事件の概要
「よろしく」
北条はやはり丁寧にお辞儀をする。
その丁寧さは確かさと安心感を与えるのに十分だった。
しかし口を開いた時力強さと言う波が三上の身体を流れた。
初対面の客に対して十分な頼もしさを北条は与えた。
まず第一印象は成功した。
三上も答える。
「あっどうもはじめまして」
(優しげだけど、自信も感じる)
「そしてこちらが助手の猪瀬友里花、こちらは小倉俊介です」
「ようこそおいで下さいました」
2人は揃って挨拶した。
三上には北条はアメリカ映画のステッキを持った探偵に見えた。
親しみと信頼感と言う意味で。
(不思議な存在感があるな探偵って)
少しして三上は事務所で最も広いスペースである応接間に案内された。
椅子に座り、反対側には北条がすわった。
友里花はコーヒーを出した。
小さな客用テーブルにカレンダーと灰皿が置いてある。
「三上さまようこそ、今日はどの様なご用件で」
北条は柔和な瞳で話しやすい口調かつやわらかい口元で形と雰囲気を作り、かつ親身に聞こうとする姿勢がありぐいと前に上体を出してきた。
三上は改めて襟をただし、少し緊張をほぐすようにやや背中を丸めてひざにてをおいて深呼吸した。
北条を信頼していた。
「失踪事件について調べたいのですが」
「わかりました。。では詳しく話をお伺いします」
北条はファイルと書類を用意した。
北条はきり出した。相手の身に立とうと言う誠意が感じられる。
「失踪と言う事ですが」
「ええ、実は2日前に会社の同僚が失踪しまして、その人の捜索依頼をしに来ました」
落ち着き柔和で話しやすい雰囲気ながらも興味を見せて顔を前に出してきた。
「失踪事件ですね。これは気が気ではない。その方が急に会社に来なくなったんですか?会社からいなくなったわけではないのですね」
これは気が気ではない、の部分の言い方が伸びたような言い方で親身になっているのが伝わってきた。
それに三上は必要最低限の答えをしようと思った。
不必要な事にまで言及すると返って誠意がないと思われそうだったからだった。
「はい欠勤です、2日前から。連絡なしで」
「三上さまは会社の同じ部署の方ですか。その方といつも仕事を一緒にしている」
「金曜日に無断欠勤をしまして、連絡しても出ません。その為月曜日に彼の家に行きましたがすでにいず、火曜日の今日ここに来ました」
「なるほど、木曜日までは来ていたと」
「はい、チームも同じで毎日仕事をし会話も良くしています。直属の上司にあたります。そこで同じチームであり一番若い僕が代表して家に行き様子を見に行ったのですが、家にはいません」
「わかりました。ではその方の事及び事の細部までお聞かせ下さい。失踪のケースではいくつか調べる事があります。その人の当日の予定、最近の様子や人間関係、体調や病気。そして」
「そして?」
「失礼ですが何かの事件に関わっているかです」
話し方は柔和であるがその1言は緊張感を出すのに十分であった。三上は少し汗をかき身上書を出した。
北条はじっと書類を見た
「松本敬三さんですね。ご職業は不動産の」
「はい」
三上は先日を思い出した。
三上は会社を代表して松本のマンションの部屋に来た。ノックをしてからブザーをおして待ったが反応がない。
すこしして「松本さん」と呼びかけてみた。そこで管理人らしき女性が来た。
「ああ、松本さんの会社の者ですが」
「何かありましたか?」
「会社を欠勤してまして様子を見に来たのです」
「今日は御姿は見ませんでしたね」
会社に戻った三上に上司は指示した。
「彼が職場で悩んでいたようにはわれわれには見えん。もし悩んでいたのに気付かなかったら我々の管理責任を問われる。上は色々ああなんじゃないかこうなんじゃないかと言う物だ。パワハラやいじめ、長時間労働があったんじゃないかとか。それともっとまずいのは何か事件に巻き込まれたりしている事だ。もちろん彼が被害者だと言う意味だが。私は松本君が犯罪を起こすなんて言ってないよくれぐれも。だが・」
「だが?」
「実はな、取引先の社長の家に不法侵入者がいたんだ」
「犯人はまだわからないんですか」
「わからん。だが松本君がまさかもしや関係している何て事になったら、いやもしやだよ。仮定だ仮定」
(取引先の社長・・)
三上は回想をやめ北条と本筋の話を続けた。
「はい、私の会社のケーダブルピーの社員、年齢は42歳です。2年前に入社しました。その方が月曜日から会社にこなくなり、私がマンションに行った所呼んでも反応がありません。その為探偵社に正式に依頼する事になったのです。まだ警察には伝えておりません。何故なら警察の捜査が入ると会社が松本さんに何かしたのではと思われたり従業員に関係者がいるのではと言う推測が及び会社のイメージがダウンするのです。ですから出来る限り警察には公表せず速やかに松本さんの居場所を知りたいのです」