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ヤンはつばを飲み込んだ。
久しぶりに、姉弟子の技を目の当たりにしたからだ。
彼女の得意技である合わせ技。
ヤンの師匠ですら、そして一度も手合わせで勝ったことがない兄弟子ですら、真似ができない、技。
彼女には一瞬さえあれば、十分だった。
僅かな間で、相手の懐に入り、仕留める。
たとえ、相手が必殺の秘剣を振りかざそうとしていたとしても。
無防備になった彼女に慢心したわけではないはずだ。
だが、道場破りが止めをさそうと力んだ、ほんの少しの時間で、フーは男の胸を突いたのだった。
***
男の胸を突いた竹刀は、根本から折れて床へ落ちた。
「…これで、終わりです」
荒げた息が、落ち着かない。
かけた声は仰向けから起きあがる男に向けられた。
道場破りは、よろよろと膝をつく彼女に近づく。
道場破りが差し出した手を、フーはつかもうとして。
「終わり、だと?」
男の手が、彼女の手首を掴み引き倒す。
「っ……」
床に引き倒された彼女の上にのしかかる身体。
「まだ、勝負も終わってはいない」
胸を突かれた痛みはまだ、収まらない。鼓動を続けるごとに、きしんだような痛みがつんざく。
勝負にかける執念が、男を突き動かしている。
のしかかられた彼女は逃げることもできない。
握りしめられた潰されそうな手首の痛みだけが、じんじんと熱を持つ。
「フー姉!」
ヤンの叫びもどうにもならない。
「真剣だったら死んでたが、生憎竹刀で死ぬような身体ではないんでね。恨むなら、真剣勝負に竹刀で挑もうとした、自分を恨むんだな、お嬢ちゃん」
「か…は…っ…」
二の腕に、血管が浮かぶ。
男はいまにも、細柳のような首を握りつぶそうとする。
フーの両足が、じたばたと動く。
木刀を握りしめるヤン。
ためらう理由は何もない。
こんなものはもはや、勝負ですらないのだから。