74話 屋台巡りは終わらずですが、特に目的はありません。
なにか変わったものは無いだろうか、と考えながらうろうろしていたが、こういう時は幸運に任せたほうがいいのではないかという天啓を受けた。スキルでもないし神託を受けたわけでもないから、ただ単純に閃いた、という感じなのだけれど。
なので、一つ一つの店舗を見て回るよりも、棒を倒したりだとか、直感の向くままに一つに向かったほうがいい、という方針に決めた。
……あそこでいいか。
思い立って向かった先は、半ば廃墟のようにも見える、寂れた建物だった。
「こんにちはー?」
声をかけて入ってみるが、人の気配は感じない。幸運任せは失敗だったか……? というかまあ、幸運に任せるのならば前回とは違う賭場にでも行けばいいのだが。
まあ、稼ぎたいわけではない。メモリを満足させてやれるような、面白いイベントがあればそれでいいのだ。街中で事件が起こって欲しい訳ではない。
神様にも暇つぶしがほしいなら魔王でも作ってあげる、と言われたけど別に勇者になりたいわけではないのだ。その話の後に、魔王が芋虫より弱い存在として生まれてしまったわけだが。
俺は危険を伴わない生活をしていきたいのだ。なんなら引きこもってもいい。ただまあ、現状そういうわけにもいかないのだ。
閑話休題。
何か面白い掘り出し物か、あるいは危険ではないけど興味を惹きそうな事件があれば……といった感じだったのだが。
建物の中から、少し嫌な臭いがした。長期洗っていない犬だとか、動物園で感じる獣臭さとか……そういった類の、かなり濃い匂い。建物の外では、殆ど感じなかったような匂い。
店の看板があるか、と外にでて見上げてみたが……なさそうかな。
「メモリ、どうなってると思う?」
短い問いかけでも、メモリは質問の意図を察してくれる。従妹というか、本当に兄妹みたいなものだ。
「人身売買でもやってたんじゃないですかね?ちなみにこの都市では人身売買は禁止されていますが、他所で購入した人員を連れてきたりするのは問題ありません」
ふむ。店を構えているのだし、客という名目で入るのは問題なさそうだ。店員が出てこないから知らずに奥に入っていっただけ。
「誰かいませんかー?」
わざとらしく聞きながら二人で進む。地下への階段があったので、そのまま足を踏み入れ進んでいく。
人身売買の方がましだったのでは?と思えるような光景が広がっていた。
どろどろの肉の色をした、液体に数多の目玉を付けたナニカが、死体を飲み込んでいる最中だった。