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道場破りは、違和感を抱いた。


殺す殺されるの戦いを繰り返し続け、その最中でも感じ得なかった奇妙なものだった。


あの時に、たしかに己と同じ臭いがした。


どんなに流しても、洗っても、こびりついた臭いはどうあがいても、馴染むもの。


同類の臭いを感じ取ったはずなのに。


目の前の女の構えには、そのような気配が綺麗さっぱり消えていた。


(俺の見立てが間違っていた、わけでもないんだがなぁ)


様子見も、少し経てばわかる。


どちらにせよ、殺し合いでははったりもあっさりとはがされてしまうものだ。


だが。


(どうして、この女は動かない)


女は竹刀を構えたまま、微動だにしない。


攻めてくるというわけでもなければ、守っているというわけではない。


ただ、立ち続けているだけ。


焦りも何もなく、だからといってこちらの動きを注視しているわけでもない。


まっすぐに向けられた目が男の視線と重なる。


なのに、見られているという感覚が抱けなかった。


まるで、鏡のように己の気配を向けられているような居心地の悪ささえ感じられる。



***



試しに、距離を詰めてみようにも、相手はその分だけ後ろに下がる。


どうしても、距離を置きたいみたいだな。


気づかれずに詰めることもできたが、そうやってもじりじりと距離をとる。恫喝するような剣気を飛ばしてみても反応はやはりなかった。


目の前の女はただ、竹刀を構えるだけ。


男に対して、距離を取りつつ、隙を伺っているのか。


男が、一歩踏み出すとつるべのように、一歩後ろに下がる。


試しに、一息に距離を詰めてみることも思いついたが、それはためらわれた。


探りを入れることも悪くない。手詰まりになるのは向こうだからだ。


その時、男の視界の端に入るものがあった。


男の脳裏にふと、考えが浮かぶ。



***



攻めあぐねていた男が、横へと身体を動かした。


彼女は動かない。


次の瞬間。


明後日の方向に駆けた男。


その方向に目を向けるやいなや、フーの表情が消えた。


剥き出しになった刀を向けた先には、彼らの試合を見学している子どもたち。


散り散りに逃げようにも、向かってくる男の迫力に、立ち上がることすらできない。


振りかぶる刀は、まるで戦斧を振り上げようとしているくらいの大振り。


力いっぱいに振り下ろされようとするそれを、逃げ遅れた子供がまぶたを見開いて見上げている。



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