23話 今回のことで、神様とお話です。
拠点の宿に戻ったのは夕方だった。ゴブリン退治の報酬を改めてもらってから、突然あふれてきた疲労をやり過ごし、清算や相談は明日以降にしよう、と簡単な食事をとりながら話し合い、身体を拭いてから寝床に。
「どうも、おひさしぶり」
夢の前、神様の空間……なんかいい感じの呼び名はないのだろうか。
研究室でいいか。どちらかというと書斎的な見た目だが、世界の実験をしているというのでそれでいいだろう。
「ほいほい、てみじかにー」
どうやら研究に追われて問題に気付いていないようだ。忙しいのも考え物か。
「ダンジョンが蒸気機関エンジンを吐き出した。機械の敵もだ。こういう形での技術の出現は、想定していたか?」
「わかった、報告あり……いやなんだって?作業は中止だ。君のわかる範囲でいい。可能な限り詳しく教えてくれ」
どうやら予想外の事案だったようだ。
「あーつまり、お金を稼ぐためにダンジョンに潜って最序盤のボスで、機械のゴーレムがでて、それがエンジンを。街の人、つまりパーティメンバーは機械の存在を知らない。ボス階層だけじゃなくて前後のフロアにも変化がある……まとめるとそんな感じか。とりあえず、君が原因ではない……はずだ。それは安心していい」
テーブルにつき、菓子パンを貰いながら話をする。いつぶりにアンパンとか食べるだろう? ラーメンとか貰えないかな。
「会議の席でがっつり食おうとするな。君の見解を聞かせてもらいたいんだけど」
「ああ、俺が入るときに、気づかないまま別の何かを入れてしまったりだとか、ほかの研究者の妨害とか。そのくらいしか思いつかないけれども」
「ああ、だけどどちらも正しくないと踏んでいる。おにーさん、そもそも科学の発展の理由っていうのは労働力の代行だったり軍事だったり医療だったり。まあいろいろあるんだけど、無尽蔵に戦力を作れるダンジョンにはどれも必要ないものなんだ」
そもそも外に出ていけない仕様にしてあるしね、と付け加える。
「だから、仮に君の知識の欠片から蒸気機関を再現できたとして、それを作る理由がないんだ」
「じゃあどうしてだ?機械たちはなんで生まれたのか……」
「この実験世界は失敗かもしれないなぁ……まあ、滅びることはなさそうだけども。ただ、空を飛ばれるとちょっとめんどくさいんだよね」
「どうしてだ?」
「ある程度以上の高度になると、『上』にこの部屋を認識するし、果てとしてビーカーの淵を認識する。
飛行船や飛行機くらいまでならいいけど、仮にロケットなんて作られたらそのままロストしてもらうしかない」
龍や竜は私のことに気づいてるっぽいしね、なんて呟いている。
「もしそうなったら?」
「私の部屋の中を、爆竹を抱えたおもちゃのロケットが飛び回るようなものだ。火事になってしまうかもね」
「その程度なのか……」
「とりあえず、こっちも原因を確かめるからそっちも頼むよ。発展速度はさすがにインフレしていないはずだから」
※この世界には天然の液体化石燃料がない設定なので、ロケットは現実的ではない…と思います。