるなら、どうせ死んでいるんだし暇を潰そうと思い、ガラス戸に手をかけ、ゆっくりと軋む扉を開けた。


『こんにちは……』


挨拶をしても返答はない。

それにしても不在なら鍵くらいしないものでしょうか。

死んだ後の世界なんかは、みんな不用心なのかも分かりません。

盗まれても死なないし、盗んでも死にやしないんですから。


『ま、まあ、良いよね。私、死んじゃったんだし、うん。』


自分にそう言い聞かせて、一つの、比較的新しめの本を私は手に取った。表紙絵もタイトルもない真っ黒。あの世では、とうに死んでしまった文豪も沢山いる訳ですから、本なんかも貴重な、この世にはない本もあるかもしれません。そう考えてみると、少し興味が生まれて、ページを早速捲っていました。


その矢先です。


『ああ、お客さんがいらしていたのですか……』


深く、落ち着くような低い声がしたかと思えば。


がらり、と扉が開いて、入ってきたのは、黒い喪服を着た、それはそれは優美な男の人でした。服が服だから男の人、と言いましたが、外見年齢的には高校生くらいだった気もします。


服は少しよれているけれど、肌は透き通るように白く、対照的に、黒髪は流れるような長髪で、華奢な肩幅と、柔らかな腰周り。女性のようなシルエットに相応な、美少年というような面立ち。

物憂げな垂れ目の淵には泣きぼくろがあって、より一層、美しさを高めていました。


『は、はい。


勝手に入って、すみません……

私、湊茜、と言います。

もう死んだはずですから、良いものかと、その……』


彼に見とれてしまったのか、ついつい、自分自身、何を言っているかわからないような言い訳を早口でしながら、高校時代の制服でなんて死んだ事を、私は激しく後悔していました。どうせなら、一張羅で死ねば良かったのに。


『ええ、構いません。

私はカムイ。ここの店主です。


ここは、本来死ぬはずでなかった人が来る場所。人は、異世界転生事務局、なんて呼び方を致します。


本当は、輪廻堂、と呼んで欲しいんですがね……宣伝不足でしょうか。』


彼は悠然とそう告げると、私の手にしていた本を、その細腕で拝借していって。


『輪廻転生事務局……?』


ぽかんとしたまま、私は首を傾げる。本来死ぬはずでなかった。というのは、多分、寿命より早く自殺してしまったからでしょう。

ただ、それによって何か措置があるなんて当然知りません。


『ええ。この本は、様々な世界に通じているのです。


規定の寿命より早くに死んでしまった方は、この中から、欲されている世界のニーズに合わせて転生し、送り込まれ。そこで規定の寿命まで働いて役割を果たしてから、また別の命に蘇る………


要するに、残業ですね。』


『別の世界……例えば、宇宙船が飛んでたり、魔法が使えるような感じの、ですか?』


『まあ、それに関しては行ってみるのが一番早いと思われます。

貴方には規定の寿命がうんざりするほど余っておりましたから。』


ぎくり、として、思わず肩を竦めた。カムイさんの表情は笑っているのですが、言っていることは中々私の鳩尾に響くような言葉ばかりでした。


『えっと、行く場所は選べるんでしょうか。』


肝心なのは場所です。

暑かったり寒かったり。お腹が減ったり……は、幽霊にはないとしても、転生してから戦争に行けとか言われでもしたら大変です。


『いいえ、人材難ですから……

死因によっては免除されるのですよ。過労で亡くなった方にまさか働けとは言えませんし。』


『生きていた頃と似たようなことを聞くとは思いませんでした。』


がっくり。人材難。

確かに、今のご時世、働き過ぎで死んでしまう人も多いのだし、そんなものかもしれない。


『ですが、行く場所は簡単です。ほら、ここにレベルが書いてあるでしょう?1から10まであるのですが、これは1です。

すぐ戻ってこれますよ。代わりに、働く時間も大して消費されないのですが。』


『はあ…なるほど。』


確かに、本に書いてあるのは1という数字だった。なるほど、これなら仕事も簡単そう。


『他の方は、例えば途方もなく強い能力だったり、才能だったり、基本的にお決まりのようなものを持つのですが、それすらいりませんから、ナシです。』


『というと、一体何をすれば良いんですか?』


『ここで、私共の手伝い、ですね。どうぞよろしくお願いします。』


『は、はあ……わかりました。』


かくして、私は。

肝心の自分は転生することなく、

異世界転生を斡旋する仕事に就いたのでした。何コレ。

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