増田への聞き込み
「どのくらい話しますか?」
「1日数人、1人3、4分程です。ただやはり私もある程度上司としてなんでも話す雰囲気にはしません。部下との距離はある程度必要ですからね」
「他には何の仕事をされていますか?」
「予定と時間の管理、人の配置、細部指示書、現場全体式です。クレームにも対応します」
少し仕事の事から流れを変えようとした。
「先ほど部下の方と話されるとおっしゃいましたが、皆さんの悩みなどをお聞きする事はありましたか? 江坂さんがなにかトラブルや悩みを抱えてそうには見えましたか?」
菅原は顔をしかめて下を向いた。少し後悔の念もあったようだ。
「いいえ、私の目の届く範囲ではなかったですね。相談も受けなかったし。もしかしたらなにか話したい事があったのかもしれない。そういう話しやすい雰囲気に出来なかった私が悪いのかもしれない」
今まであまり江坂たちの話を聞いてやれなかった事をくいているようだった。少し拳が震えている。無理もない、人が死んだのだ。
「菅原チーフはいつも誰とよく話しますか?」
「主任の田中ですか」
「江坂さんにお金を渡している上司の人がいると」
少し様子が変わり目に怒りを込めながら驚いた。
「そ、そんな全くでたらめですよ」
「では次は主任さんにききますか。」
「そもそも江坂さんが殺された理由はなんですかね?愛や憎しみ?それともお金のトラブル?」
「この現場はお金の不正が多そうだから」
「いえ、増田さんの様子を見ましょう」
増田の部屋の前でインターホンを押した。
「増田さん、どうも、この度はたいへんだったそうで」
「北条さん」
不安な表情で出迎えた増田を気遣い紳士的に言った。
「ショックがまだいえてない所恐縮ですが、いくつかお話を伺いたいのですが」
「いいですよ」
不安と皮肉っぽい表情が入り混じっていた。増田は北条たちを部屋に入れた。カーテンをおもむろに閉め、お茶を出そうとした。
「お気遣いなく」
と北条は丁寧に増田をきづかった。お茶がこきざみに震えた。テーブルにゆっくりと落ち着いて増田はわざと試すように言った。その言葉があからさまだと知っていた。
「私が犯人だと疑ってるんですか」
はっきりとした言葉であった。膝に置いた増田の手は怒りか恐怖からか小刻みに震えていた。
「いいえ、それはこれから調べる事です」
と北条は努めて安心させるように話しかけた。再度安心させるため行った。小倉は続ける。
「改めてこの度は大変でしたね」
「……」
増田は当然の事を聞かれた気持ちだった。
「まだショックは消えないようですね」
温和な口調で北条は続け出来る限り安心感を与えようとした。心なしか増田の表情が少しずつ柔和さを取り戻した。そして突然意を決して前に乗りだし訴えた
「みんな、私を疑っているみたいで……」
増田が手を震わせるのを何とか北条は抑えようとした。
「いいえ、そんなことはありません」
「どうせ、そう思われているんです」
北条たちが言い返せなくなった時増田はより一層体を震わせ切り出した。
「私、第一発見者だけど違うんです! 誰かが私に凶器を持たせて!私が気づいたら目の前に亡くなった江坂さんがいたんです」
「はい、貴方が犯人と判断するには不審な点が大きい。そのためお話を聞きに来たのです。「そうなのですか。では気を失う前の事を覚えていらっしゃいますか?」
「ええ、いきなり、たしか廊下を歩いていたら後ろから殴られたみたいなんです。それで気を失ったみたいで……」
「何回の廊下を移動中だったのですか」
「1階よ」
「1階、江坂さんの部屋と同じ階ですね」
「ええ」
「貴方は3階のトランプ会には参加しなかったのですか?」
「しなかったわ」
「では一階で何を?」
少しの沈黙の後、増田は意を決して話した。
「……実は、江坂さんの部屋で言い争いしてたの」
強い沈黙を誘引する言葉だった。
「何と……」
3人は呆然とした。これは北条も意表を突かれた。増田は何も申し開きをしなかった。
「でも喧嘩したのは事実よ。でも殺してなんかいない。それだけは言える!」
「ではそこでどんな話をしたのか。普段から江坂さんとどんな感じだったか聞かせて頂けませんか?」
北条はなぜか大きく増田に対し猜疑心が消えていた。誠意をもって聞こうとした。それに増田も心なしか答えようとした。悪びれがなかった。
増田は自信と正義感にあふれまっとうな主張をしている自信を持っていた。
「私は昔からよく人に正義感が強いって言われて、つい悪い事をしている人を見るとゆるせなくなっちゃうんです。それで江坂さんが主任と不正にお金をやりとりしてるって噂を何度も聞いて、その事を強く問い詰めたんです」
「それは東さんが話したんですか?」
「そうよ。東さんが最初に私に話したの。少し半信半疑だったけど」




