スーパーとパチンコ屋
友里花はカメラに映った松本の様子を確認しながら言った。
「目に映ったものを取っています」
「じゃああまり計画的でない?」
小倉が言うと、友里花は女性的視点から推論を述べた。
「私は女だから違うかもしれないですけど、1人暮らし始めた頃は計画して安いものを買い何日も持たせたかった。1人暮らしは食費との戦いですし、いかに頭を使って切り盛りするかよね」
「ああ、わかるわかる、安く作れる料理と食材を選ぶものです。」
小倉と友里花は言った。
モニターのある部屋は店長にしかいなかったが、社員数人が呼び集められ話を聞くことにした。
皆口々に見たことを口にする。
「どんなご様子でしたか?」
北条が聞くと社員たちは常連客の1人である松本の様子を頭をひねりながら思い出した。
「いかにも仕事が終わって疲れ切った姿で、背中が少し丸まって力があまりないみたいで」
「怪しい動きはなかったですか?」
「なかったです」
「だれか同伴者はいませんでしたか?」
「たぶん、いないです」
「その時間何をしていたか、誰と一緒にいてその人はどんな人か、と言うのも重要です」
小倉は店中に出ていつもスーパーに来ていると言う主婦にも聞くことになった。
飛び込み的に1人ずつ聞いた。
松本の写真を用意した。
「この男性なのですが、もし見覚えがあればでいいのですが。店にいた際どんな様子でしたか?変わった事をした事はありますか?どんなものを買いますか?覚えている範囲でいいです」
主婦は頭を抱えた。
「うーん…変わった事ねえ…あまり知らないわ。物は野菜を色々買ってたかしら。インスタントラーメンとかはあまり買わないかしら。お菓子とか。ごめんね。あまりわからなくて」
近くで見ていた社員は言った。
「昼主婦に混じってたら目立つでしょうけど、8時9時で買っていくサラリーマンは結構いますからすごく目立つ事はありませんよ」
数人の主婦に聞いたが、特に松本の行動について怪しい所は見られなかった。
「あまり考えず感覚で買ってるみたい。つまり失踪計画まで考えてないと」
小倉が言うと友里花は繊細な視点で答えた。
「でもそれでいて考えているような、ほら立ち止まって見渡して考えてる」
また別の主婦に聞くことになった。
「買いだめはあまりしないっていうかあんまり計画的でないような。でも衝動買いもしてない感じだったわ。ああ、奥さんいないんだって」
また別の主婦に聞いた。
「奥さんと子供いなくて若い独身の人と同じ買い方してるんだって」
別の主婦も言った。
「うーん、少しずつ野菜を必要なだけ取っていく感じかしら。あらかじめ買う物を綿密に決めていったりかと言って衝動買いでもな典型的独身男性かしら。ただたしかにこの年で結婚しないで主婦の間に混ざってると確かに目立つわね。ほら、確かに何で結婚してないんだろうみたいな気持ちがあるから。挙動は特に怪しいと言う事もなかったですね」
3人はその後防犯カメラを隅々までチェックし、何か手がかりになるものはないか、一見意味がなさそうな物でも着目し調べようとした。
そして推理につなげた。
もしや、スーパーでその問題のだれか重要人物と会っている可能性も無きにしあらずだった。
小倉が指摘する。
「野菜売り場で松本さんが色々買おうとしてますが・・ここ、玉ねぎと人参とじゃがいも、アスパラガスを買おうとしてやめたりパセリを買ったりピーマンは迷ったり」
北条がいう。
「慣れているようで慣れていない目付きと動きですね」
「きょろきょろしてる」
小倉は言う。
「物色をしてる感じでもないしきょろきょろと落ちついているわけでもない。姿勢の悪さや目付きの悪さ動きの悪さ、手の動きかたや顔がどっちを向いてるかなども入りますね」
友里花も言った。
「あと周りを伺ったり、人が見てないかチェックしたり。その日なにかばくぜんと決めてから目についたものをとり、かつ栄養のバランスを考えたりしながら、みたいだったわ」
北条は社員に聞いた。
「それでは少し物騒な話になりますが、この方が数日前刃物のような凶器になるものを買ったりしませんでしたか?」
「いいえ」
「では店員とトラブルを起こしたりとか」
「いえ全然ないです」
北条は三上に言った。
「もう少しあの圭子が誰なのかと言う情報があれば」
「あの圭子と言う女性の事を聞くチャンスがあったのは僕ぐらいだった」
「そこがすごくポイントなんです。今の所手がかりの中で」
「女性と付き合っていたお話とかはありませんでしたか?」
「いえ、ろくに聞いてません」
三上は申し訳なさそうだった。
なんとなく空気が悪くなった突破口として、小倉はポイントを突いた。
「もし何か特別な事をしようとする計画があったら食欲がなくなり買う物も減るんじゃないですか?」
「あっそういえばそうだ。それに食欲だけでなく変な事を考えていたらそれがばれているんじゃないかみたいな気まずさから挙動があやしくなったりしますよ」
友里花は三上に聞いた。
「もしかして結婚してたりします?過去も」
「女性の話はしません。かまをかけようかと思ってましたが」
「スーパーの人は松本さんを不器用そうって言ってた。怪しいとは思われてない。不器用な人は良い人が多いわ」
小倉が三上に聞いた。
「パチンコは良くやられるんですか?」
「趣味だと言ってました」
その言い方に小倉は気づいた。
「ほう、趣味とはっきり仰るんですね。かなり好きだと言う事でしょう」
「女性の事は話さないのに。ギャンブル好きには見えないんですがね。」
パチンコはお1人で行くんですね?」
「恐らくは・・」
「地元に知り合いがいたら誘って言ったりしますかね?」
「わからないです。あまり大人になると誘わないですかね。学生時代ならですけど。私も誘わないですな地元の友人は」
次はパチンコ屋に行く事になった。
駅に面した隣にディスカウントストアと駐車場がある開けた場所だった。
開店をまつ客が長い列をなしている時間は過ぎていた。
まずごった返した店内を通り店長室に行った。今探すと不審者だと迷惑がられるからだった。
「店長の奥井です」
「店長さんですか、私たちはこういうものでして」
北条は名刺を手渡した。
「失踪事件ですか」
「はい、ぜひこのお店の方々にご協力いただきたく、聞き込み及び最近の防犯カメラを見せて頂きたいのです」
「わかりました」