菅原と江坂
北条と友里花は再度菅原チーフの部屋に行った。
「お忙しい中、失礼します」
「ああ、これはどうも」
落ちついた表情をしようとしても取り繕うのが難しそうな表情だった。
「事件が起きて心が混乱されているとは存じますが、いくつかお伺いしたい点がございます」
「はい」
菅原は少し怯えていた。何を聞かれるかわからない戦々恐々とした顔をした。探偵業なら聞き込みの際にこういった表情をされるのはよくある事であり、扱い方も心得ていた。
「チーフのあなたにはこのお屋敷の全体像がお分かりな部分があると思いますので」
「ええ」
北条は温和に聞いたが菅原は自分が疑われているのではと言う警戒心から少し引きつった怪訝な顔をした。北条はその心をほぐしどうにか手がかりをつかみたかった。そのためにはどう切り出せばいいか考えた。
「江坂さんは普段、どんな感じでしたか?お分かりになる範囲で結構です」
まず、殺人事件と言うより江坂の印象からにした。同時に内心皆がどう思っているのか手がかりをつかみたかった。菅原は少し怖がり躊躇しながら落ち着いて答えようと努力した。
「はい、非常に真面目で一生懸命に仕事をしていました。ただ少し疲れがたまっているような様子でした。しかしつらさを見せまいと元気に振る舞っていました」
「ほう」
北条は菅原の素直な感想を聞き信じようと思った。さらに菅原は江坂に好印象を持っている事を裏付ける証言を続けた。
「かなり忙しく激務でもあると思います。アルバイトが休みのときなど仕事が増えますから、それでもよく頑張ってくれていましたが。時々ふらりと倒れそうになったり、すこしぼうっとする事もありました」
「そうですか」
まず仕事時の事を聞くことにより緊張を和らげようとした。たしかにその甲斐あり菅原の話し方に自然さが戻った。まず事件当日のアリバイよりもこういった日常の話の方が気持ちはほぐれるはずだった。
「もしかしてプライベートで疲れている事等があるのかと聞いてみましたが「きつくありません」と言うだけでした。私には彼女が同僚たちに何か悩みを話したか等は知りません」
北条たちは江坂の「プライベートな悩み」と言う方に関心が移った。ぜひそこを掘り下げて聞きたい気持ちになった。少しだけ質問の鋭さを上げてみた。
「何かプライベートで疲れのたまるような問題を抱えているのではないかとそう見えたのですね」
菅原は当時江坂の様子をくみ取れなかった事を悩んでいたようだった。
「はい、忙しいのはわかりますが、ふと彼女は何かを気にするような、遠くを見るような様子を見た事があります」
「なるほど、チーフ自らお聞きになった事はないと言う事ですが、同僚の方に聞けば何か
分かるかもしれません」
友里花は話を広げた。
「すみません、把握していなくて……そうだな……後は少し同僚と言いあいをしているのを見かけました。私からは何も言いませんでしたが、主任の田中が止めたりしたそうです」
続いて「同僚」と言う言葉が気になり、そこを掘り下げようとした。
「その同僚の方は」
「ええ、1人は増田さん、もう一人は三崎さんと言う女性です」
少し言いにくそうだった。それは社員同士の仲がわるいと言う話になるとさらに身内内での事件であると言う疑いが強まるからなのかもしれない。
「三崎さんですね。わかりました」
「色々な人に事情を聞くのですか」
やはりその事に不安を感じているようだった。友里花は安心させようとしながらも安心する事は出来ない事を理解させようとした。まだ菅原はハラハラしている。身内内事件の印象が強くなる、そして自分も疑われるのではと言う事に恐れを感じているようだった。
「はい。状況が状況ですから。気が気でないご心境とは思いますがさらにチーフにもお聞きしたいことがあります」
「やはりそうですか」
菅原は「やはりそちらが主題だったか」と言うような嫌な気持ちと恐れを同時に顔に出した。その1瞬の表情変化を北条は感じ取り攻め方、接し方を即座に考えた。そして誰にも避けて通れない話題を切り出した
「昨日の8時頃何をされていましたか?」




