豪邸内
呼ばれて行った塚田の家は大豪邸だった。さすがに腰が引けた。
「おお、よくぞいらっしやいました。私が高田製紙社長塚田です。そちらの方はもしかして」
「はい三上でございます。いつも大変お世話になっております。お目にかかれて恐縮です」
「いやいや、貴方の様な誠実な顧客に出会えて私も光栄だよ。今日は北条先生と一緒に捜査に?」
「そんな! 大それたものではありません。ただ微力ながら一助になればと」
「三上さんのご指摘はなかなか鋭いのです」
塚田は切り出した。
「では本題にうつらさせていただきます。実は先週私の家つまりこの家に夜中に侵入者が入りました。幸い何も取られてなかったのですが、逆にそれが不安で命を狙われているのではと言う恐怖があります。そこで北条先生の手で犯人を見つけ捕えてほしいのです」
「わかりました。ではさらに詳しいお話をお聞かせ願いますか?」
「急に夜中に家に仕掛けられた防犯ランプが鳴った。そこで妻も子供も使用人も飛び起きおそるおそる邸内を探したが見つからず、あっと言う間に逃げられてしまった。なかなかすばしこい奴だったらしい。また犯人は複数の可能性がある」
「何か心当たりは」
「ないねえ。何も」
「恨みを買うような事は」
「な、し、失礼だなぶしつけに」
「これは失礼、しかし犯罪と言う物は単にお金だけが目当てではありません。例えばお金が目的ではなくあなたから何かを奪い困らせようとする趣旨かも」
「そ、そんな、あれは絶対にお金をうばおうと。私が恨みを買う事等、な、なきにしもあらずだが。」
「最近何かありましたか」
「わしも立場上色々あるよ。各方面にわしを嫌っている人間はいるかもしれん。しかし家に入ったり命を狙われるような事は断じて」
小倉は小声で耳打ちした。
「まあまあこれ以上いいますと挑発しているようになってしまいます。あまり最初から関係がおかしくなると……」
友里花は前に出た。
「この度は失礼をいたしました。いきなりそんなことをお聞きして」
友里花の好感度の高い笑顔に塚田はにやりとし顔がほころんだ。
「あ、いや気にはしとらんよ。綺麗な御嬢さんだね」
なんとなく場がほころんだ。小倉が友里花に耳打ちした。
「ナイスですよ」
「うん、この位」
「それでは早速だが屋敷の中を全て回って見てもらいます。私も一緒に行きます。その後は従業員の紹介をします。ではスタッフを全て紹介する。まずは執事の里中君」
「よろしく」
白いひげのある執事が礼儀正しく礼をした。緑のタキシードに身を包んだ熟年の紳士と言う感じで礼儀作法が叩き込まれ年を増すごとにそれが成熟して行った感じだ。目付きは塚田への強い忠誠心が感じられ、姿勢は1cmたりとも崩さない。
一行は廊下へ移動した。
「きれいな廊下」
見回しながら友里花は感心した。小倉は
「どんなお客さんがきてもこれならどうどうと迎えられそうだ」
「仕事が1流の人は住まいにも気を使うといいます」
「僕がさがしてもほこり1つ見つけられなさそうだ」
そして塚田は言った。
「ではスタッフ室に移動しよう」
1階の廊下をわたりスタッフ室と呼ばれる会議室に移動した。塚田がノックすると「はい」と声が聞こえたので塚田が「私、だ」と答えた。
そこには4人の男が座っていた。皆緊張を込め立ち上がった。北条の方を見ている。
「紹介しよう。探偵の北条さんだ」
「よろしく」
塚田は丁寧に北条を紹介した。皆一斉に北条に向けて挨拶をした。続いて塚田はそのうちの1人を指した。
「まず、チーフの菅原君。」
紹介された男は背はすごく高いわけではないがスポーツをしていたような跡のあるがっちりした体格、顎が硬そうで口元にしわが寄った、誠実さと豪快さを併せ持ったような顔である。部下に大きな声でエールを送りそうなイメージで朝礼での朝の挨拶の声が大きそうだ。
「そして主任の田中君」
38歳ほどの少し背は小さ目で細め、四角い顔に眼鏡をかけ髪は7,3分けである。ちょうどスーパーや飲食店の店長と言うイメージがふさわしい。
「垣山君」
「鳴滝君」
「では次にコック室だ」
そこから階段を下りたりいくつかの扉をくぐり、道も忘れた中コック室に移動した。
「料理長の菅君」
紳士的ではあるもののいかにも飲食界のチーフと言った威圧感を出している30代の男だった。
「速水君」
「赤井君」
非常に小柄で線の細い男だった。
「小西君」
続いて別の仕事場に移る事になった。そこでは女性が多く腰掛け、反省会のような会議が開かれている。壁には「マナー〇条」と書かれた張り紙がしてあった。
「では次は女性の給士たちだ。順に紹介して行こう」
女性給士は全部で7人いた。左端の女性から紹介する事になった。
「増田君」
増田文子、意思が強そうで、自分のやる事に強い責任感を持っていそうな女性だった。
「江坂君」
まだ新人的な慣れてない雰囲気の様でそれをカバーするやる気を秘めていそうなそれでいて目つきはおっとりした雰囲気の女性だった。少し汗を書いているようにも見え心なしか顔色は悪かった。無理をしていそうな雰囲気だった。
「見城君」
「沢松君」
「武井君」
「三崎君」
最後に紹介された女性は背が高くすらりとしたスタイル、なめらかな肌に覆われたしなやかな腕、きっちりした顎と大きな唇、気の強そうな性格を表現した目、長くさらりとした髪が個性を形作っている女性だった。どこか全身に上品さが感じられる。
そして最後に北条たちは宿泊するための部屋に連れてこられた。そこは3階の他の客室もならぶ部屋であり、部屋がカードキー対応になっている。
北条と小倉は同部屋。友里花は別部屋だった。高級ホテルの一室のような広くよく掃除された清潔かつ豪華なへやであった。棚も高級品でありベットシーツや枕カバーも質の良いものが良く整えられつけられていた。丁度いい大きさのテーブルを挟んですわり心地の良さそうな椅子がそのまま夜を語り明かせそうな雰囲気に配置されていた。さっきまで盗難事件の事を考えたり初対面の相手に挨拶してきた緊張感からようやく解放されたようだった。




