56話 ヒドラのスキルを封じましたが、まだまだ強いです
風邪をひいたようなので、来週火曜日まで執筆おやすみします。
不死性を封じたところで、他の攻撃系のスキルは封じられていない。気を抜きかけたが、ここからが本番ともいえる。
尻尾によるスイングを受ける。障壁を貫通したりはないが、衝撃はしっかり食らう。
ブレス攻撃は物理扱いなのか、と思いつつも、広範囲に攻撃してくるので気が抜けない。防御範囲が広くて助かった。複数の頭が違う方向を向くし、後ろをとる、というのが実質不可能なのだ。
「っ、とぉ!」
エリナの拳弾が飛んでいく。頭が一つスタンしたようだ。スキルをねじ込むまえにスタンさせていたものと合わせて、気絶していないのは一つのみ。裏をとれないならば、正面突破してしまえばいい。
賢いかといわれれば微妙だが、少なくとも頭の数よりこちらの味方が多くないと裏取りは難しいだろう。現にここまで有効だった。
不死や回復のスキルが封じられている状態で、両側で気絶している頭。ヒドラにとっては重りにしかならないはずだ。動きも遅くなっているし、その見立てはたぶん当たっていると思う。なにか特殊効果でもついていたりしない限りは、無駄に豪華なマントを羽織りながら戦うのは無意味だ。マフラーが自転車に絡まって転倒したことがある俺としては切実である。
話が逸れたが、気絶した首は障害物でしかない。この間に胴体と真ん中の頭を狙う。
奴が尻尾を振るい終え、そのまま反転してこちらを向いて噛みついてこようとする。
「貰ったっ……!」
不意打ち的な感じで剣を前に出し、真ん中の首の進行方向に刃を乗せる。絵に描いたように上手く両断できた。口の下あたりから、血が出ないほど綺麗に。
ヒドラが一瞬不覚に陥っている瞬間に、二撃目の刃先を胸の中央あたりに突き刺し、上方向に斬りあげる。
ヒドラの心臓がどこにあるかは知らないが、不死や回復のスキルがないままに身体を半分に裂かれて生きていけたら、もうこっちとしては手段がないんじゃないか?サマンサならいい意見を出してくれるかもしれないが、少なくとも俺は思いつかない。
俺の不安を他所に、ヒドラはしっかり死んでそのまま消失した。少しは休めるか。
「マーク、少しいいかな……不死のスキル、レベル1だけど盗めちゃった」
「まあレベル1だから効果も薄いだろうし、そもそも働くか分からないし、死ななくても回復しない可能性が高いのだけれど……どうしよう?」
「売ろう。きっとお偉いさんが欲しがってくれる」
俺たちには無用のものだ、と信じたい。