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第一章 第二話 反省文

大雪次の日の学校。寝坊した尚紀は反省文を書かされる羽目になる。だが、そんな彼のもとに一人の少女が現れる。一緒に帰るように誘われ、緊張する尚紀。そんな中、彼女から意外な宣言が発せられる。

ーージリリリ...

「ん、んん」

やかましい目覚まし時計を黙らせた直後、尚紀は驚きのあまり布団から飛び出した。

「うわああ、もう八時じゃねぇか」

彼の中学はよほどの理由がないかぎり、八時二十五分までに登校しなければ遅刻扱いとなる。今月すでに一回遅刻している尚紀はもし今日も遅れた場合、生徒会憲章の取り決めから反省文の刑になる。本当にこの遅刻癖はなんとかしてほしいものだ。

どうにも薄暗い天気が続いていたが、不幸中の幸いか今日は窓の外が明るい。昨日の大雪が嘘のようにからっと晴れ、雪が解け始めているのが見て取れる。

ーーこれなら猛ダッシュで行けるな。

尚紀は支度を済ませるとすぐに家を飛び出した。通勤前のお隣さんをはじめ、すれ違う人の多くは週明けの朝ということもあり、スーツ姿だ。一人、制カバンを背負い、必死に学校へ向かう姿は周りからすると滑稽なものだった。

門が見えた。まだベルもなっていないのか、つぎつぎと走って門をくぐる生徒たちを、遅刻のチェックにきた教師は笑顔で迎えている。間に合ったと思い、歩いたのが大失敗。直後、チャイムがなり、門前の教師の顔つきが変わった。


尚紀の中学は全校生徒1300人以上と多く、放課後のクラブの咆哮や喝采が四階のラウンジまで聞こえてくる。人が反省文を書いているというのに、迷惑のものだ。

「クラブ行きてぇ」

尚紀は教師が職員会議に行った隙に逃げようかとも思ったが、彼にそんな勇気はなかった。すると、そんないたいけな少年のもとに一人の少女がやってきた。少年は突如やる気がみなぎってきたのだろうか、ペン先に羽が生えたように走り出す。

「まだ、反省文書いてるんだ。いつも目覚ましは七時半にセットしても起きないんだから三十分早くするように言ってるじゃない」

なつきは親のようなことを時々口にする。以前も体育の体操をいい加減にしていただけで文句を言ってきた。せっかくこんなにかわいい親なんだ。わがままで返さなければもったいない。

「早起きしたってどうせ授業寝ちまうんだから、意味ねぇよ」

「すぐそういうこと言う」

少女はその小顔を膨らませた。その顔をみるだけで尚紀は心の底から安堵する。気が付いたら不思議なことに反省文を書き終えていた。

「ああ、やっと終わった...んじゃ、教師んとこ出してくるわ」

「行ってらっしゃーい」

猫のように返事する声までも愛おしく、彼はこのままこのラウンジでいつまでも話していたかったが、そうにもいかないのが残念だった。


居眠りする教務部の女教師を残して、他の教師は職員会議中。職員室はがらがらだ。

投げやりな反省文を担任の教卓に置くと、見つかると厄介なのですぐさま部屋を後にした。

「帰るか」

一人で寂しくカバンを迎えにいく足取りは行きのときより何倍も重く感じた。

そんな尚紀だったが、廊下の奥でずっと待っててくれていたらしい少女をみると枷が外れたように足に力が込もった。

「なつき、わざわざ待っててくれたのか」

「ご主人様にほったらかしにされた財布とかカバンたちを見守ってあげただけ。ものは大切にしなきゃいけないでしょ?」

本当に母親のように諭してくるが、持てる印象が全く違う。あんな口うるさいだけのババアとは天と地ほどの差だ。

そんな天使様に見とれていると、思わぬお誘いに耳を疑った。

「今日はさ、一緒に帰らない?」

ーーまじか...

尚紀は一人心の中で歓喜の宴を始めた。


ーー心頭滅却、心頭滅却...

雪解け水が光輝く帰路のなかを、尚紀は関節以外を金縛りされたようにぎこちない歩き方で隣の少女の声を聞き続けている。せっかくの大チャンスだというのに情けないものだ。

「ショーくんってまだ野球部続けてるの?」

ーーここで一番ふってほしくない話題を...

尚紀は既に野球部での地位は補欠同然となっている。幽霊部員になってから練習にも一切参加せず、昔、レギュラーの憧れ、ファーストで声を張り上げていたころが懐かしい。ラウンジでも言っていたように、時々その寂しさを紛らわせるために、部員っぽいことを口にしてしまうのもまた恥ずかしい。

「いや、もう特に活動は参加してないんだ。野球部行ってもグラウンドを平らにすることしか役目はないし、行っても意味ないんだよ」

「そうなんだ、言いにくいこと言わせてごめんね」

申し訳なさげになる少女の声を聞き、尚紀は心の底から自分を呪ったが、その前にこの暗くなった雰囲気をどうにかすることに頭をフル回転させる。

「ところでさ、お前は高校どこに行くつもりなんだよ」

雰囲気を明るくするために持ち出した話題が進路についてとは...さらに暗くなりそうだ。

「そういうショーくんのほうこそどこ行くか先に教えてよ」

だが、少女はなにか考えでもあるのか、どこか違和感を覚える笑顔を浮かべ、同じ質問を返してきた。

「俺は頑張って近くの進学校に行きたいな。今ある選択肢のなかで一番を決めるとしたら、上井高かな?」

上井高校とはこの近所では成績の面では有名な進学校である。近年、旧帝国大学への進学率も少しずつ上がってきているらしい。

すると、少女はそんな俺の考えを聞いて納得したようにこう返した。

「ふーん、いい志だね。じゃあ、私も着いていこっかな」

尚紀は少女のまさかの一言に耳を疑ってしまった。まぁ、想い人に自分と同じ高校に行きたいなんて言われると、こうなるのも、仕方がない。すると、尚紀は自分にかけられていた金縛りはもう解かれていたことに今さらながら気づいた。やっぱりこの子は天使なのだ。

「本気か?はっきり言って今の西ヶ丘中のレベルだと行けてもせいぜい15人くらいだぞ」

これは確かなことだ。成績上位者が集う上井の入試を勝ち抜ける人数は現状極めて少ない。成績に関しては基本一桁順位の尚紀も自分が受かれる可能性は五分五分だと思っているほどだ。ましてや、成績中の上程度のなつきには到底厳しい壁であることは間違いない。だが、

「なら、私今日から本気で勉強してその上井高校絶対入ってやる」

少女は自信に満ち溢れた顔で答えたが、尚紀にはこのとき、ただの妄言にしか聞こえていなかった。

「ま、お互い頑張ろうぜ。入学式で会えるといいな」

だが、尚紀は意気込む彼女にそんなことは言えず、つい応援するような言葉で返してしまった。

そうこう話しているうち、それぞれの帰り道が別れる交差点まで来ていた。尚紀は名残惜しさを堪えて別れを告げる。

「誘ってくれてありがとな。楽しかったよ」

「こちらこそ、着いてきてくれてありがと。またね」

少女は文字通り最高の笑顔で返してくれた。このときの少女が何を思っていたか、尚紀は全く知らないでいた。


「はぁ、今日も聞きそびれちゃったな」

少女は人気のない路地で一人そう呟いた。

Good Evening! NPC PROです。そろそろなつきちゃんとのイチャイチャシーンがないと寂しいかなと思い、書きました。リアルのぼくは女の子と全く無縁の中高一貫の男子校に通っているので書いてて悲しくなります(笑)この投稿頻度いつまでもつかな?これからも頑張って書いていくので応援よろしくお願いします。

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