78話 屋敷の地下に向かいますが、気付かなかったことに気付きました。
「ねえ、この建物、魔塵が湧いてる、というか、魔塵そのもので構成されているようにも見えるのだけれど」
肉スライムがいた上の建物につくなり、サマンサがそう言った。
「魔塵そのものが違和感を隠していたのかしら。こんなにボロボロな建物が、誰に指摘されることもなく、建て直されることもなくそのままなんてなかなかないもの。周りに人がいなさ過ぎて魔塵の影響が強すぎるようになったから気づけた、という感じかしら」
サマンサの指摘に対し、なるほど、と思ったが、いまこの建物に対して覚えている違和感が指摘されたせいで気付いたことなのか、魔塵の影響を脱したからなのかは正直分からない。
肉スライムと失踪を関係ないと判断したのもそのせいなのか? 少し考えたが分からなかった。
警戒をしつつ建物に入り、階段を下る。
前回来たときは浮ついていたせいか、それとも魔塵の影響を受けていたのか。どちらかの理由で気付かなかったことではあるが。
肉スライムが捕食している最中、あるいは捕食する予定になっているであろう死体。死後数日は立っているだろうが目立った腐敗はなく、刃物による傷がある。突き刺したと思われる傷ばかりで、刃渡りは分からないが……槍かナイフによるものと見立てた。死体はやはり従業員のものしかない、と判断した。
肉スライムは……一瞬目をこちらに向けたが興味を持たれなかったようで、そのまま死体を飲み込んでいる。鑑定しても、名前とエルフだということが出るだけ……どうしてこうなったかは分からないが、死体が告げてくれるとも思えない。が、魔塵があるということは何かを行使した結果なんだろう。
「おい、あんた」
エリナが死体の一つに向かって声をかけた。いや、話しかけたということは死体じゃないのか。
「今すぐ返事をして殴られずに済むか、声を出せないくらいになるまで殴られ続けるか。どちらか選べ」
「やれやれ、なんでわかったんだい? 偽装はできていたと思うんだが」
「猫の目で看破した。そういうことにしておけ」
なるほど……お手柄だな。
「ふうむ……動物を欺くことは考えてなかったな」
負け惜しみのようなセリフだが、すごく楽しそうな表情だ。
「初回はサービスしたが、これ以降の情報提供は対価を要求するよ。何でも知りたいことを聞いてくれ。俺が知っている範囲で応えよう。知らないことにも対価は要求するかもだけれどね?」
黒褐色の肌、その後ろにある壁が透けて見える。服も同様に透けている。
男は魔神だった。