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探偵事務所の出会い

 深夜、豪邸の警報が鳴り響いた。


「待てっ!」


 侵入者に気づいた警備員が追いかけようとし、深夜パニックで起きた使用人たちは電話で通報した。

しかし全身黒づくめの男たちは上手く目を逃れ逃げてしまった。

警備員は被害を確認した。


「金塊置き場が荒らされているが、気づかれて盗みそこなったんだろう」

「今度は必ず捕まえてやる」

「いい探偵がいれば相談できるんだが」



 そして場所は変わり、ここは全く別の場所の朝の8時、大勢の人たちには出勤の時間である。

 その探偵事務所に着くため、その真面目な25才ほどの青年は今日ここへ来た。

会社を休んで来た。


 そう、会社に来なくなった同僚を探すため。

それが目的である。


 さらには彼が大きな事件と関わっていないか。

そんな一抹の不安げな思いを胸に青年が探し求めてきた事務所は大都会、新宿にあった。



 自宅から新宿まで約1時間。

乗り換えは1回。

JRの池袋方面列車からホームに降りる。

もちろんラッシュの最ピーク時間、場所と言っていい。


 さらに押し寄せる人波に混ざり地下に繋がる階段をおりるとそこは立ち食いソバやカレー屋など飲食店も建ち並ぶ、

他の沿線への乗り換えも多い場所に着く。

デパートの地下階にも繋がる長い道を行く事になる。


 そこを抜け複数の地上への出口を擁する、

初めてだと混乱する人もいるだろうと思われる西口の階段出口。


 中央東口は、その正反対の場所に位置する大型カメラ屋も多い地上につながる道を出て徒歩5分。



 地上に出ればそこは都会を形成する覆う風か波のように群れをなし建ち並ぶ空まで届きそうな数十階建ての大量のビル。

その群を抜け進む。



 その後、群れの高さが少し落ち着き始めた場所に30階50階の大企業ビルには少し及ばない、隠れて位置する、巨大な要塞群を抜けた場所の集落のような、やや小さいビルの4階に事務所は位置していた。


 

 そう、ここはまさに産業都市・都会の真ん中である。

ビルが無機質な風景を作り出している。

窓は都会を映す鏡だ。



 日本経済の一端を担う都市だ。

そこにいる人は窓やガラスの鏡に映し出される。

無機質な風景に人間と言う生命の彩りを加える人の波も非常に多い。



 途中で会う道行く人たちが皆職場へ向かっているであろう状況で今日自分だけは事情が違った。

気持ちもである。

青年は少し頭をもたげた。


 どんよりとした不安が心の中から顔を覗かせた。


 そして青年はやっとたどりついた事務所を前にし襟を正した。

緊張の面持ちだった。

息を吸い意を決し

「ごめん下さい」

と青年が「北条探偵事務所」と表札に書かれた建物のインターホンを押した。

人生初の経験と言ってよい。



 青年は三上と言った。



「はーい。」



 と言う清流のように澄み切った女性の声が聞こえた。

心が癒される印象を青年は受けると同時に彼女の容姿まで想像が及びそうな、澄んだ川の水の様な声が響くのを聞いた。


 さわやかさとしとやかさをあわせもつ女性である事が何となく想像できる。

三上の心の中で、

(どんな人だろう、早く建物に入りたくなる)

そう思わせるような声だった。


 三上は少しだけドキドキした。

同時に来てよかったとも思っていた。

 

 なにせ三上は少し前まであまり良い気分はしなかった。

何故なら自分の身の周りで起きたある事件の調査依頼をしに来たからだ。

彼は警察を呼んだり交番に行ったことはなかった。


 三上は割合、人生でそういったトラブル遭遇率は低いだろう。

やはり何となく良い気持ちはしなかった。


 普通に平和に生きている人間ならそう考えて当然だろう。

 

 緊張しているのは自分が想像もつかない大きな事件に巻き込まれているのではないかと言う不安からだった。

無理もない、彼もその事件はニュースで似たようなものは見たことはあっても不気味だった。

上司や同僚からも頼まれて来ているのだ。



 三上は年齢は25歳、紺の背広を着ておりそれとぴったり合う細い体がスーツを引き立てている。



 きちんとしたビジネスマンらしく髪の毛がきっちり固くまとめられており、他の部分の身だしなみも清潔である。

寒さに吐くため息が白いガスとなり哀愁をただよわせた。



 彼が朝満員電車でつり革につかまりながら吐き出す息と同じものだ。



 なぜなら会社にいくのも会社に頼まれ探偵事務所にいくのも同じような気持ちだからだ。



 ほこりは服にはついていない。

しかし顔には労働の疲れとストレスで若いながら少々のしわもあり年季と言うより人生を感じさせる。



 事実本人も疲れはたまっていた。

ある意味今日の休みは良かったと言える。


(おっと、休みに来たんじゃない)

と思う所が彼の長所たりえる真面目さである。

さしずめどこか大手の銀行員が出向してきた様な髪型と顔立ちだ。

東京駅で働いていてもおかしくない。


 しかし一方で三上は堂々と胸を張ってはいなかった。

張れなかった。

なぜなら自分が今抱えている不安事のためであった。


 なにせ自分の会社が起こした事件である。

その代表としての使命を負って来たのだ。

名誉のためにも早く解決してほしい、世間に恥ずかしい気持ちがあった。


 そんなことを考えながら待機していていると女子大生位の少女が笑顔で扉を開けた。

彼女が声の主らしい。

もちろん女子大生ではなく社会人だが。


「いらっしゃいませ」

さすがの真面目な三上も、出てきた女性の麗しい外見には驚いた。

扉を開けるだけで丁寧さがにじみ出る仕草と細さと丸みの混ざったお辞儀のラインには気を動かされるのに十分な魅力を出していた。


 しかし何といっても彼女の魅力は髪にあった。

髪が作り出す美しい頭のラインから胸から腰辺りまで伸びる髪が魅力的だった。


 サラサラなブロンドのロングヘアー、しかも1本1本が竪琴の糸を思わせる細さと光がある。

それが顔情報のプロポーションを形作っている。

三上にはヘアスタイル、髪の流れが一種芸術に見えた。


 それに加えて透明感のある肌、スーツの下は白いシャツを着ている。

硬いはずのビジネス姿がなぜか柔らかさを感じさせた。



 目が光を反射した水晶を思わせた。

口元もりりしさと知性、きめ細かい感性を感じさせる。

むくみのない頬にみずみずしさがある。



「9時にご面会の三上様ですね。」

(この子は探偵じゃないんだ。そりゃ、若すぎるか。)



 三上は少々緊張し、反射的に改まって大げさなほどに背筋をのばし、再度改めて今回の目的を説明した。

無意識にネクタイを直そうとした。

またこれも無意識に大きな早口になっていた。

「ええ、本日は北条先生にお目にかかりたく参りました」

女性は柔和な表情で対応した。

手の動きが穏やかでしなやかだった。


「そうですか。どうぞお入り下さい。私は助手です」

(本当、感じのいい子だな)


 そこへもう1人奥から突然、不器用そうな青年が遅れて現れた。

廊下を走る音が聞こえる。

その後すこしどたどたした落ち着きのなさがある。 



 三上を待っていましたと言うより急な来客に慌てたような感じだった。

大学を出たばかりの新人にある爽やかさと若さ、温和さを併せ持っていながらミスなくやるべき事はこなしそうなそんな印象の青年だった。


 青年は忙しいからなのか少し額に汗をかいている。

少女とは言うのは失礼な女性の助手と違う雰囲気、悪く言えば汗臭い男っぽい雰囲気の人物に戸惑った。


 とはいえ、実際青年は太っているわけでもなく汗臭いわけでもない、体育系ではない。

ただ比較対象として女性がまぶしすぎただけだ。


 しかし青年は細型とはいえ肩は結構硬い、さしずめ何かスポーツをしていたようなスーツの下のしまりも感じる。

また意外と汗をかいて屋外でやる仕事が似合いそうな感もある。


「ようこそいらっしゃいました。ど、どうも僕も助手です。小倉と言います。」

少し緊張が隠せない23歳ほどの若者だった。


 大学を出てまだこの仕事に慣れていなさそうだ。

髪型はきっちり固めていても顔がややこわばり不器用さがみてとれる彼をフォローするように女性助手が入り対応した。



「こちらへどうぞ」

と三上は案内され、中央に位置する接客ゾーンに案内された。

三上は少し緊張気味にソファーに腰かける事になった。

(若い助手さんたちは良い人そうで好感が高い。先生はどうなんだろうか。)

「先生! お見えです」


 三上は安心しつつもどんな探偵なのかと少しだけ身構えた気持ちになった。もちろん腕が良くなければこまる。


 いやそれ以上に真剣に取り組んでくれるかだ。

そして相手の気持ちを考えてくれるかだった。

会社が依頼金を出している、そしてその代表を任されているのだ。

自分の信用にかかわる。



 少しして奥の部屋に待機していた。

42歳くらいの男が現れた。

その男は「まさしく探偵だ」と言う印象を抱かせた。


TVドラマの探偵は何かしら癖の様な物があるが、そういった雰囲気が体から伝わってくる。


 確かに少しだけ疲れたどこかのんびりした中年だが、そこがやはり普通の人と違うのだと印象がある。

「度量と度胸がある」


 直前まで忙しいワークをして即座にスイッチを切り替えてきた感じのある切り替えの早い切れそうな男と言う印象を受けた。

その反面歩き方はのんびりした雰囲気もあり腰の低さが見て取れた。

肩が意外にがっちりしているため、腰の低さが上手い具合にイメージの中で混ざりあい、頼もしさと上品さをスタイルで両立している。そこには中年の脂っこい感じはない。


 エレガント、とという言葉ではたりない、温和な気品が背筋をぴんと伸ばしている。


 彼が探偵なのだろうか、と三上は楽しみな気持ちになった。

この胸のつかえとなっている事件をこの探偵が解決してくれるのか。と期待に胸は高鳴った。


 頭髪は根元から立てられている感じで毛は多く見えるものの、額が大きく広く、広い額に人の良さも感じられる。

頭の広い人には失礼と感じても。

ひげはしっかりそられている。

自信ありげで弁舌が立ちそうな口元に柔和さが感じられた。

「ようこそいらっしゃいました」


 自信ありげなその細身の中年探偵は思ったよりも腰が低くへりくだっていて礼儀正しかった。


 目は凛としていながら穏やかさを兼ね備えている、と言うのが三上の受けた印象だった。


中年太りがなく節制が出来ていそうだ。



 背は178かそれ以上あり、一見相手上から見下ろしているように感じるがそうではない。


 確かに客を相手にする紳士らしさがある。

それは商売人とはまた違う。


 探偵としてのプライドか口元が少し自信ありげなかんじだった、と言うよりも職業柄弁が立たなければならない、その思いから自然と自信のようなものが溢れるのかもしれない。


 しっかり直立した体にグレーのスーツと黄色柄のネクタイをしめ、髪は横わけだがボリュームがあった。


 40代にしてはかなりスタイリッシュと言っていい。

彼は温和かつはっきりした口調で言った。

にこやかな顔つきと安心感を与える意味での自信が三上を安心させた。


「ここの事務所所長、北条と申します。どうぞよろしく」


「探偵とはどんな人種か」


 来るまで三上は疑問があった。

しかしそれが解けると同時に探偵が皆北条の様なのではない。北条が1人の人間として存在感と魅力を出している。そんな感じに伝わった



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