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刀を振り下ろしたとき、男は我が意を得たとでもいうように、唇を歪めた。
「俺の思ったとおりだ」
「関係の、ない…人を……巻き込ま…ないで、くだ…さい」
渾身の一振りを受け止めた、フーは息を弾ませる。
竹刀を横向きに傾け、先端と柄を両手で支える。
真剣が、市内の刀身に食い込ませながら。
(巻き込ますつもりはなかったよ。ガキ一人でも怪我させるうな真似をしたら、わざと時間を潰すような真似はしなくなるからな)
竹刀に食い込んだ刀身の腹を外す。刃こぼれはないようだ。
「俺だって、あんたが間に合うようにわざと時間を作ってやったんだぜ」
硬い表情の彼女を前に、男は訥々と言葉を紡ぐ。
「これでわかったろう? 俺を前に巫山戯たことしかできないと、こうなるとな」
「そうですね。なら、ちゃんとしましょうか?
その前に、子どもたちを…」
「それはできない相談だ。また、同じような真似に走ったら…わかってるだろうな?」
噛み合っていた二振りの得物を外して、男は彼女を見下ろす。
***
姉と慕う彼女が、まんまと男の策略に乗せられてしまったが、ヤンは声を変えることすらできなかった。
男は計画通りにいったことに、笑みを隠さない。
相対する距離は凶刃を振るおうとした前よりもずっと短い。
子どもたちを背にして、フーは後ろに引けない。
時間を使うことができなくなってしまった。
「…」
それでも、フーは竹刀を目の前に構えたまま動かない。
少しでも動くだけで、互いの剣先が触れるような距離であっても。
先に動いたのは、男。
先端をゆっくりとかき回すと、動きが変わった。
静まり返る道場内で、得物がかち合う音だけが聞こえる。
男が一方的に刀を振るい、彼女がそれを受け止める。
受け止めるだけで精一杯。押し返そうにも隙がない。
目と鼻の先にいる子どもたちが、迫力に呆然とする。
受け止めている間隔が、少しずつ狭まってくる。肘を軽く曲げて受け止めていたというのに、段々と肘が窮屈になっていく。
男は気持ちよく、剣戟を彼女に浴びせていく。
険しくなるフーの表情。
決着は時間の問題だった。
そして。
あっ…と、戦いを見守っていた皆が同じことを思う。
フーの竹刀が打ち合った刀に弾かれる。
胸を開いた格好の無防備な彼女に。
男は、間髪入れず、刀を振り上げた。
***
誰もが、決着が着いたと思った、そのときだった。
間をおかずに、床にたたきつけられるその姿。
距離を置き、仰向けに倒れた道場破り。
真っ二つに折れた竹刀。
真っ直ぐに付き出した両手をそのままに、ぜぇぜぇと息を弾ませる彼女は、膝を折った。